池袋演芸場21 その4(柳家小八「千早ふる」)

同じ芝居二回目でもって、同じ色物の先生が出てくる。
こういう経験が初めてで、なかなか新鮮。池袋下席の色物は、2組だけだが。
江戸家小猫先生も、毎日少しずつ変えてるんだなと感心。冒頭の鳥のマネが、初日はタカだったのに、ホオジロになっている。
かっちり決まった高座と思いきや、ツカミのネタがいくらでもあるわけだ。
ホオジロは「鳥取砂丘」と鳴くので覚えてくださいだって。
変えていてとても楽しいのだが、ここで眠くなった。今のうちに寝ておかないとと思って寝せていただく。

ちなみにヒザ前に飛ぶが、もうひとりの色物、三増紋之助先生も、違う芸を入れていた。
ボードの上の5色のコマのうち、任意の1色だけをまわすネタ。これ、袖から持ってきていたので、やると決めていたわけではなかったらしい。
芸人側にとっての寄席の日常性がうかがえるととても楽しい。毎日同じじゃやってるほうも飽きるわけで。

柳家小八「千早ふる」

ちょっとの時間寝たのでリフレッシュ。
柳家小八師。台所おさん師と交互出演。
高座を聴くのは初めてかもしれない。
私は真打ですと。そう見えないかもしれませんが。確かに、二ツ目だらけの番組で、この日初めての真打。
亡き師匠、喜多八のエピソード。
弟子入りすると普通は師匠のお宅に通うものだが、喜多八師は「来ると邪魔だ」と言って呼んでくれない。
だから、内弟子でも通い弟子でもない、非常に珍しい通信制の弟子だったと。
面白いのだけど、こういう育ち方だったから、師匠没後に遺族とトラブってしまったのだなと思うと、そこは笑えない。詳しいことは知らないが。
いつも自転車で移動する師匠に合わせ、弟子も自転車で、椿山荘での一門会に向かう。
師弟で新目白通りを流していたら、タクシーに乗った三三アニさんに抜かれた。一門の弟子にも格があるんだなと。
そして、大師匠小三治に、大学で物理を専攻していたのならそれを活かした落語をやれと無茶なことを言われた話。
そこから、アルキメデス先生の元に八っつぁんことハミルトンがやってくる。
あ、これTVで聴いたことある。昇進時の、柳家喬太郎の芸賓館だったか。探せば録画があるはず。

千早ふるのパロディである。
竜田川が「川の名前」というのが、落語を聞き慣れた客には斬新。
ニュートリノが地球に降り注ぐんだよという話から、スーパーカミオカンデまで出てくる。
あまりの見事なこじつけ具合とその整合性の見事さに、訊いた八っつぁんまで驚いている。
もっとも、整合性が良すぎるのが、パロディ落語としてはやや難点かもしれない。強引に寄せたほうが面白くなる。合っちゃったものは仕方ないが。
ただ、ニュートリノの種類のひとつが「ちはや」。あいにく最も大事なこれだけは、なににも掛かっていない。
小八師、ずいぶん早く降りるなと思ったのだが、案の定次の一之輔師が、噺の半ばでぼやいていた。

春風亭ぴっかり「所沢パラダイス」

また配分の関係で、クイツキの春風亭ぴっかりさんを先に。
友達が結婚したり出産したりする中、私は前座の大事な5年間を楽屋で過ごしてしまいましたと。
楽屋なんかに男はいない。いや、男性はいるんだけどお爺さんばっかり。
だからこうやって、高座から客席を見て相手を探すのですと見回して、「今日はいない」。
三遊亭遊かりさんも同じギャグを入れているが、客席をくさしてオチを取るのがぴっかりさんならでは。

アラフォー女の新作落語。
「所沢パラダイス」という演題名を調べようとしたが、検索しても出てこない。アラサーで調べたらわかった。
作ったときはアラサーだったって、ご本人も言ってたっけ。

バーでアラフォー女が愚痴をこぼすだけの落語。
バーテンに、私に似合うカクテルを作ってくれと頼むと、いいちこのお湯割りが出てくる。
噺の内容、あらかた忘れてしまった。
新作落語の場合、脳内に上書きする領域を持っていないので、新たな情報を保存しにくいのである。
でも楽しかった記憶はある。
こういう噺はぴっかりさんが成功しているように、アラフォーの主人公を明るくかわいく描かないと、絶対ダメだなと思う。
交互出演で今日は出ていない三遊亭粋歌さんも、そういう方針だと思う。
自虐の噺だからといって、「等身大」という隠れ蓑でもってみっともなく描いていくと、客がどこかでずっこける。そういう女流の先輩もいますが。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。