スタジオフォー四の日寄席2(上・隅田川馬石「手紙無筆」)

手紙無筆隅田川馬石
饅頭こわい古今亭文菊
同窓会古今亭駒治
(仲入り)
粗忽長屋桂やまと
竹の水仙初音家左橋

 

先週は日本橋亭に、そして火曜日にはらくごカフェに行ったばかり。
だがコロナ患者が増え続けているので、いつ行けなくなるかわからないと思い、聴き溜めすることにする。
不謹慎ですかね。でも、落語関係者、新しい生活に合わせた落語会を開こうと、頑張ってらっしゃる。

東京の寄席に帰ってきた春風亭鯉枝師の出る池袋も気になったのだが、月1回のスタジオフォー「四の日寄席」に出向くことにする。
とげぬき地蔵の縁日の日、毎月4日におこなわれる、古今亭の5人、固定メンバーの落語会である。
同じ一門なのに亭号がバラバラなところを見てほしいので、ネタ帳にはフルネームを入れてみた。
1年前、ちょうど7月に初めてこの会に出向いた
会自体かなり気に入り、再訪のチャンスをうかがっていた。寄席が一部再開したばかりの先月にも検討したばかり。
だが結局、1年空いた。
料金は2千円。貧乏落語ファンとしては、5枚つづりで8千円という安い回数券が気になるのだが、なにせ月イチだからな。
ちなみに今回知ったが、スタジオフォーのイベントに広く使える、1万円分で9,500円という回数券もあるのだそうだ。これなら、水曜日の巣鴨巣ごもり寄席(二ツ目さんの会)をはじめとする会に共通で使える。

行くかどうか悩んでいたので開演ギリギリになってしまった。結構遠いので。
地蔵通りは人出が多く、実に賑やかである。いいことかどうかは知らぬ。
スタジオフォーは満席。寄席のように一席ごとに空けたりはしておらず、結構密ではある。
だが、この落語会には秘密兵器がある。高座の前にビニールシートをぶら下げ、客席と遮蔽しているのだ。
アクリル板なら透明なのだが、ビニールシートは半透明。まあ、気になって仕方ないなんてことはない。
先月からこうしたのだそうな。

この日は隅田川馬石師から。順番はどう決めているのだろうか。客も、メクリが変わるまで演者の順番は知らない。
そういえば昨年のこの会でもって、ブログを2016年に始めて以降で、初めて馬石師の高座に遭遇したのだった。
もともと好きな人。おかげさまでその後続けて馬石師を聴いている。江戸東京博物館の「臆病源兵衛」や、小ゑんハンダ付けなど。
もちろん寄席でも。

学生時代勉強しなかったので、英語はできなかったと馬石師。
先日コーヒーを注文する際、標準サイズのものを頼みたかったのに、「L」を指差してしまう。「レギュラー」の頭文字だと思った「L」を指差したんだそうな。
凹む馬石師。
そこから無筆の噺である、手紙無筆へ。

芸協や円楽党では前座が掛けるが、落語協会では前座はすっかりやらなくなり、真打がよくやる噺。なぜかは知らないが理由なんてないと思う。
さて私、「千早ふる」や「やかん」は好きだが、手紙無筆はそんなに好きな噺じゃない。
なぜなのか考えてみる。
アニイが無筆であることは、噺が終わった後、どこかでいずれバレてしまう。最初から、嘘をつき通せない運命にあるわけだ。
それに芸術的な、架空のストーリーをでっち上げる余地はない。手紙なんてものはそれらしくないといけないから。
人を騙す快感に充ちた噺でもないし、転失気みたいに知ったかぶりを凹ます爽快感もないとなると。

だが馬石師の手紙無筆はとてもいい。
このアニイ、無駄に強情だったりはしない。八っつぁんに後ろを見せないような人物じゃないのだ。
いずれ無筆は必ずバレるだろうなというムードが、終始漂っているのだ。バレたらバレたで、ハチごめんなと、ペロッと舌を出しそうな。
いつバレるかわからないが、バレるまではひとつ(軽く)頑張ってみようとアニイは決意したらしい。
ということは、アニイと八っつぁんとは、最初から利害対立関係にないのだ。

誰の手紙無筆(上方では「平の陰」)にも入っている、「お前無筆なの? 今どき、信じられないやつがいたもんだね」というセリフはない。
あえて抜いているのだろう。
「鳥目」だとか、小さな嘘を少しずつついているうちに、引っ込みがつかなくなってしまうアニイ。この流れが実に自然である。
古典落語というものも、徹底して考え抜かないと自分のものにはならないのだ。馬石師からは、どの噺からもこんな見事な工夫のあとが漂ってくる。
そしてその工夫の数々、噺を根底から覆すようなものでなく、実にシブいのだ。

先日取り上げた、同じ金原亭の馬玉師、それから取り上げたいと思っている馬治師などは、「変えない」ことのよさを味わう芸。
いっぽうでは、やたら変える人が評価される風潮もある。
だが馬石師の方法論はどちらでもない。じわじわ変えていく人。わかる人にはそのオリジナリティの強さがよくわかる。

たまらぬ一席でありました。
続きます。

 

作成者: でっち定吉

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