BS朝日「御法度落語おなじはなし寄席!」から その9「まんじゅうこわい」

毎度おなじみ、「御法度落語おなじはなし寄席!」。放送も数えて5回目となりました。
BSだから全国ネットだが、この番組の最大の貢献は、東京のファンに上方落語の面白さを知らしめることではないかな。
さて今回は、まんじゅうこわい。
私は日ごろ「饅頭こわい」と書いていますが、ひらがな好きなので別に前者でも構いません。
今日一日だけで済ませてしまうのだが、別につまらなかった回ではない。

上方では大ネタなので、いったいどう取り上げられるのだろうと思っていた。
大長編である上方のまんじゅうこわいは、分解すると「好きと怖い」「九郎蔵狐」それから独立タイトルのないおやっさんの怪談に、饅頭こわいとなる。
前半のワイガヤ「好きと怖い」を、上方では「涼み台」というのだと、今回初めて知った。
今回の月亭遊方師のものには、狐とおやっさんがなかった。結局、東京版と同じようなシンプルバージョン。おやっさんはそれでもちょっとだけ登場。
物足りない人もいるだろうが、私はテレビの落語というものを非常に前向きに捉えているので、こんなのもいいと思うのだ。
ちなみに文菊師からも、もっとずっと長いまんじゅうこわいを実際に聴いたのだが、テレビ版は極めてコンパクト。尺に合わせてやるのが仕事である。

毎回、噺家を紹介するアクセントがおかしいのだけは困る。
今回はナレーションではなく、司会のアナが「古今亭文菊師匠」の「ブン」にアクセントを置いて紹介。
初代の名前だし、明らかに間違いだとも言いづらい。
だが普通には平板に読むところ。ご本人は平板に挨拶していた。
まあ、なぜ「文楽」が冒頭高なのに、文菊や文治、文蔵が平板なのか。ちゃんと考え出すとキリがないのだが。

もともと達者な文菊師、ますます腕を上げている。
とにかくナチュラルである。威勢いい部分と、落ち着いた部分とのメリハリがたまらない。
威勢がよすぎて怖いほうに振れてしまう人もいるが、文菊師は絶対に平和な世界に帰ってくる。
キザなのもギャグで消化しきるし、この人が苦手だという人、いるでしょうか? 互いに異なる複数の文菊像を誰でも持てるのではないかな。
師匠からもらった「ウサギおいし(旨い)」、以前聴いたときに「四つ足」の代表に挙げていたのだけオヤと思ったのだが、「動物の中で旨いもの」に代わっていた。

月亭遊方師はめったに聴く機会のない人。Wikipediaには新作をメインにしているようなことが書かれているが、どうなんでしょうか。
吉本所属の噺家、ラジオにあまり登場しなくてなかなか聴けない。文珍師ぐらいになると別だが。

高座に勝手に湯飲みが置かれていて、「いらない」と言ったら本番でコーヒーに代わっていたというマクラの小噺。
面白いので、いずれ東京で誰か若手が(無断で)やりそうな気がする。まあ、遊方師のオリジナルかどうかがまずわからないけど、許可は取ったほうがいいね。
主催者によっては、やたらと高座に湯飲みを置きたがるみたい。名人を呼んだことにしたいのかな。

好きなものの「二番目が酒」は、落語のフレーズの中でも私が最も好きなものかもしれない。
「アン殺」は抜くつもりだったのに抜きそこなった遊方師。半笑いなのもいいじゃないか。
似たようなクスグリとして、小言幸兵衛に出てくる「安政の羊羹」というのがある。

似たような展開を続けて聴いてみると、このようなワイガヤ噺、やはり東西の違いが浮かび上がってくる。
東京のほうが、個性の描き分けがなく、みんな同じムードだ。長屋の花見と同様。
個性の塊、与太郎まで埋没している。それが悪いのかというと、全然そうではないのだが。
いたずらの理由については、東西の違いではなく、演者の個性の違いによる部分が大きいだろう。
文菊師のものも、別に本気で復讐してやれということはないのだが、遊方師のものは上方の中でも極めて穏やかないたずら。
このまんじゅう責めに遭う光さん、そもそも嫌な奴ではないので、復讐のためという理由が使えない。シャレで面白がっているという姿勢がとても強い。
このあたりは、どう処理するかはともかく、演者の皆さんは納得いく世界を作っていただきたいものだと思う。

遊方師、アフタートークで先人の話を力説する。
「変えてはいけない」ものもあるが、「変えなくてはいけない」ものもあると。古いギャグは変えなきゃいけない。
いい話だ。誰の言葉かな。先代文枝か、先代春團治か。

来週は反対俥。上方の「いらち俥」は聴いたことあっただろうか。
新作派の林家彦いち師が登場だが、古典も上手いのだ。
反対俥は国立で聴きました
桂かい枝師は、最近全国ネットでお見掛けしていなかったので嬉しいですね。

 

作成者: でっち定吉

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