森喜朗と女性と落語

1937年生まれ、83歳で現役バリバリの噺家をご存じですか。
林家木久扇師匠です。
ただの愉快なおじいちゃんだと思っていてはいけない。
先日、Zabu-1グランプリ優勝のけい木さんも木久扇門下。彦いち師を筆頭に、いい噺家が次々出てくる一門の総帥なのだ。

いっぽう、同じ年に生まれた老害が大失言をやらかした。
龍玉ではないシンキロウ、現役バリバリの失言大王、森喜朗。
いったい、幸せな人生はどちらでしょうか?

総理だったときに「サメの脳みそ」呼ばわりされてた人は、いくつになってもレベルが違う。
失言というか、想像力の著しく欠けた人なのだ。
リップサービスが過ぎるのだろうが、そもそもジョークのセンスだって皆無。
公式の場において「女性は話が長い」に共感する人がどれだけいる? 「女は話が長いからイヤだ」と常日頃思い続けてきていて、「よく言ってくれた!」と快哉を叫ぶという人にしか、ジョークとして伝わらないのだ。
話の長い女性だけがたまたま揃っている環境というもの自体、そうそう経験したことがないから「あるある」にもならない。
きわどいジョークという以前に、ジョークとして成立していない。
聴いて笑った人も共犯だと上野千鶴子先生が言っていたが、フェミニズムを持ち出さなくても、笑った人は相当怖い存在だ。
今回笑った人は、「女性を貶める」ことで、直接的に笑いのスイッチが起動するという、かなりレアな人たちなのだ。
レアというか、アレな人。近くにいたら相当イヤだね。
発言者当人の差別意識が恐ろしく高いことには、改めて引く。

ロケット団が最近、「スシローとイチローの違いがわからない」という漫才をやっている。「ヨシロー、ヨシロー」というギャグがさっそく織り込まれると見た。
漫才師にとってはとてもありがたい人だ。ジジ漫才。
万人の敵は、安心して舞台に載せることができる。
すでに繰り返し落語や漫才のネタになってきた人だが、最後にもうひと花。

しかし、ヨシロー君もつくづく哀れな人だと思う。
人生最後の栄誉が欲しくて頑張っている人。これ自体は、みっともなくはあるが馬鹿にはしない。
三谷幸喜脚本でコメディドラマにできそうな感性。つまりかろうじて共感できなくもない。
だが、喜劇では終わらない。ヨシロー君は、自らに仕込まれたスイッチの無意識の発動により、いつも栄光を潰してしまうのだ。
家族に叱られたと反省したようなことを語るヨシロー君であるが、実際の家庭を想像すると怖くなるね。
女の孫たちは、ヨシロー君の死後も、爺さんをなつかしく思い出すことはないでしょう。ジジイは、自分の一族の末裔が多く女であることを憎んでおり、当の孫たちもこの事実を思い知らされたわけだ。
もう、心残りなくして墓には入れない。自業自得だが。

ちょっとヨシローに共感してしまったごく一部のシルバー世代は、自分の感性について猛省しないと、残りの短い人生、困ったことになるだろう。
私は理屈っぽい人間なので、今回の発言が具体的にどうヤバいのかを、もうちょっと深掘りすることにする。
今回の失言に対する反応は、内心の思想に基づき、次のように分かれるわけである。

思想 反応
A ガチガチの女性差別主義者 よく言った!
B わりと女性差別的な人 俺も言いたいけどあんなふうには言えないよ・・・呑気な人だな
C 女性蔑視は社会的にまずいと思う内心差別者 ああ、差別を持ったままの老人はこうなっちゃうんだ
D わりとフラットな人 女性だけが問題じゃない・・・「レッテル張り」が最大の悪だ
E 社会で痛めつけられている若者(男女関係ない) ああ、頂点にこんなジジイがいる
F 一般的な女性および、その立場に立脚する男性 けしからん
G フェミニスト 当然お引き取りいただく

 

Dあたりから先の人だけが苦情を述べていると思っている人は、大きな勘違い。
実は、味方はAしかいないのである。もう、ナチズム信奉者を探すぐらい難しい。

しかし、女性蔑視の話題が出てくると、落語のことをつい考えてしまう。
落語は男目線でできているもの。封建的な世界だと。ここまでは紋切り型に述べられることが多いが、まだ気にしない。
その先を思うのだ。真に男目線でできた古典落語は残っていくのであろうか?
妾馬(八五郎出世)とか、厩火事とか、多くの廓噺である。
結論はすでに出ている。
残るものは残るし、滅びるものは滅びる。
ひとつひとつの噺は、はなし塚に埋められて滅ぶのではない。需要がなくなったときに滅ぶのである。
落語が滅びるのではなく、あまりの男目線が客に受け入れられない噺が滅ぶだけ。
先日も取り上げた桂あやめ師や柳亭こみち師など、男目線の落語を積極的に作り替えている人もいるので、常に落語の世界はバージョンアップされていくのだ。
新作落語については、なんら問題ない。需要のあるものだけが常に更新されていく。

私はこう信じている。なのでセクハラ、パワハラはこれからも安心して糾弾していきたい。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。