BS朝日「御法度落語おなじはなし寄席!」から その10「反対俥」

ネタ不足に陥った当ブログですが、週末の放送でもって追いつきました。テレビ放映を見ての即出し。

数えて6回目の放送は反対俥。上方ではいらち俥。
新作派の林家彦いち師を持ってきたのはさすがのセンス。かつて小朝師に「東京で一番速い(人力車)」と言われたとのこと。
彦いち師を先にキャスティングし、その後上方で該当者を探したなんてエピソードが冒頭に出ていた。
彦いち師の反対俥は、国立で聴いた。だが、その際マクラが非常に長かったため、結構端折ったみたい。
今回、圓蔵から習ったという真の彦いち版反対俥を知れたようだ。
残念ながら「林家彦いち 反対俥」で検索しても私の記事は2ページ目なので、流入はほぼなかった。

上方の桂かい枝師は彦いち師と同い年。ただ、入門年次は5年遅い。だからだろう、第1回以来の、上方がトップバッター。
今までのところ、先攻後攻は序列でもってきっちり決めている。先輩がしんどい思いをするわけだ。
かい枝師、数年前に演芸図鑑をはじめ全国ネットで、楽しい新作でよく出ていた。ちゃんとVTRは取ってある。
ここから、もうひと踏ん張りをお願いします。

いらち俥は初見。だが、かみさんの出てくる結末を除き、非常に既視感溢れる高座であった。
「違いがない」ことは冒頭で話していたのであり、ストーリーが同じことはわかっている。だが、クスグリが既知のものばかり。東京の若手からどこかで聴いているギャグの数々。
かい枝師がどこまで自分で作ったか、そして上方落語家たちがどこまで作り上げたかはわからない。東京の噺家がもらってきたものもあるのだろう。
いずれにしても、人間のアイディアって有限なんだなあと。
落語というものは、同じ噺を繰り返し聴くもの。だが、クスグリが主の噺に限っていうと、飽きてしまうことがあるのだ。
なんとか、知識がない前提で聴きたいと願いつつ、今回に関してはどうにもならなかった。
事前に彦いち師に相談したというのも、むしろよくなかったんじゃないか。それだけ予定調和が強まる。

グリーン車の団体ヤクザについてのマクラもいま一つの印象。ただ、もう少し年齢が行ってトボけた味が加わると、これが楽しいのではないだろうか。
サゲは小佐田定雄先生に作ってもらったとのこと。
小佐田先生のことはそれはそれは尊敬しているが、後世に残るサゲかというと? 唐突すぎる印象がある。
あとかい枝師、上唇を二三度舐めていたが、あんまりいい癖じゃないよね。

かい枝師、最近どうなんだろう。別にこの収録、悪い高座だなんて思ったわけではない。
ただ、もう若手ではないし、味のあるベテランでもない状態。
現在の非常に中途半端な位置づけが、全国ネットに呼んでもらえない理由のようだ。それがなんだか腑に落ちる一席。
海外公演はいいのだけど、日本国内では壁にぶち当たっているのではないでしょうか。
そんなこと私になんか言われたくないだろうけど。それに、私の知らないところで師匠(先代文枝)譲りの見事な人情噺だってやってるに違いないし。
早く壁をぶち破っていただきたい。トシ取ったら勝手によくなる気も濃厚にするが。
「キタに行ってくれと言われて箕面に行ってしまう」のを入念に説明して突っ込まれるメタギャグは、非常にかい枝師らしいなと。
でもこのギャグもベテラン向きではない。

彦いち師はさすがの安定感。今、東京でも屈指のハイレベル高座を見せてくれる人。
空港で飛行機の出発を待っていると、アナウンスで「機長が来ていません」。これに対する無責任なおじさんの発言というマクラは、繰り返し聴いている。
だが、飽きない。
彦いち師は、ドキュメンタリー落語の大家。同じ話を練り上げ続けているのだ。
そういうモードに入って聴くので、楽しいギャグに頼らず反対俥を聴ける。
そして、同じ噺でも、同じように語るわけではない。

非常に気に入らないのが、噺を聴いてる女子アナ。
マクラ聴いて「エー」とか言うな。そんな声上げて落語聴くのはNHK演芸図鑑のエキストラ客だけだよ。
マイクの音量をあえて大きくしていたらしいスタッフもよくない。

「客の反応が悪いのでもういっぺん飛び越える」「市電の前を横切る」「トシとってやる噺じゃない」などのクスグリは、彦いち師の噺にも入っていたはずだ。だが、かい枝師を聴いて、あえて抜いた様子。実に器用な人。
病人の俥屋が、顔を本当に真っ赤にしているのはさすが。先代小さんもびっくり。
川に飛び込んだ俥屋の前を、扇子の魚が泳いでいくクスグリは、林家つる子さんがもらっている。
つる子さんのには圓蔵ギャグも入っていて、誰に教わったのかなと思ったのだが、彦いち師からだったとは。
彦いち師の反対俥、破天荒な割には、上野を過ぎて着いたのは大宮。意外と近い。
国立で聴いたときには五所川原まで行っていたのだけど、全然違うじゃないか。

スピーディな人力、という見かけの印象に目をくらまされてはいけない。
実は強い胆力で聴けてしまう、見事な一席でありました。
芸者でサゲていたが、まだ先もできるのだろう。上野から乗る汽車は北に向かうわけで、大宮に着いてしまってもいいのだ。

アフタートークで、上方では「ワアワア言うております」が続くとお客がワアワア言うと、マクラで使うギャグを披露するかい枝師。
でもこれ、東京では「冗談言っちゃいけねえ」が続くという同じギャグがある。東西の違いを言おうとして、結局同じという一種の落語あるあるであった。

来週は「あたま山」だって。また、いよいよ禁断の噺を持ってきたな。しかも一朝師とは。
上方では「さくらんぼ」という。

その11「辰巳の辻占」

 

作成者: でっち定吉

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