池袋演芸場20 その4(古今亭文菊「あくび指南」)

仲入り後は春風亭ぴっかりさん。
これだけお集まりいただいて嬉しいですが、ちょっと減った? って。確かにやや減ったね。
ちなみに熱演が続いたためだろう、仲入り休憩の時間がやたらと短かったので、慌てて戻ってくる人も数名。

お熊という太夫が出てくる。
三遊亭白鳥作「鉄砲のお熊」かと一瞬思ったのだが全然違う。
よく考えたら、鰍沢だってお熊か。
小朝師が作家に書いてもらったという、「元禄女太陽伝」という噺。初めて聴いた。
「干物箱」とはツかないという判断なんだろう。まあ、干物箱は廓噺でもないし。
江戸にあこがれ、太夫になるため女衒に自ら買ってもらうお熊。
吉良討ち入りを前にして、男になるために吉原にやってくる大石主税の相手をする。
主税の正体が明らかになっていない段階で、幼名の「松之丞」と呼ばれるので客に悪ウケしてしまうが、これは本当の名である。
朝になると眉毛のつながってしまう、ユニークなフェイスの太夫を演じるぴっかりさん。

個人的に、女流噺家ももっと廓噺やればいいのに思っている。
女流の廓噺、初めて聴いた気がするな。
筆おろしを務める花魁をしっかり演じるぴっかりさんはすごいと思う。

もらったプログラム、しまいっぱなしで開演後一度も見ていない。
ヒザ前は誰だったか、覚えていない。でも、あえて確かめない。
そんな緩い感じでいたほうが、寄席というところは非常に楽しい。
結果、古今亭文菊師が出てきて、予想外に喜んだりなんかして。
若いのにヒザ前が非常に上手い人。
噺家は、顔の造作が個性的なほうが絶対にいい。百栄アニさんが羨ましいと文菊師。
女流のぴっかりさんと百栄アニさんに挟まれて、なんだか今日はアウェイ感だって。

五目の稽古の師匠がいたなんて振るから、あくび指南でなくて「稽古屋」かと一瞬思った。
1年半前にも聴いたあくび指南。その際も、菊之丞師のヒザ前だった。
ヒザ前には最適の演目。主役を食うことはないが、しっかり楽しいという。
そしてこれが、さらにグレードアップしていた。
あくび指南には、看板夫人が出てくる。女の師匠が稽古つけてくれるのだと思っていたら、あくびを教えるのは旦那のほうだという。
特に文菊師の場合、ここが最大のウケどころでもある。付き添いで来たアニイが大爆笑しているのだ。
だが、男の先生でがっくり来ている八っつぁん(たぶん)が、その後急に稽古でやる気を出すのも変。
このつながりのおかしさが気になり過ぎ、楽しめないことすらある。
柳亭小燕枝師は看板夫人を一切出さずに演じていた。このような問題意識を受けてのことと思うのだ。
文菊師の場合、前回聴いた際は、「がっくり来たままの八っつぁん」でその後続けていて、いたく感銘を受けた。
今回改めて聴くとまた変わっている。
八っつぁんのがっくり来ているはずの心中を、特に描写しない。アニイの爆笑を描くだけ。
だから、しぶしぶ稽古を始めるのであろう、八っつぁんの気持ちはわからない。ハードボイルドなのだ。
わからないということは、客が気にしなくていいということ。
うん、これはすごくいい。
男の先生が出てきたという爆笑をそのままに、すんなり稽古のシーンに入るのだ。実に自然。
大満足の一席。

ヒザの人も、プログラムをしまったままなので誰だったか覚えておらず、ちょっと楽しい気分を味わう。
三増紋之助先生だった。お見かけするのは何年振りだろう。初めての可能性もある。
ありとあらゆる手で、落語に疲れた客の気持ちをほぐしてくれる。
現在の私自身は、2時間半ぐらいでは少しも疲れていない。それでも寄席に通い出した頃の、このあたりでの疲れの記憶はしっかり残っている。
紋之助先生に感心するのは、実は客いじりを一切していないということ。寄席の色物としては、非常に珍しい。
客いじりというのは、もちろん色物にとっては大事なことだが、マイナスの要素も確実にあると思っている。
客全体とはしっかりコミュニケーションを取っているのに、客はいじらない紋之助先生。
よく考えたら、先に出た小猫先生もそうだ。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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