BS朝日「御法度落語おなじはなし寄席!」から その7「だくだく」

同じ日にZabu-1グランプリがあったため、おなじはなし寄席ファンの方、お待たせしました。
Zabu-1の記事はアクセス多く、なかなか好評でした。
「おなじはなし寄席」のほうも、第3回放送分までは好評です。
第1回はこちら

刺激的な番組、第4回は「だくだく」。
毎回オープニングとエンディングで掟破りだと強調しているこの番組。
同じ噺の対比という主観点とは別に、東西の実力派ががっぷり四つに組むその構造に、私はもっとも惹かれている。
落語の東西交流は盛んだが、テレビでもって東西の落語が両方掛かるということは少ない。この点において、見事な企画になっている。
東西対決でもあるのだが、後ろの演者にとっては勝ち負けに打って出るのは厳しい。全体の調和を図りつつ頑張るところが落語らしいのだ。
私は東京落語を聴く頻度が圧倒的に高いのだが、でも「落語ファン」である。西も東もない。

さてだくだく、私も非常に好きな噺。
金はなくても楽しく遊ぶウデは持っているのが昔の町人。私も見習いたいものである。
ここ数年、東京では流行っているようで、二ツ目さんからよく聴く。真打からはそうでもない。
そして上方では「書割盗人」。東京では、鈴々舎八ゑ馬さんから聴いている。
このタイトルの東西対比、実に「らしい」のである。東京代表と、上方代表の命名法といえる。

落語の演題:東西比較

桃月庵白酒師は、コロナから回復してよかった。中止した落語協会の寄席も再開したし。
番組収録は、もちろん罹患前。
白酒師と、桂南天師は同世代だが、入門も年齢も、南天師が1年早い。
序列を大事にする落語界では、先輩のほうが大変なトリを務めねばならない。

白酒師のだくだくは、テレビで聴いたことがあったかなという程度。
アフタートークで千原ジュニアに、本来の過激なマクラが今日は控えめだったと暴露されていた。
浅草お茶の間寄席やBS11あたりなら、平気でやりそうだが。
「小三治」という名前を出しておきながら、膨らませないところがよそ行きに映るのだろう。でもそもそも、人間国宝をいじる人なんて、他に天どん師がいるぐらい。十分過激ではある。
この「おとなしめのマクラ」で見事な考察を魅せる白酒師。
落語は「起承転結」のうち、承と転しかないのだと。確かにその通り。
白酒師は語ってないのだが、「一目上がり」なんて噺はこれにぴったりだ。承転転転。
なんだかよくわからない状況で始まり、場面を替えつつ実に適当に終わるわけだ。サゲだってどうでもいいわけで。

面白落語の第一人者である白酒師、意外と絵のギャグに注力しない。関係ない小三治の色紙ギャグ(もうすぐ値が上がる)が入るのは強烈だが。
二ツ目さんはこの部分でだいたい頑張る。面白ければ頑張ってくれて構わないのだが、さすが真打の余裕。
というか、もともと短いバージョンしか持っていないとアフタートークで語っていたが。どなたに教わったのでしょうか。
なげしに槍を描くため、八っつぁんを踏み台にするシーンがなかった。これが入っていないのは珍しい気がする。
泥棒が長屋に入ってくるのは、八っつぁんが飯を食いにいっている昼間下見した後、夜再来というパターンと、夜いきなりやってくるパターンとがある。
白酒師のものは、短いだけあって展開的にスピーディ。いきなりやって来るほう。
円山応挙あたりと一緒に、「九代目正蔵の色紙」を盗んだつもりの泥棒。あまりにもさりげないギャグで、最初気づかなかった。
九代目って当代(こぶ平)のことだが? 揶揄するなら揶揄しないとギャグにならぬ。
なにかテレビなのでやってて途中で日和った?
一昨日も書いたが、三平いじりは落語協会の共有ギャグで、後輩も堂々と使う。それに比べると、最近評価のすっかり高くなった正蔵師はギャグになりづらくなってきたということはある。

クスグリは地味にオリジナルのが多い。忍者ネタとか。このあたりを足したのかな。
想像を膨らませて遊ぶのだから、忍者道具なんてのはふさわしいと言える。
序盤、先生に対する「よくないんですよ」の繰り返しも白酒師オリジナルか。どこかひねている白酒師にふさわしい。

しかしなんというか、「だくだく」って、こういう噺だったろうかという感想。
もともと真打からあまり聴いたことがないこともあり、この噺のスタンダードな型がよくわからない。
東京のだくだくはこういう噺ですよと言われると、なんだか違う気がしてならない。じゃあ、どういう噺なんだと言われると困るのだが。
ただ、さまざまな二ツ目さんから聴いて脳内にできあがっているだくだくは、もっとパントマイムが多かったり、笑いどころがはっきりしているように思う。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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