BS朝日「御法度落語おなじはなし寄席!」から その11「辰巳の辻占」

おおむね毎日更新のでっち定吉らくご日常&非日常です。
もうじき「おなじはなし寄席」のオンエア開始だが、前の週のネタでご機嫌をうかがいます。

斬新な企画のこの番組、残念ながら、徐々に飽きられてきたのでは。
「反対俥」の回から、急に私のブログの個別アクセスが落ちました。
他の記事のアクセスは多いので、私のせいではなく番組自体の問題だと思う。
まあ、仕方ない。よくできた企画でも、何クールも続くはずはないし。

「あたま山」の回はかなりモヤモヤした。
春風亭一朝師の一席はハメモノ入りで実に見事。とはいえまったくスタンダードな型じゃないので、変わった噺を見せたい番組趣旨的にはずっこけ気味な気がする。
落語研究会ならこれで大成功だった。
そして笑福亭鶴笑師。
パペット落語は以前から好きになれない。
私の中では、トム・ブラウンや錦鯉などの芸にカテゴライズされる「幼稚ネタ」である。
もっともトム・ブラウンなんかすっかり慣れてしまって、今や普通に笑える。錦鯉も恐らくそうなる。
いっぽうでパペット落語は、いつまでたっても生理的にハマらない。
別に、正統派・本寸法をよしとして「こんなの落語じゃない!」とか言いたいわけじゃないのだ。異端なら異端で構わない。でも、異端の芸という感じでもない。

「辰巳の辻占」の回はとてもよかった。
東京は、私の大好きな隅田川馬石師。兵庫県出身で、その気になれば上方落語を違和感なく喋れるはず。
「二番煎じ」にケチな主人、浪速屋さんを出していたのはすばらしかった。もちろん、上方落語そのものはやるまいが。

前回から、噺家の序列でなしに順番を考慮するようになったようだ。
だが、くじ引きで先にやったのは結果オーライだと思う。後の生喬師のものより全然軽いので、後ではやりづらい。
寄席ではあまりできないとアフタートークで馬石師。確かに、寄席ではあまり聴かない。
「廓噺でトリネタでない」噺はやりづらいと。
まあ、確かにそう。「錦の袈裟」「お茶汲み」とか「磯の鮑」なども同じだろう。
廓に行かなくてもいい「羽織の遊び」ならいいと思うが、これも出ないけど。
とはいえ寄席だけが舞台じゃないから、覚えておいて損だということではない。

廓噺といえば、ほぼ舞台は吉原。たまに品川、まれに新宿。
だが、この噺は深川でないと成り立たない。遊女が外に出る必要があるのだから。

西の笑福亭生喬師は、「貫目のある」噺なので普段からトリで出すという。確かにボリューミー。
東京に持ってくる際に、芝居の登場人物見立てとかがなくなってしまっている。まあ、東京らしい。
主人公は、「源やん」⇒「源ちゃん」で一緒。源兵衛というのだろう。
女に騙される定番の登場人物。宿屋仇で侍にひどい目に遭わされるのもこの人。

馬石師のマクラは爆笑。
師が寄席で強情灸を掛けた後、円丈師が強情灸を掛けてしまったという。
普通なら、前座が飛び出て「師匠、出てます」と言うところなのだが、円丈師だから新作(改作)かもしれないと思って、最後まで様子を見てしまったという。
噺家のマクラなんて嘘ばっかりだが、これはどうやら本当だろう。また、円丈師だといかにもうっかりやらかしそうなのだ。
ちなみに、改作でも出しちゃダメだが。
唯一観たことがあるのが、三遊亭歌る多師がヒザ前で「つる」を出し、トリの柳家喬太郎師が「極道のつる」をやったもの。これはパスとシュート。
あと、リレーは構わない。前座が金明竹を前半で終えたので、番組トップバッターの二ツ目が続きの言い立てをやったという話は、堀井憲一郎氏が書いていた。
真田小僧でもあり得るんじゃないだろうか。
私は亀戸で、三笑亭夢丸師の「花見小僧」の後で、三遊亭天どん師が「刀屋」を掛けたのは観た。まあ、特殊な会ではあったが。

馬石師の女は、鼻声で甘えたふうの声なのがなんともたまらない。
粗忽ものが得意なのに、いっぽうで女が上手いという、ユニークな馬石師。
女は露骨に企んでいる造形ではなく、商売柄、ごく自然にこうなる点が楽しい。そのわりには、かんざしや羽織の心配をしているが。
そして、意外と悪そうな女じゃないのもいい。

笑福亭生喬師は、おかげさまでラジオでたまに聴かせていただいている。
東京のお囃子さんとがっちり組んでのハメモノ、お見事。
「飛び込む順番が東西で違う」なんて後で話題になっていたが、こういう部分は厳密には違いとは言えない気がする。
そもそもこの噺、「別れて飛び込もう」というのが不自然だ。そこをうまくごまかすかが噺の見事な嘘。
ここを乗り切らないと、「狂言自殺を止めるのに失敗」という、大事な展開が出てこない。
もちろん、お二人ともスムーズでした。

「サゲを(師匠から教わったのと)変えていいのか」と千原ジュニアが訊いていた。
内緒でしてるとギャグで返していた生喬師だが、別にサゲなど、替えて何の問題もないはず。

飛び込む順序よりも、辻占の中身が東西違うというのは気づかなかった。
今回はなかったが、「ねんが明けたらあなたのもとへきっと行きます断りに」というのが東のほうによく入っていると思う。見事な都々逸。
「ブリのアラ」は上方から出たクスグリだが、今回は馬石師だけに入っていた。
上方では、辻占茶屋より「稽古屋」に入っているか。

その12「そば清」

 

辰巳の辻占/紙入れ

作成者: でっち定吉

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