毎年なにかしら書いているNHK新人落語大賞のオンエアがあった。
私はオンエアの時間出かけていた。NHKより先に出したい、そちらの記事を書く。
新人大賞の記事目当ての方は、3~4日後にまたいらしてください。録画をゆっくり見てから出します。鮮度落ちるな・・・
らくごカフェの23日昼席は、「くろい足袋の会」。メンバーは、台所おさん、柳家緑君、柳家花いちという花緑門下の3人。
予約を入れて行ってきた。予約で1,500円。
今月4回目の落語。ちょっと多いかな。でも今、本当に落語が楽しいです。
らくごカフェでこのメンバーというと、毎月第4火曜の「柳家花緑弟子の会」に私はいつも来ている。こちらはお旦のおかげで500円という格安の席。
実際翌日24日にも弟子の会があって、おさん師も久々に顔付けされている。
だが来秋の新真打ふたり、緑君、花いちが一度に見られるのだ。今回はこちらにしよう。
そしてふたりの兄弟子おさん師は、今いちばん面白い噺家といって過言ではない。
当日券が出ていたのでオヤと思ったのだが、大盛況でありました。こんなに入れていいのかなと。
そして、演者はとても客に近い。この会だけのことじゃないけどね。
あくび指南 | おさん |
トーク | おさん・緑君・花いち |
(仲入り) | |
四人癖 | 緑君 |
茶の湯 | 花いち |
トップバッターはおさん師。
あとで緑君さんが説明していたけど、本来は今回、おさん師がトリの順番なんだそうだ。だが、せっかくだと真打決定の花いちさんに譲ったのだそうで。
おさん師は今日も怪しさ全開。いい天気が続きますね、今日も自転車でやってきました。
今日はこの後、真打決定のふたりとともにトークします。
そして大長編マクラに。
持ち時間30分のうち、20分マクラに使っていた。
いきなり、「天井裏でガサゴソする音がする」と。話の持っていきようがアクロバティックなのだが、ネズミのこと。
「ネズミの話なんですけど」と言って始めないところが動物的センス。
おさん師は西荻窪在住らしい。小さな2階建ての1軒屋を借りている。そこにネズミが出たので駆除しようと薬局に出向く。
駆除しなきゃいけないのだが、同時にネズミにかわいらしさも感じるおさん師。
爆笑マクラだったのだが、おさん師の渾身の漫談について、詳しく載せるのは申しわけないからやめておきます。
それに、書き起こして面白さを伝える自信もない。
どこかで聴いてください。もっともおさん師、作品として練り上げるつもりがあるかないかわからないけど。
寄席に最近よく呼ばれているおさん師だが、寄席では20分のマクラは聴けないものな。非常に得した感じだ。
その面白さは、ストーリーに基づくものではない。スリリングな語り口で、いったいどこに連れていかれるのかわからなくてハラハラするのだ。
小池都知事を思い出した。小池知事が、必要以上に文節を区切ってスピーチすることを発見したのは清水ミチコである。
まさかおさん師から学んだわけでもあるまいが、もったいを付けたスピーチに共通項を感じる。
言葉を区切って話すと、それで「もたついた」感じが出てしまう人もいるだろうが、間違いなくスリルが増す。
おさん師は「天然」に映るし、実際かなりの部分がそうなのだろうけども、自分の話術の効果について少なくとも無頓着な人ではない。
区切り気味のおさん師の話術から、もたつき感は湧かない。
爆笑マクラで本編はどうでもいい感じになってしまった? でもちゃんと一席、10分で務め上げるおさん師。
あくび指南である。稽古のマクラを振らなければ、短い噺だ。
おさん師のあくび指南、看板夫人の出てこない、私の好きなバージョン。このスタイルは、柳家の先輩、さん遊(柳亭小燕枝)師から聴いた。
看板夫人が出てくると、その後八っつぁんががっくりしてしまうので、笑いのインパクトは強いのだが、つながりに断絶が生じてしまう。
看板夫人がいないとムダがない。八っつぁんはとっとと先生について稽古を始めるのだ。
そしておさん師の八っつぁん(名前は出てこないが便宜上)、ものすごく間違える稽古ではないのは意外だった。
ウケどころについて、意外なぐらいすごいギャグをブッ込んでこないおさん師。
でも、これがもう、たまらないぐらい面白い。八っつぁんが吉原に引っかかってしまうだけで大爆笑。
おさん師は、自分の面白さを完全に把握している。面白い演者が、よくできた面白い落語を演じるのだから、必要以上に頑張らなくても爆笑になるのである。
あくび指南の八っつぁんは変態天然ボケである。その稽古を見ている師匠も、怒ったりする人ではなくて適度に突っ込む。
つまり高座の上に、ふたりの人物による楽しい漫才が載っている。
八っつぁんはおさん師の分身。あくびの師匠はおさん師自身を俯瞰的に眺めているもうひとりのおさん師であって、変態おさん師を操っている。
そしてさらに、このふたりの漫才自体を俯瞰する、生身のおさん師の姿まで見えてくるではないか! 高座の上のすばらしいメタフィクション。
いや、これは絶品です。
寄席で出会えたら喜んでください。台所おさんの魅力に充ち溢れたネタ。
おさん師、繰り返すが今いちばん面白い噺家なんではないかと。