BS朝日「御法度落語おなじはなし寄席!」から その8「書割盗人」

この番組、勝手に東西対決させて観ている人も多いだろう。
私も勝ち負けを決める気はないのだが、今回の印象としては西の南天師の勝ちかなと。
その感想が、昨日の記事になんとなくにじみ出ていたかもしれない。
だが、ひと晩寝て考え直した。白酒師の、番組全体を考えた軽い落語にはやはり高い価値がある。だから、繰り返して聴くたびに味が湧いてくる。
東京の噺家はいつも、全体を考えての構成をぶつけているのである。番組の全体も考えるのだ。
上方の人がまったくそうしないということもなかろうが、寄席の歴史が違うため、意識の差はまだ大きいはず。

ところでだくだくは、「遊んでいるふたり」と、「槍を持って突き刺す八っつぁん」の両方が見えることで初めて楽しい噺と思っていた。
こんな構造の噺は、他に「尻餅」があるぐらい。
だが、最初からふざけたふたりを、楽しく描く白酒師もいいな。
さらに言うなら、軽い「だくだく」を前に据え、両演者のクスグリのカブリを最大限に抑えようとした人が制作側にいたのなら、見上げたものだ。

それはそうと、桂南天師の「書割盗人」は素晴らしいもの。
第2回の塩鯛師と同様、すでにギャグが出ていても、あまり気にしないことにしたようである。
クスグリというものは大事だが、それでも本筋あってのクスグリだ。
大して本筋のない場合も多々あるけど。

とてもいい番組なのに、ナレーションは毎回アクセントがおかしい。
今回は南天師の所属する「桂米朝一門」の「ベい」を高く発音する。
もっとも私も正しく発音しているかどうか? 「志ん朝」と同じようなアクセントを付けて読んでしまう気がする。
「志ん朝」は、上方のプロも正しく発音できないややこしいアクセントなのに、それと「米朝」が同じでは、実はおかしい。
フラットに読むのが正解のようだ。

南天師は、バーチャルリアリティのマクラから。さりげないが地味に下ネタ混じり。
ちなみに白酒師は3Dテレビ(もう廃れている)からだった。どこからも、同じ噺につながるものだ。
短い噺を伸ばす白酒師と逆に、長い噺を詰める南天師。見事な編集。甚兵衛さんがいちいち「絵を描く」ことに疑問を持たずに進める。
サゲまで新たに付けて。
本当は、どこかでやったことあるサゲだろう。さすがにいきなりはできまい。

上方落語にしては珍しく、八っつぁんぽい主人公だ。上方のエースキャラ、喜六でないことは確か。
気は心だと言う。意外なところで、2回目の長屋の花見とつながっている。
絵描きのディテールにこだわるのが、私には珍しい。さすが南天師、大阪芸術大学の出。
ちなみにミルクボーイのオチケンの先輩。

そして落款代わりに朱色の墨が入る。やっぱり上方のほうが絵もカラフルだ。
カステラもカラメルと卵の色が付いているし、なげしの槍にも白い絵の具でハイライトが入っている。
後で南天師、画を見せるテクニックを話していた。最初だけ入念に説明しておいて、あとは言葉でパーッと説明していくと画が浮かぶのだ。
昨年東京でだが、三遊亭遊馬師の蒟蒻問答で、まさにこのテクに基づき見事な画が浮かぶ様を思い知ったところ。プロから言葉で聴け、再確認。

泥棒は昼間のうちに下見に来る。上方だとこうなる、というわけではない。
上方でも、スピーディにやりたい人のなら、いきなり泥棒が来ても別にいいだろう。
猫や仏壇のろうそく(あるいは火鉢のやかん)も、東京のだくだくにはよく入る。白酒師のだくだくにはなにも入っていないので、番組の構成にいかに貢献しているかまたここで思い知る。

高座のあとのトークはなかなか有益であった。
マクラで誰も付いてこなかったら、そのままだくだくには入れないと白酒師。
確かに、客が付いてこないこともありそうだ。
その場合は別の泥棒の噺などに入るという。たぶん転宅だな。
南天師は、上方では「~のつもり」ではなく、古い型だと「~の体(てい)」だという。
そういえば、私が唯一聴いた鈴々舎八ゑ馬さんの「書割盗人」でも、そうだった記憶がある。

白酒師と違い、南天師はわりと気楽にできるという。
落語という芸能そのものには、東の人のほうが慣れていそう。だがナンセンスについては、西の客は寛容で一日の長がある。
あと、噺家相互のパクリのルールは面白かった。
人のギャグを使わせてもらうのは、西では「一言断る」という。南天師は東のルールは知らないと言っていたが、東でも同じはず。
勝手にやっちゃいけないのだ。

さて次週は、まんじゅうこわい
東京では前座噺であるが、上方では屈指の大ネタ。どう編集するのだろう。
文菊師のものは巣鴨スタジオフォーで聴いた

(上)に戻る

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。