三遊亭はらしょう「俺とシショーと落語家パワハラ裁判」(上)

気になっていた本をようやく読んだ。面白かった。
当ブログは落語界パワハラ事件に多くの筆を割いてきた。パワハラというと悪気なくついやってしまったようなイメージもあるだろうが、実際はただの物理的な暴力である。
すでに広告も張っていて、この本読まないわけにはいかない。
世間にはまだレビューがそれほどない。

小説の体裁を採っているが、登場人物を仮名に替えたドキュメンタリーと考えたほうがいい。そのつもりで読んだ。
劇中の事件に、フィクション要素はひとつもなさそうに思った。あったとしたら、信憑性の点でマイナスにしかならない気がする。
あえて変えたであろう部分は、はらしょうさんの10歳下の先輩(年取って入ってきたはらしょうさんに厳しく当たる)に関する箇所ぐらいでは。ここだけ先輩の年齢を替え、わからなくしてあると思われる。

パワハラ事件については詳しく記載されているものの、本の内容の半分は、著者であるはらしょうさんと、師匠三遊亭円丈の師弟関係の物語である。
むしろそちらに手厚く筆が割かれている。これは読むまで知らなかった。
よく考えれば、裁判を戦い抜くのが馬雀さんにとって大変だった事実はさておき、証拠も揃って勝利までは一本道であった。
どう考えても師匠側に正当性を見いだせないのだから。正当性を見いだしているのは、師弟関係に幻想を抱いた古い人間だけだ。
だから最初から、ドキドキ法廷サスペンスにはなり得ない。
現に、控訴審はあっさり、控訴人取り下げで終了している。
これはこちらに書いたとおり。

吉原馬雀、元師匠に完全勝利(控訴審)

本から得たのは、改めて師匠圓歌は異常な人間であること。
昔であったとしても異常すぎるこの師匠を、「落語界はこんなもの」だとして描く点は、やや違和感がぬぐえない。
いや、こんなモンスターだって生まれて不思議のない業界だという点についてはまったく、はらしょうさんの書いている通りである。そして自己の体験からはそう書かざるを得ない。

円丈師の「師匠、御乱心!」のことも思い出す。
不思議なことに、あの名著は実名で書いていてほぼすべて事実だと著者も言っているにもかかわらず、私は小説として読んだ。激しい怒りに満ちた私小説として。
そして、師匠圓生との愛憎劇がたっぷり。
いっぽう、本著「俺とシショーと落語家パワハラ裁判」は、小説としては読めなかった。ドキュメンタリーとしては高価値だと思う。
馬雀さんの提訴があった際の、師匠に対する失望感や落語界への不安の一端を、感覚として思い出した。

そしてリアルタイムでずっと読んでいた、円丈師の公式サイトのことも思い出した。今だったらブログでやるもの。
弟子に対する不満を書き記し、弟子の破門についてもこと細かに記していた。当時は、破門された側の気持ちなんてさして考えないで読んでいたものだ。
ちなみにあのサイト誤字だらけだったなあ。

私はいろいろ書いたわりには、吉原馬雀さんのYou Tube等隅から隅まで追っかけしたりはしていない。
とはいえ裁判について未知の情報は、本書にあまり書かれていなかった。ただ、パワハラ師匠圓歌の、法廷での陳述の様子に関しては、まったく知らないものだった。
あまりにもあまりな開き直り、そしてそのまるで意味のなかった話術により、傍聴席には苦笑が起こったという。そんなに楽しい裁判なら行けばよかったなんて不謹慎なこともチラと思ったり。

厳しい修業に耐えかねたのだろう、楽屋で突然発狂した立前座のことも描かれていた。
さすがにドキュメンタリーとして読むべき本なので、誰のことかは一切匂わせてはいない。今残っている人なのかどうかも。

物足りない点も一部ある。
御乱心がそうであったように、師匠の死去による別れが描かれるべきだと思うのだが、なぜないのだろう。
まだ向かい合えないのだろうか。

さて、本書のテーマはこうなのだ。少なくとも私はこう読んだ。

  • 圓歌の話術はすごい。馬雀さんからしても、いまだにそれは認めるところ
  • とはいえ圓歌は人間的にひどい師匠であって、その行為になんら汲むべき部分はない
  • いっぽう、はらしょうさんの師匠円丈は優しかった。手を上げることなんてない
  • とはいえ裁判を傍聴していて、フラッシュバック的に円丈のパワハラを思い出すのだった。今から思うとやはり許されるものではなかった
  • とはいうものの俺は師匠が好きだ。今でもだ
  • 好きだが、ひどい目にあった。その後復帰したとはいえ、一度でも破門されるというのは、一生ついて回る烙印を押されたことなのだ
  • しくじりならともかく、しくじっていないのに破門なんてやはりおかしい

落語界パワハラ事件は、正義をもって完結した。
しかしながら、はらしょうさんの直接体験してきた世界は違うのだ。なんだかわからない不可解な理由で破門され、いまだにその影響をもろに受けて苦しんでいる。
優しい円丈のことも、弟子に当たり散らしときに精神を崩壊させかねない円丈の顔も両方思い出す。
馬雀さんを全面的に応援するはらしょうさんとしては「圓歌はひどい。円丈はひどくない」と思いたいが、そのまま置いてはおけない。矛盾に気づかされてしまう。

もう一日書けそうなので続きます

 

作成者: でっち定吉

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