くろい足袋の会 その2(トーク:改名について)

30分の台所おさんワンマンショーを終えて、そのままトークに入りますとおさん師。
とても狭いらくごカフェの高座、3人も座れるのか? と思ったら、高座の脇に座布団をずらし、おさん師はこちらに座る。
緑君、花いちの真打予定者ふたりが登場。この同期のふたりを同じ場所で観るのは初めてだ。互いにマクラで話題は振っているけども。
それにしても、密な空間。
トークやたら盛り上がって、30分もやっていた。そんな予定ではなかったみたい。

おさん師は一段下がって、司会ということらしい。
このグダグダの司会振りがたまらなかった。どういうことだろう。
「グダグダ過ぎて逆に面白い」じゃない。ストレートに面白い。
台所おさんという人の動物的魅力に満ちた対談。といって、新真打の前で自分が出しゃばったりしているわけでは一切ないのだ。

おさん師、ふたりを紹介して、「来年の11月下席からだっけ? 中席からだっけ? 真打に昇進します」。
本当は9月下席から。全然違うじゃねえか。
師匠から真打昇進をいつ聞いたのかとインタビューするが、同じところを堂々巡りしてふたりに呆れられる。
それにしても、仲の良さが自然とにじみ出てきて、実に素敵な一門。
そして8月に聴いた大岡山落語会の、メンバーの異なるトークでもそうだったのだけど、一番口数の少ない花いちさんが自然と話題の中心になっていくのが面白い。
出しゃばる人がひとりもいないので、面白いところへどんどん話を振っていくと花いちさんが主役になるらしい。まあ、出しゃばる噺家なんて大成しないだろうが。

今年はコロナでもってなんでも遅れ気味。勧之助師にも言われたが、8月頃に真打の話が上がってこないので、もう半年間は塩漬けだろうと思っていたと緑君さん。
そして花いちさん、真打昇進の電話を師匠からもらったが、地方の会の件だろうと思っていた。仕事だと思って電話に出たのでがっくりしたんだと、これは緑君さんが勝手にそう言っていた。

話題の中心は、名前をどうするか。私もこれが一番気になるところだ。
名前を決めないと、手ぬぐいも後ろ幕も作れない。早く決めたいそうだが。
花いちさんは今の名に愛着があるみたい。なんなら「花一」にでもしたいところだが、一朝一門の、しかも一花さんとツいてしまうからダメ。
「花壱」という候補があるらしい。そのまま「花いち」のまま昇進もあるだろうと。
あと、尾藤イサオの父君も名乗った「松柳亭鶴枝」を継ぐ話もあるそうで。上方に「かくし」師匠がいるが、字が鶴志なので大丈夫。
(※ 鶴志師は今年亡くなった)
これもいい名前だが、柳家でいたい気持ちもある花いちさん。
花いちには愛着があるが、二ツ目昇進のときは「花道」になりたかったんだって。このスラムダンク由来の名は、勧之助師、旧名花ん謝が師匠に打診して却下されたもの。

緑君さんは、まともな候補はひとつも上げなかった。花緑一門らしいキラキラネームだから改名は確実だろうが。
ただ、ネタをたくさん放り込む。
おさん師と同じ「台所」の亭号にしたらどうだと、これは金馬襲名の手伝いに行った際に、市馬師その他師匠方から言われてるそうで。
「台所釜太郎」とか「台所釜吉」はどうだって。
中には、(花緑師もそばにいるのに)「緑姫」はどうだとか、キツいシャレをかます師匠もいる。
他には「みどり」とか「かよこ」とか。泰葉も空いてる。このあたりはお約束ネタ。
そして、アニさんのときはどうだったんですかとおさん師に水を向ける緑君さん。

前座のときは「花ごめ」だったおさん師、楽屋でしくじる際、市馬師に「台所おさんにしちまうぞ」と言われていた。
「台所おさん」と「台所鬼〆」は、先代小さんの考えた名前だが、誰も名乗らなかった。そのためしくじった奴に対し「おさんにしちまうぞ」という定番ネタが柳家にはあったのである。
師匠が二人落語の打ち合わせでさん生宅に行った際、おさん師はかばん持ちで付いていった。
その際に二ツ目の名前どうするんだとさん生師に振られ、「台所鬼〆」になりたいと声を上げたおさん師。師匠は嬉しいような戸惑ったような顔をしていたそうで。
鬼〆になった時点で、真打昇進時おさんになることはほぼ確定していたので、真打の際はスムーズだったと。
だが、おさん師は披露パーティをするかしないか、半年悩んでいたそうで。昇進の半年前にようやく会場を押さえた。原宿の東郷会館。
緑君さんは、「名古屋から出てきた何も知らない田舎者なので」、東郷会館でパーティすると聴いて、おさん兄は右翼なんだと思ったんだって。
事務処理の不得手なおさん師だが、がんばって開催にこぎつけたそうで。

緑君、花いちのふたりは合同パーティをするみたいだ。
昇進に掛かる事務処理は、もっぱら花いちさんがしてくれるんだと緑君さん。
ただし師匠に話をするのは緑君さんの仕事。花いちさんが直接師匠に話するのが怖いんだって。そんなことないよと花いちさん。
ただ、花緑一門の共通認識として、師匠が怖い最後の世代なんだそうで。五番弟子以降は、師匠が丸くなったのであまり怖がっていないんだと。
緑君さんいきなり、「師匠は花いちさんの新作落語が好きだって」と話題を振る。花いちと圭花は、人と違う道を進むから偉いんだそうだ。

おさん師は一年前に真打昇進が決まってから、師匠にたっぷり稽古をつけてもらったそうで。
新真打の二人も、そうしてもらえるらしい。
楽しいトークから、自然と師匠に対する敬意がにじみ出てきて、しみじみ感激しました。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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