池袋演芸場21 その5(春風亭一之輔「夢八」)

春風亭一之輔「夢八」

春風亭一之輔師を、2週続けて聴ける。しかも仲入りなのでたっぷり。
極めて贅沢な話だと思う。
私もディープな落語ファンなのに、一之輔師のことは最近、ラジオパーソナリティとして認識しているかもしれない。
ラジオも決して余芸の範疇じゃないが。
本業の落語ももっと聴かないといけない。それも、できれば日常空間である寄席がいい。

みなさんのおうちには、テレビラジオはないんですかと口を開く一之輔師。
もう、落語会が次々中止という話は景気が悪いからだろうか、しない。
マクラはそこそこに本編。八兵衛さんという登場人物が出てくる。
あ、夢八だ。上方種の珍品。「夢見の八兵衛」の略。
プロフェッショナル落語の流儀で、一之輔師が持っていることだけ知っていたが、めぐり逢えた。

夢八自体、極めて珍しい噺だが、私は昨年夏、柳家小せん師のネタ出しを聴きに江戸東京博物館まで出向いた。
小せん師の夢八はとても楽しかったが、一之輔師のものはこれと大きく異なる。
八兵衛さんは、一之輔師の非常に得意なアホキャラとして描く。与太郎よりさらにアホ。
初日に聴いた干物箱では、多才な一之輔師の、ギャグに頼らない側面を見て嬉しくなった。
いっぽうで、この夢八は、噺の骨格はさておいて、ギャグしかないような噺である。
ひとりの噺家にそれだけ多くの要素が詰まっている。阿修羅みたいな一之輔師。

八兵衛さんは夢ばかり見ている。最近は起きたまま夢を見ている。
起きたまま、マンガの吹き出しのように(「ここらへんにぽわぽわと」とビジュアルで説明)夢を見る。夢の中でまた夢を見てこれが数珠つなぎになる。
寝るときは一斉にこの数珠つなぎが寝るが、起きるときは大変。なかなか順番に起きてこない。
なんだかわからないねと大家。落語の客も、なんだかわからないかもしれないが、別にそれでいいらしい。

八兵衛さんが、夢の中でお伊勢参りをしているという描写も、なんだかさっぱりわからない。
あえてわからないように説明しているというのではなく、ここに説明の手間は掛けない方針らしい。
丁寧な小せん師の夢八で理解している私はわかっているが、ここはたぶん、客もポカンである。
でも夢の話だから、ふわふわした理解のほうがむしろいいということだろう。
よく考えたら大変な荒業だなこれは。客が脱落してしまう危険もあるから、強心臓と人気の裏打ちがないとできない。

「つり」の番をしてくれと、大家に騙されて寝ずの番をする八兵衛。
八兵衛、釣りなら見ているだけでも好きだからと請け負う。
夢見がちな八兵衛に、寝ないため、床を薪ざっぽうで叩けと指示する大家。

なぜかこの噺から、お煮しめをより抜いてフィーチャーする一之輔師。
八兵衛さんは人参がやたら好きらしい。
「にんじん、あまーい」と唱えながらお煮しめをパクつく。
なんだこのギャグ。大爆笑。
八兵衛さんは、丸っきり子供じみたキャラでもないのだが、純真なんだろう。
「にんじん、あまーい」「はす、きらーい」のギャグと、噺の骨格とまるで関係ない。関係ないのに違和感ない。
鋭い観察眼により、ギャグを入れて構わない噺だと見抜く一之輔師。

吊るしたむしろの向こうに男がいるのを発見する八兵衛さん。
こっち来て話しませんかと声を掛けるが、男は知らんぷり。
八兵衛さん、「いきなり初対面で距離を詰めすぎて嫌われた」と思い、「よく言われるんですよ距離が近いって。悪いところは直しますから」と勝手に反省してなおも声を掛けている。
人間心理の裏側をむき出しにする一之輔ワールド全開。他の人にはマネができない。
そして、言いたいことはとりあえず言ってみる八兵衛。言ったセリフ自体はなんだったか忘れてしまったのだが、「とりあえず言ってみたい」ところに、変に共感してしまった。
「らくだ」で、丁の目の半次が怖いのに、なんだか余計なことをつい言う、一之輔師のくず屋を思い出す。

手拭いをねじりながら地に返り、「なんでこの噺始めちゃったのかな」と一之輔師。
手拭いをねじる時間を急がないで、インテルメッツォの時間にしているらしい。
小八が悪いんですよ。2分半も時間残して下りてきやがって。何の噺を掛けるか考えてたのについ、だって。
マジメなことを言えば、小八師が客のため、一之輔師の時間を増やしたに違いないけど。

もうお気づきだと思いますがとは言いつつ、露骨なネタバラシをしないのが師の粋なところ。
ちなみに首吊り死体の強烈な顔は、2年前の暮れに池袋で聴いた「睨み返し」と同じだった。
強烈な睨み返しの顔を、別の噺で目の当たりにしてとても嬉しい。そういえば、楽しいあの睨み返しについては、ギャグふんだん路線ではなかったな。
そして化け猫が取りつき死人が口を開くが、先ほどのお煮しめを再度登場させて、ギャグ回収。
夢八やっている一之輔師、とても楽しそうだ。

大満足です。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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