スタジオフォー巣ごもり寄席(中・入船亭小辰「高砂や」)

高砂や/御神酒徳利/盃の殿様/不動坊火焔

入船亭小辰さん、結婚式のマクラを振っていたので、予想どおり「高砂や」へ。
一般的にこの噺は、謡を教わる八っつぁんをいかに陽気に、躁病に描くががポイントだと思う。
だが、少々異なる道を進む小辰さん。
NHKで権太楼師に暗さを指摘されていた小辰さんだけあって、陽気にやりすぎることはない。
だが構成において、とっておきのギャグを用意していた。それが豆腐売りの秀じいである。
八っつぁんは隠居にヒントをもらい、豆腐売りの声を真似して無事、謡の発声をクリアする。ここまでは誰のでも一緒。
小辰さんは、背景だけの豆腐屋に、肉付けをした。これが秀じい。「はいはい秀じいの豆腐屋がやってきましたよ」と語りが入ってから「とうふ~い」と声を出す豆腐屋。
しかも、「ラッパじゃなくて声を出してくる」豆腐屋なんだそうだ。時代背景までチラッと浮かんだりなんかして。
八っつぁんが豆腐屋の真似をすると楽屋のおかみさんがみんな表に出てくるというクスグリは、しばしば入る。
さらに小辰さん、秀じいの真似から稽古をしていると、隠居の近所の人がみんな豆腐屋が来たと勘違いするというのを加えていた。
聴いたことはないのだが、私のバイブルである書籍「五代目小さん芸語録」に、花緑師がこのギャグを入れていることが書かれている。
高砂やというと、市馬師から来ているのかなと思うのだが(円楽党の王楽師もそう語っていた)、小辰さんのものは花緑師から来たのかもしれない。

そして「助け船~」で、落語を知っている客が手を叩こうと構える間もなく、先を続ける。
八っつぁんのおかみさんが出てきて、「婚礼にご容赦」というサゲ。いにしえの型であり、柳橋先生(6代目)まではこのサゲだったらしい。
現在の「助け船」は、上方から来たサゲだそうで。
もっとも、「婚礼にご容赦」と言われても、何のことかわからない。「巡礼にご報謝」の洒落らしいのだが、それもなんのことだか。
検索すると、歌舞伎の「楼門五三桐」が出てくる。よくわからない。
まあ、サゲなんてわからなくても、雰囲気が出ればいいと思う。

ところで、悪くなかった一席に、小辰さんの迷いを感じたのは私だけでしょうか。
小辰さん、師匠・扇辰そのものになりたいんじゃないか。そんな気がしてならない。
そして恐らく、その道が一番ニンを活かすのだ。
でも、師匠そっくりでは需要もないし、師匠本人にだっていやがられるだろう。
弟子というものは、敬愛する師匠から、義務的に離れていかないとならない。その方向を模索中なのではないだろうか。
それでもって、暗めのトーンで語れる、革新的なギャグ入りを開発したのが高砂やということか。
NHKでも出していた「替り目」などは、完璧なオリジナル。だが、まだすべての噺がそうなっていないのだろうと。

小辰さんは25分。
本編はともかく、ヒルハラを仕掛けたのだけとても残念。

次が、つくづくがっかりした柳亭市弥さん。香盤は小辰さんのひとつ上。
つい先日激賞したばかりなので、反動が激しい。
当ブログは、噺家が世間に喧嘩を売ってるような(主に立川流)事例を除き、高座そのものに対し演者の実名を出して批判を繰り広げたりは、あまりしない。
そうでもないって? でも、常に批判モードから脱却しようとする意思はある。
だから旧Yahoo!ブログから移行の際にも、批判記事をいくつか消したりしている。
それはそうと、激賞したばかりの市弥さんについては、バランス的に多少批判しても許されるでしょう。
褒めた際には、私の中での評価がとうに確立していた小辰さんをしのぐ評価をしたのだし。

この人の高座は3年振りである。前回は神田連雀亭で聴いた。
その直後に連雀亭は体制の変更があって一時休業に入り、市弥さんはメンバーから抜けた。そのため聴くチャンスがなかった。
イケメンが確立している人だが、私に言わせれば川平慈英である。川平慈英ということは、つまり博多華丸でもあり、セサミストリートでもある。
まあ、イケメンには入るだろうが。

続きます。

 

祇園祭/高砂や

作成者: でっち定吉

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