柳家かゑるさんは黒門亭の番頭のひとり。今日も整理券を配っていた。
そのかゑるさんは、この日入籍したとのことで、袖からおめでとうと声が掛かる。相変わらず客をほったらかして遊ぶ黒門亭。
この日の番組を作ったのはかゑるさんだそうで。トリは決まっているので、それ以外を呼んだらしい。龍玉師とペー先生の顔付けで、これで新宿カウボーイがいれば、最近やった独演会のメンバーままだと。
交際ゼロ日で結婚したというエピソードを語って、夫婦の噺がしたいのだが、「子別れ」がネタ出しされているのでどうだろう。
トリの師匠がシャレの効かない人(まだ来てないですよねだって)だが、でもやっちゃいますと言って年配夫婦を描いた新作落語。
階段下の演題名には、作者の名も書いてあった。
(追記)※ 先日ラジオでたまたま知ったのだが、漫才の「2丁拳銃」小堀だそうな。
仲入り前は蜃気楼龍玉師で、私は実に久しぶりである。
二ツ目の五街道弥助だったときに、3回続けて「鹿政談」を聴いたのを思い出す。いいけど。
調べたら真打昇進って2010年じゃないか。無沙汰にもほどがあるな。
かゑるさんが結婚でおめでたいので、私は泥棒の噺をと。
小噺で、「仁王」と「鯉が高い」。仁王など今さらウケるわけはないのだが、形として必要なのだろうか?
「鯉が高い」は、ウケなくても別にいいと思うのだけど。
龍玉師ウケないマクラを振ってしれっと「真打といってもこういうものだとおわかりいただけると思います」。
そろばんを弾く亭主。おかみさんが反物買ったりしていて勘定が合わない。あ、もぐら泥だ。
東京ではかなり珍しい噺だと思う。いつもの「鈴ヶ森」や「夏泥」もいいのだけど、こういう噺にもっと陽が当たって欲しい。
上方の同じ噺、「おごろもち盗人」は、泥棒噺のエキスパート笑福亭松喬師をはじめとしてTVでもよく掛かる。私にとっても、上方版がスタンダード。
この噺、生で聴くのは初めてである。改めて、音源だけだと楽しさ半減の噺だと実感。
龍玉師の所作、泥棒の腕を縛る亭主と、縛られる泥棒との描き分けが実に楽しい。なるほど、一部に根強い人気がある噺家さんなのがよくわかる。
上方のものとは違い、亭主は本気で怖いところが持ち味。そして、泥棒の手を縛っておいて声も掛けずに寝てしまう。
泥棒のほうは、気弱なおかみさんを使って亭主を懐柔しようとするのだが、どうにもならずくじけ気味。
縛られた泥棒、本気で痛そうなのだが、にもかかわらず、可哀そうではなくてなんだか楽しい。
別に、泥棒で悪い奴だからこらしめてもいいということではない。腕だけ縛られて放置され、犬に小便をひっかけられるという、シュールな状況が楽しくてならないのである。
龍玉師は、おかみさんの驚き方もリアルで、それに客が驚く。
かなり所作を強調した芸。やりすぎているのだが、それでもって見事に向う側に突き抜けている。こんな魅せ方もあるのだな。
最後に出てくる酔っ払いがまた、実にいい造型。
心底酒が好きな奴で、こんな酔っ払いだったら酒飲ませてやりたくなる。
いや、黒門亭らしいすばらしい一席でした。
この日は、拍手の早いファンはいなかった。珍しい噺でも、落語ファンならサゲはわかるはずだが、じっくりお辞儀を待って拍手。
客もいい形。