Zabu-1グランプリ2021(下)

 

予選Cブロック。

金原亭乃ゝ香さんは、巡り合わせで前座の頃から聴いたことがない。
そして聴いてガッカリ。現状、ビジュアルを除いた武器がひとつもない。どういう道に進めばいいか、本人も悩んでいそう。
私は決して、美しい女性を憎むものではない。大好きだ。
でも、落語のほうがさらに好き。
かわいいだけで大会のメンバーに選ばれてもな。昨年、桂ぽんぽ娘さんを選んだ番組なのに。
乃ゝ香さん、笑点特大号の女流大喜利には選ばれそうだが、それはいいとしよう。
アラフォーのぴっかりさんから、いじめを受ける若い娘、そして逆襲する役回り。
・・・それも陳腐だなあ・・・
そうしたシーンで役回りをきちんと果たす、ぴっかりさんやつる子さんはやはり偉いと思いつつ。

桂三四郎さんは芸歴17年。二ツ目の番組に呼ぶほうもどうかしている。
柳亭小痴楽師よりも先輩なんだよ。
三四郎さん(いや師をつけるべきだが)の落語、NHK新人落語大賞はじめたまにテレビに出るが、以前から一度もいい感想を持ったことがない。
師匠・文枝の創作落語の、悪い面だけ選ったような落語。
この改作桃太郎に出てくる外国人も、30年以上前のいかにもな造形じゃないか。すでに滅んだ戦後の芸協新作みたいでもあり。
新作落語として「MOMO」のタイトルが付いているようだ。以前聴いたことがあるが、新作落語をこよなく愛する私が保存していないのは、そういうこと。
文枝師が本当に30年前に作って、すでにやめていそうな落語。今どきこんな落語やってる人、売れてる新作派にはひとりもいませんぜ。
「桃太郎」のストーリーにツッコむところに、共感できない点が最大の問題か。
ちなみに、高座以外でもあまり好きじゃない。
この人、マクラでも、トークでも、笑点特大号の若手大喜利の挨拶でも、いつも同じ話ばかりしている。
ミッドナイト寄席のトークでも、それを突っ込まれていたっけ。
センス自体は高いのに、なにかがひどくズレてるんだよなあ。たぶん、「ズレ」の点については後輩噺家も同意すると思う。
予選は圧勝だった。その事実にケチを付ける気はない。

三遊亭わん丈さんは、珍しめの「さじ加減」。
入船亭扇辰(テレビ)、三遊亭歌奴の各師、あと講談の宝井琴調先生から聴いた。私も好きな噺。
5分で人情噺にチャレンジしたのはすごいが、やはり無理だった。チャレンジ精神を褒めたたえるしかない。
わん丈さんに投票した人は、ファンと、あと前回優勝の幻影を追った人か。

ちなみに当ブログ内で、いつも「わん丈」を検索している人がいる。「志らく」検索と拮抗している。
日ごろは読まないのに、たまに「わん丈検索」でその記事だけ拾い読みしていくらしい。いいけどさ。
さらに最近「伯山」も検索が増えているが、この人については大したことは書いていない。先日ナイツのラジオのゲストだったが、それほど楽しくなく、ネタにするのはやめた。

決勝は桂三四郎さんから。
「色事根問」。これも、普段やっている別タイトルがあるのだろう。
「色事根問」という演題は、「稽古屋」を前半で終わるときに使うもの。ご存じアホの喜六が、甚兵衛さんから、おなごにモテる秘訣を聴きだす内容である。
「鷺とり」の前半を「商売根問」というのと同じこと。
予選の桃太郎よりは、こちらのほうがずっといいと思う。女にもてたい男には、桃太郎と違って普遍性があるからだ。
喜六を茨城のヤンキーに替え、そして古典の、「ぼた餅」のくだりをウーバーイーツに替える。
この噺は決して悪くない。勝てなかったのは、残り2人が強かっただけであり。
好きになれない最大の理由は、三四郎さんの発声かもしれない。

同点くじ引きで勝ち上がった瀧川鯉白さん、鰻屋でまたもサイコパス発揮。
大胆な流行りもの導入にびっくりした人も多かったろうが、これ自体は、まんじゅうこわいの座布団抱きしめと同じようなもので、むしろベタなのだ。
この人の真のセンスは、さらにその先にあると思う。ベタなネタを意図的に入れているおかげで、聴き手をその先に誘導できるわけだ。
古典落語を流行りものにぶつける落語自体は、珍しくもない。それ自体は、たぶん戦前から歴史がある。
鯉白さんの最大の価値は、迷惑系ユーチューバーのマインドそのものに深く迫り、鋭く描き出したところにあるだろう。
そんな鋭さにより、設定が浮いていないからすごい。
古典落語に出てくる爺さんがいきなりユーチューバーになる点、もしかするとプロの新作落語家でも異を唱える人がいるかもしれない。でも、演者がバカになって堂々進めると、戸惑いは吸収されてしまう。
そして迷惑系ユーチューバーに被害を受ける、善良な鰻屋。最近の、ホリエゾンの攻撃による餃子屋の悲劇も思い起こすではないか。
そして鯉白さん、クレージーなのに可愛げがあるのもいい。そのおかげで、許容範囲を振り切ってアッチ側に行かなくて済む。
弟子のこういう噺で喜んでいる師匠・鯉昇もやはりすごい。
個人的には、今回は鯉白さん優勝。
よく考えたら、今回芸術協会から出たのはこの人だけ。芸協カデンツァ、本当に頑張って欲しい。

最後に優勝の林家けい木さん。
モノマネのおかげで勝ったと本人語っていたが、鯉白さんとの差についてはまあ、確かにここかな。
でも、大会の途中にモノマネを平気で振る、企画の緩さ自体はかなりいいと思う。
だがもちろん、本編もよかった。
古典落語「長屋の花見」の改作という建前は維持しつつ、実質新作落語。それは決勝の3人ともそうだが。
ただこんな落語をやると、下手な人は噺から浮き上がってしまうのだ。ひどいときには本人だけ面白がっている。
ぶっ飛んだ落語にフックを掛けておくのは実に難しい。けい木さんは即物的なウケを狙わず、変な世界で困っている人を丁寧に描写する。
この点、古典落語と変わらない工夫。
よく考えたら、長屋の花見自体屈指の難易度を誇る噺。その改作も著しくハードルが高いのだ。
軽々とこなしているが、二ツ目としては、これは大変なことである。
木久扇一門から、また楽しい人が出てきたものだ。
ちなみにこの改作・長屋の花見は三遊亭鬼丸師の作った落語とのこと。けい木さんの披露する鬼丸師のモノマネだけは、全然似ているように思わなかったが。

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作成者: でっち定吉

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