池袋演芸場21 その1(三遊亭ぐんま「たぬき」)

落語会は次々中止である。
おまんまの食い上げになる噺家さんが憤っても不思議はないが、一部に、ことさらに怒る対象を見つけている噺家がいるのは解せない。
そういうもんじゃないでしょう。
このシーンでおこなう政府批判もちょっとズレているし。
会を強行しない主催者を非難するのは、さらに違うと思うぞ。
強行して、落語会でコロナに感染する年寄りが出た日には目も当てられぬ。いや、それ自体が大いなる悲劇だというのではなくて、そんなことがあったら会を強行した側がどこまで攻撃されるかという心配が。
といって私から、怒っている噺家を強く批判するとなるとそれも違うのだが。
後でブログのネタにはするかもしれない。「中止する主催者にはインテリジェンスがない」とか言ってる三遊亭鬼丸師など。

さて寄席だけは、なにがあっても開いている。国立演芸場はお上の要請で中止になったが。
落語が聴けなくなるといけないから、別に仕事が落ち着いたわけでもないのに、行けるうちに行っておこうと思う。聴き貯めだ。
こんなご時世に出歩くなって? お前みたいなやつがいるからコロナが広がる?
そんなご意見もあるだろう。逐一反論はしない。
でも、トイレに行ったらちゃんと石鹸で手は洗うぞ。池袋には洗わないジジイもいるが。
ともかく、同じ芝居に二度行くというのは、初めての経験。それだけ中身が詰まっている。
この日もまた、非常に楽しませていただきました。
交互出演のため初日は出ていなかった、柳家小八師、林家あんこさんが顔付けされているのもいい。
これでユニークな新作の三遊亭粋歌さん(小八夫人)が入っていればコンプリートだったが、まあいい。

前回は初日に出向いたというのもあるが、この7日目は行列も、席の埋まり具合もやや少ない気がする。
でも、前座が下りてから結構集まってきて、感触としては初日と変わらない。
この日も、百栄師のチラシをスマホで見せて200円割引の1,800円。

狸の札 三遊亭 ぐんま
洒落小町 林家 あんこ
のめる 二ツ目昇進 朝七 改メ 春風亭 朝枝
六尺棒 二ツ目昇進 門朗 改メ 橘家 文太
江戸家 小猫
千早ふる 柳家 小八
夢八 春風亭 一之輔
(仲入り)
所沢パラダイス 春風亭 ぴっかり
馬のす 古今亭 文菊
三増 紋之助
マイクパフォーマンス 春風亭 百栄

 

三遊亭ぐんま「狸の札」

前座は三遊亭ぐんまさん。白鳥師の二番弟子のこの人は初めて聴く。
初めてだが、前座香盤の2番手にいるから、次に二ツ目昇進予定だ。二ツ目になったら漢字の群馬になるのでしょうな。

メクリを指し、群馬出身のぐんまですと。
落語付随でない自分自身のマクラを軽く話していたが、そちらの内容は忘れてしまった。
本編は狸の札。ちょっとびっくりするぐらい上手くて衝撃。
惣領弟子の青森さんも前座の頃から上手かったし、白鳥一門恐るべし。落語を知らずに入門した師匠の弟子が、古典落語が実に上手いという不思議。
私は、変にウケを狙いにいかず基本に忠実に喋る前座が好きだし、そういう人のほうに将来性も強く感じる。この芝居の初日に出ていた、百栄師の弟子、枝次さんなど典型例。
だがそういった基礎レベルなど、ぐんまさんはとうに突き抜けていて、二ツ目の土俵でもって上手い。
きっとオチケン上がりなのだと推測するけども、オチケン出身者も、変な癖でなくプロらしさを身に付ければ、たちまち戦力になるのだなと思う。
前座なのに、噺の中に新二ツ目2名の名前まで入れて遊ぶ余裕がある。そんなことをしても全然不自然じゃないし、いやらしくもない。
そして上州も入れていた。

具体的に、どこが上手いか。
教わった噺の細かい部分を、編集して適度に省略するのが上手い。
私は「説明過剰落語」が嫌いなので、こうした工夫はとても嬉しい。
一例だが、親方がたぬきを救う際、子供たちが、一瞬間を置き構えてから「仲間だな」。
「さてはおじさんも、たぬきの仲間だな」という、ありがちなわかりやすいセリフじゃないのだ。
親方のまたぐら抜けるシーンでは、「ふんどし替えたほうがいい」。
これもごく普通には、「またぐら抜けたときに親方のふんどし覗いたんですよ。ずいぶん汚れてますね。そろそろ替えたほうがいい」なんて、みんな長い文章を分けて喋る。
それが悪いというのではないが、実にセリフの手短かなぐんまさん、オツだね。
それから芝居のような空間の使い方、目線の動かし方も目立つ。
細かい部分で感心することが多々あったのだが、開口一番のため大部分忘れてしまったのが残念。私はメモ取らないから。
柳家喬太郎師が前座のとき、ひょっとしたらこんな感じじゃなかったのだろうかと思った。当時観てないし知らないのだけど。
ぐんまさん、15年後に新作落語のホープとしてバリバリ売れてるかもしれない。
もしかすると私は、すごい人の前座時代を目撃したのかもしれない。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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