2番手は文菊師。
鈴本の配信にかなり登場したこの師匠、毎回「気取ったお坊さん」ネタを掛けていた。東京かわら版の巻末コラム(長井好弘氏)に載るほどに。
だが常連の多いこの席では、そういうのはなし。
ようやく再開したディズニーランドのお客が、感激のためテレビカメラの前で泣いていた。
そんなの、落語のほうにありますか? お客も感激が足りないよだって。
だがすぐフォローし、われわれの世界はこんなものですねと。世間から切り捨てられる、無駄なほうでできているんです。
先に出た馬石師の「手紙無筆」を例に、「ただ字が読めない」っていうだけの噺でしょと。そんなところをふくらませるんです。
古今亭にはマクラが達者な人が多いが、文菊師もますます上手くなっている。
先の、カメラの前で感涙を見せていた人について、それまで敬語で話していたのに、「~って言ってたのよ」という語尾で締める。
柳家権太楼師も使うワザ。客の緊張がさっとほぐれて爆笑を生む。
饅頭こわいは、噺の知名度のわりにやや珍しい気がする。最近は、前座からたまに聴くぐらい。
でも、町内の若い衆たちが集まって、どうでもいいムダ話をする噺の構造が非常に好きだなあ。上方ダネだが、非常に江戸落語っぽい。
クスグリもじわじわといいのが多い。与太郎が好きな甘味を聴かれているのに「お刺身」。刺身にきな粉付けて食べるとか。
工夫の余地もまだまだあるこの噺、もっと掛かって欲しい気がする。
初めて聴いた文菊版饅頭こわい、東京版ではマイベストと言わせてもらう。噺にとっても、ありがたいことである。
上方版のようにおやっさんの怖いエピソード(この後ラジオで文珍師のものをさっそく聴いた)がなくても、ずいぶんたっぷり。
だが、買ってきた饅頭の言い合いはない。
この噺には、唯一古典落語の世界観に似つかわしくない場面がある。
生意気な鉄さんをやっつけてやろうと、みんなは饅頭買いにいくのである。そしてクスグリとしてではあるが、「死んじゃってもいいよ。死んだらアン殺だ」。
このクスグリは大事で抜きたくないだろうが、ただ、これによって平和な世界が一瞬崩れてしまう可能性がある。
だが文菊師は丁寧だ。饅頭を買いにいく一番の目的は、みんなで茶を飲もうということ。鉄を怖がらせるのはついでなのだ。
饅頭責めに遭う鉄さんは、四つ足なら何でも食うと言っている。
中でもウサギが旨いんだって。ウサギって四つ足か? と思ったのだが、これはフリだった。
「うさぎおいし」のギャグが言いたかったのだ。
これ、亡くなった師匠・圓菊が必ずやってたネタでしたな。とても懐かしくなってしまった。
仲入りは、古今亭駒治師。一週間前にたっぷり聴いたばかりの人。
この人も、昨年のこの会以来、ずいぶんと聴いた。馬石師の前の「小ゑんハンダ付け」にも行ったし。
よく聴いているのでこの日はもう、ネタが被る予感。仕方ないことだが。
コロナで電車に乗るのが怖くなり、本当がどうか知らないが、今日は幡ヶ谷の自宅からここ巣鴨まで自転車で来ましたと。
鉄道落語をたくさん作っておいてこの裏切者、と先輩に叱られるんだそうだ。
そしてなんと駒治師、今教習所に通っているのだそうだ。41になるまで、免許を取っていないのだそうだ。
社会人にはあるまじきスピードで教習所に通っているので、今度仮免試験なんだって。
皆さんもよかったら乗せますよ。でも嫌ですよね、私だって私が運転してるクルマなんか乗りたくないですよと。
わがヤクルトスワローズは今季3位スタートで上々ですと。
某乳酸菌飲料のチームのファンですという言い方はやめたのかしら。
スワローズにも、ドラフト1位ルーキー、星稜高校出身の甲子園の星、奥川投手がいるんですよと。
そこから、「同窓会」。黒門亭でかつて聴いたこの楽しい噺なら、被っても全然いい。
とはいえ、さすがに同じことを書くとダレる。リンク張っておきます。
駒治師については、毎回落語のウデに感心し、落語作家としての才能に圧倒される。
この「同窓会」、本当によくできている。三題噺であるかのように、野球とまったく関係ない「手芸」というワードを取り込んだことで、噺の世界が立体的にふくらんでくる。
そして必ずハッピーエンドで終わるこの人の噺は、大人の客にとっても、非常に気持ちがいい。