一昨日に出したばかりの春風亭朝枝さんの記事は、二ツ目の記事には珍しく、個別アクセス好調だ。
世間のみなさん、すでにこのキャリア浅い噺家に注目しているようである。
さてたまたま昨日、NHK・BSで人間国宝・柳家小三治師の特集をしていた。
「落語」のキーワードに引っ掛かっておらず録画し損ねたが、放送を視られてよかった。
小三治師についてはいろいろ思うところがあるが、今日触れたいのは一点だけ。
京都での、三三師との親子会で雑用をしていたのが、私も好きな噺家、柳家小はぜさん。
二ツ目じゃないか。すでに落語協会の香盤で、真ん中へんにまで来ている人。
つまりこの一門、直弟子だけでなく孫弟子まで次々クビにするもので、前座がいないのである。
二ツ目だって、小はぜさん以外には、弟弟子の小はださんしかいない。
よそから借りてこないあたりに、他の一門との関係性が垣間見える気がする。そこまでは言い過ぎかもしれないが。
とにかく、弟子の育成については、師匠・小さんと異なり全くダメな人である。
寄席のレビュー以外にこのところ、「柳家小ごと」破門の関係の訪問がやたら多い。
本当だったらこの、クビになった孫弟子も、3月から二ツ目だった。
次世代を担う三三師も、唯一の弟子をクビにしてしまった。二ツ目になっていたのに。
芸協の柳橋門下に直った元・小かじ(現かけ橋)がそれ。
かたや一朝師のところは、つくづくすごい。
朝枝さんは、春風亭一朝師の10番弟子。たぶん最後の弟子となるのだろう。
繰り返し書いているが、この一門には外れがいない。辞めた人もいない。
一之輔師(2番弟子)のような売れっ子がいるだけのことではない。他の弟子だって、有望株ばかりである。
なんだかなという人などひとりもいない。
すでに達者な人の揃った一門に、朝枝というラスボスみたいな人が現れたのだ。
噺家の修業は、厳しいものを(勝手に)想像する人が多い。普通だったら耐えられない修業を生き抜いた噺家だけが、新たな生を受けるという発想。
馬鹿言うな。
困ったことに、師匠の側にだって、かくあるべしと思う人がいる。
小三治師はその代表。
弟子の半分のクビを切ったのはその現れだが、実際の育成実績を見たとき、果たしてそれが正解だったか?
正解だったと思いたい人が世には多くて困る。三三がいるぐらいのことでは、正解なんて言えない。
一朝一門の存在は、厳しい一門は当然に優れているというファンの思い込みを、軽くひっくり返してくれる。
一朝師は、弟子に家事など一切させないという。そしてとても優しいのだと。
いい師匠というものは、弟子が自発的に勉強したくなるらしい。
弟子の了見が間違っているのだとしたら、実は師匠が弟子をそう扱っているためではないのか。
一朝一門の噺家はこんな人たち。
面白古典落語から、超のつく本格派までさまざまにいるところがすごいのだ。
【柳朝】
色っぽい噺が得意。それと裏腹に、とても軽いのが持ち味。
地元の大田区でよく会を開いている。
【一之輔】
ご存じ寄席の爆笑王。
4人の弟子がいる。一朝師にとっては孫弟子。
一之輔師にも一朝イズムが流れていると信じている。
好楽一門などすでにそうだが、優秀な一門は孫弟子まで含めて発展するものなのだ。
【三朝】
兄弟子と同様、権威あるNHK新人落語大賞を受賞している。
2017年に真打に昇進し、寄席のトリも取って順調に出世中。
お喋りで噺家仲間では有名らしい。「千円やるから黙ってろ」と言われ、「払うから喋らせてください」と言ったというネタがある。
【一左】
本格派志向のようで、師匠に雰囲気が近いかもしれない。
まだまだ伸びる人だろう。
【一蔵】
打って変わって、面白落語を追求する人。
バラエティに富んだこの一門の、ひとつの顔を見せてくれる。
二ツ目さんのマクラによく名前が登場するところを見ると、親分肌なのかもしれない。
今秋落語協会からは4人の新真打が出るが、その次の香盤で5番目にいる。来年には真打か。
【朝之助】
こちらはまた「上手さ」を追求する人。
受賞歴がないのは不思議な気がする。
【春風一刀】
この人だけ亭号が春風亭ではなく「はるかぜ」。新しく作ったもの。
春風亭一刀では、師匠と間違えてしまう。
「古典落語に現代的な新しいクスグリ」を入れるのは普通だが、「古典落語に、いかにも古典落語らしい新しいクスグリ」を入れてくるという、得がたい人。
クォーターらしい。
【一花】
唯一の女性。つる子、あんこと「おきゃんでぃーず」を結成して活躍中。
中井貴一に似ているのがウリ。
女流の枠を超え、二ツ目の中でも屈指の実力派である。
2020年の「さがみはら若手落語家選手権」を受賞している。それも下馬評通りの本命として。
2019年末に、金原亭馬久と結婚している。
一門じゃないが、本格派の旦那のほうにも期待してます。
【一猿】
二ツ目になって2年。
決して焦らない人。本格志向だと思うのだが、もしかすると面白方面に進まないとも限らない。
大阪出身。
この後に朝枝と来るわけだ。
この一門、もっともっと聴かないといけません。
(2022/3/31追記)
1年前に書いたこの記事、相変わらず検索(例:柳家小かじ)による訪問が多いです。
ただ、アクセスの多さに少々複雑な思いもありまして。
落語界でも屈指の育成実績を誇る一朝門下とはいえ、記事アップ後にやらかした人がいるわけです。
隠すこともなくて、一猿さんなんですが。間接的とはいえ、師匠や兄弟弟子の批判、しかもお前が言うなが世間に垂れ流されたのでした。
小三治、そして立川流の批判などもしている身からすると、なかなか放置しづらい事件なのです。
批判に値する情報を知っているのに、あえて一朝一門に目をつぶっているような、心の痛みを私自身感じるわけです。
とはいえ、やらかした一猿を露骨に批判しようとすると、案外しづらい。小林麻耶に攻撃された海老蔵の状態だから。
そんな弟子を今までどおり置いておく一朝師の心の広さを一層感じたりもしますが・・・