池袋演芸場21 その3(橘家文太「六尺棒」)

林家あんこ「洒落小町」

番組トップバッターに戻る。林家あんこさん。
芸名の由来と、寄席よりも電車のほうがコロナはずっと危険じゃないですかと。
本編は洒落小町。
噺自体は知っているのが、生で聴くのは間違いなく初めて。音源で聴いたこともあったかどうか?
米朝の速記本で読んだ記憶しかない。
女のバカを描いた極めて珍しい噺だと、米朝自身紹介していたはず。
もっとも、本当に馬鹿なかみさんではない。すぐにシャレを思いつくので賢い。
女が真にアホで出てくる噺とは、上方には多分ない「半分垢」だけの気がする。
女房のお咲さんを訪ねてくるのが甚兵衛さんなのが、上方種の名残だろう。大阪の甚兵衛さんは東京では隠居に相当する人。
東京落語の甚兵衛さんは、与太郎に負けず劣らずのふわふわした人で、とても人にアドバイスなどできない。

亭主の女遊びを止めさせるため、甚兵衛さんのアドバイスを受け、シャレづくしで応対することにするお咲さん。
シャレはなぞかけによく似ているので、一周回って時流に乗っている気がする。
シャレのひとつひとつは忘れてしまったが、現代のシャレもたくさん入って楽しい一席。
ひとつ覚えている。シャレの元のほうを忘れてしまったが「産前産後の育児休暇」。
育児休業は産前産後休業の後にあるものだから、変だな。「産前産後に育児休暇」ならOK。いちいち疑問に思うほどのことじゃないけど。
ともかく、女流落語家が古典落語を掛けるにあたり、なにを売り物にすればいいか考えぬき、女が主人公の珍しい噺を持ってきたものか。すばらしい工夫。

あんこさん、センスある人なのにマクラが手さぐりなのだけ欠点に思う。手探り過ぎて、話がしばしば飛ぶし。
思い切って客をある程度無視し、少々乱暴なキャラでもいいから自分の好きなこと喋ったら、もっとウケるんじゃないかと思う。
一般的に求められる心掛けとは真逆だが。
そこだけがちょっともったいないと思うのだな。

ちなみにあんこさんは1年振りに聴く。昨年は神田連雀亭。
笑ってください」を3人がやってしまい爆死した席以来。
ちなみに、後の二人は「三遊亭兼太郎」「柳家花飛」である。この人たちはすでに取り返している。
ようやくこれで全員取り返した。
笑ってくださいという客への強要、絶対ダメだというのは、今でも私の不動の信念。
やるんなら、歌武蔵師ぐらい強烈にやって欲しい。
そんなの無理だと思う若手は、扇遊師や小せん師のように、「ボーッと楽しんでください」にしておけばいい。

橘家文太「六尺棒」

昨日取り上げた、春風亭朝枝さんに続くもうひとりの新二ツ目は、橘家文太さん。
またしても「落語界のアオリ運転」こと、師匠・文蔵をマクラに振っている。定番マクラができてよかったね。
デキのいいマクラは毎日同じでも聴き飽きない。
ただ、「(お客さんの中には文蔵を)知らない人もいるかもいるかもしれませんけど」と語り出すのだが、それは付けないほうがいいんじゃないかと思った。
ディープな池袋だからではなく、浅草だろうが新宿だろうが、「文蔵ぐらいお客さんは先刻ご存じですよね」という体で進めたほうが、よくないですか。
そうすると知らない客も食いついてくると思う。
初日には聴かなかったマクラが追加されていた。お母さんがやっている、地元北九州の小料理屋の話。
前座はお年玉と一緒に毎年200枚は手拭いをもらう。4畳半に置ききれないから実家に送っていた手拭いの話が、お母さんの小料理屋(兼カラオケスナック)と絡む。

本編は六尺棒。私の大好きな噺なのだが、それほどは掛からない。
前座でいいから出してくれないかなといつも思っている。
登場人物3人(2人にできる)で、「オウム返し」が入るので、前座でもやっていい噺だと思うのだが。ただ、マクラを振らずに入る前座噺としては、尺が足りないかな。
文太さんだって、前座時代に掛けたことはあったかどうか? ぜひ売り物にして欲しい。
その文太さんの六尺棒、非常にスタンダード。
もっとも1か所だけ、六尺棒で親父に足元をはねられる際に、反対俥よろしく座布団からジャンプする見せ場で盛り上がる。
スタンダードにやるのがとても楽しい、落語らしい噺である。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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