池袋演芸場21 その6(春風亭百栄「マイクパフォーマンス」)

古今亭文菊「馬のす」

若きヒザ前の達人、古今亭文菊師は「馬のす」。本当はそんなには若くない。
この前の出番のぴっかりさんからは「文菊ちゃん」って呼ばれてた。
これまた、初日に聴いたあくび指南同様、こんな場面で最適な演目。だからヒザ前の達人だというのだ。
寄席に通うと、こうした地味な演目にしっかり存在価値があることがよくわかる。
CDやYou Tubeで落語を聴くこと、なんら否定するものではない。私も好む。
だが、そうすると大ネタばっかり好きになったりなんかしてね。なかなかCD化されないような噺も、寄席では楽しいのである。

気の持たせようだけで、一切なんの中身もないままラストまで引っ張る高度な噺である。
その高度さ、テクニックはすべてくだらないムダ話のために用いられるのである。実に壮大な資源のムダ使いではないか。
「馬の尻尾を抜くとなぜよくないか」を散々引っ張って客の気を持たせたところで、しかしなんの大した結論もないという。
世間がコロナで騒がしい中、寄席ではこんなバカバカしい中身のない噺をやっている。
たまらないね。
文蔵師の馬のすと共通部分があったのだが、そちらから来ているのだろうか? 髪の毛3本しかない床屋の客の話。
これは小満ん師から出てるんだっけ?

春風亭百栄「マイクパフォーマンス」

池袋のトリ、春風亭百栄師。
紋之助先生の曲独楽まで観ておいて、トリの前で帰る失礼な人もいた。
よほど百栄師匠が嫌いなのだろうか。あるいは新作嫌いか。
でも、百栄師の新作を聴かないとしばしば損をする。この芝居でも出したらしい「落語家の夢」もそうだが、この師匠には落語界ネタの新作がある。
古典落語のファンこそぜひ聴かなくちゃ。

いつもの春風亭予測変換マクラから。この日は「百んが」の名前は出ない。
いにしえの落語番組にはしばしば解説が入ったという話。師も幼少の頃から落語を聴いて育ったようである。
「子ほめ」を一席終えると、アナウンサーがインタビューをしてくる。
このアナウンサー、落語のことを熟知している。だから「子ほめは前座噺だが真打までよく掛ける」「落語の基本オウム返しが盛り込まれている」などという結論を、噺家さんに問いかけ、スムーズに引き出すことができる。
そのやりとりを再現する百栄師。
だが、不勉強な女子アナがやったらどうなるだろう。
今度は、演題も噺家の名前も読めず覚えず、その場の雰囲気で質問してくるインタビューアを再現。
子ほめの一番の盛り上がりの意味を訊き、さらにそれ以外の場面をいったいどう楽しめばいいのかと質問して、演者をぐさぐさと傷つける。

この長いマクラ、どうやらこの日のネタ専用らしい。
マイクを使って喋ることについての新作落語「マイクパフォーマンス」。初めて聴く噺。

柳家権太楼独演会で、権太楼師匠が一席終えた後、マイクを持って語り出す。
「私権太楼、この高座を持って引退させていただきます」
客席は、権太楼やめちゃうのか、やめるなと大騒ぎ。
その騒ぎの中、権太楼の背後から、太鼓のバチを持って忍び寄る柳家さん喬。卑怯にも背後から権太楼に襲い掛かり、ボコボコにされた権太楼たちまち血だらけ。
そしてマイクを奪い合い、交互に罵り合う権太楼とさん喬。

なんじゃこりゃ。
プロレスのマイクパフォーマンスを落語界に置き換えた、非常に百栄師らしいバカ噺。
ひたすら罵り合って、落語会の客を楽しませる権太楼・さん喬の両師。もちろん、池袋の客もこれを聴いて非常に楽しむ。
さん喬に向かい、「てめえ、くせえんだよ」と言い放つ権太楼。
もちろん、すべてがショーであり、予定調和なのである。

良くも悪くもこれだけの噺。
落語ファンにはたまらない一席。
ああ、プロレスファンだったらさらに楽しめたのに。プロレス観ておくんだったなんて思った。
その道のオタクを扱うことにかけては、柳家小ゑん師に負けていない百栄師。

この日の池袋も、興奮して帰途についたのでした。
ところで、大阪・神戸は寄席もお休みになってしまったようだが、東京は呑気に国立以外みなやっている。
子供も学校休みになったし、私は両国でも行こうかな。

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作成者: でっち定吉

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