林家ぺー
仲入り後の林家ペー先生は、黒門亭への登場自体が実に珍しいそうで。本当は落語やりたかったって。
黒門亭に限らず、普通の寄席にだってそれほど数多く出ているわけでもないのだけど、出れば鉄板。決して外さない。
私は過去2度ほど聴いたことがある。
昔はギター漫談だったが、現在は普通の漫談(余談漫談)である。
ご本人はご自身の年齢のことなんか言わないけど、なんと77歳だって。
上から下までピンク。靴下もピンク。ピンクのハンドバッグを持っていつものスタイルで登場。ピンクのトレーナーには「余談」。
ピンクの喜寿、カッコいい。
狭い黒門亭の、高座の前で歩き回りながらネタを振るが、狭い黒門亭だと、思わぬ効果がある。催眠効果があってなんだか乗せられます。
ハンドバッグは後ろの高座に置いてしまう。まあ、せっかく持ってきたってなにか使うわけじゃないのだけど。
東京ドームでのイチローの話題にちょっとだけ触れるが、自慢気なところなど一切ない人なのでそんなに引っ張りはしない。
内容は、前回の東京オリンピック開催中に弟子になってから、5年間三平の付き人をしていた際に見聞きした、昭和40年代の芸能界のエピソード。
ぺー先生の漫談も、圓歌になった歌之介師と同じく、先が決まっていない。様々なエピソードを脈絡なく振る。ときどき芸能人の誕生日の話が混ざる。
時間の都合、どこで切ろうが常に楽しい人である。
古今亭菊之丞「子別れ」
黒門亭は前座を含めて5席。あっという間にトリの菊之丞師だ。
熱気ムンムンなので冷房が入っているが、効きすぎて最後は寒くなってきた。
菊之丞師は、前座として楽屋入り後、初めてペー先生にあいさつした際のエピソードを手短に振る。
ぺー先生は開口一番、「誕生日いつ?」。前座菊之丞が答えると「アホの坂田師匠と一緒だね」。
「弔いが麻布と聞いて人頼み」「弔いが山谷と聞いて親父行き」をサラッと解説して、「強飯の女郎買い」に。
え? ちょっと衝撃。
ネタ出ししている「子別れ」って、上中下の「下」にあたる「子は鎹」のことだと思ってた。頭からやるんだ。
そして、圓生はじめ何度か聴いたことぐらいはあるけども、「強飯の女郎買い」ってこんなに面白い噺だったのだなと改めてびっくり。
紙屑屋がいいんだ。地に足がついていない感じの紙屑屋がとてもニンに合っていい味。幇間と女が上手い菊之丞師のもうひとつの味。
ストーリー的には、隠居の弔いに出た熊さんが、軽くひと騒動起こして岩田の隠居になだめられ、それから吉原に出かけていって途中で紙屑屋に会い、合流するというだけのもの。品川で馴染みだった花魁と会ったりするエピソードは実に短い。
資料的価値を除けば、一見面白さなんか感じられない。だが、紙屑屋と熊さんの絡みを楽しく描くおかげで、とことん面白い。
なるほど、弔いの後の遊びというのは、人生の裏表をまとめて語り尽くしているのだなと変な関心をする。
まあ、強飯の女郎買い単独で掛けたとして、果たして楽しいかどうかはよくわからないのだけど。