丁稚の落語百科(「は」の巻1)

落語の百科事典の第3回です。いろはの「は」。
第1回はこちら
いろは順ではなく、「は」の中での50音順です。
「は」だけで2回です。

ハーブをやっているだろ!

三遊亭天どん作の新作落語。
客ひとり、ガラガラの寄席で新作落語を演ずる噺家。客は刑事。
この刑事から「あんな噺を堂々とできるのは、脱法ハーブをやっているからだ」と職質を受ける噺家。
とにかく逮捕されそうになる噺。
その前に出た演目を全部織り込み、どの演目からも「詐欺罪」などの犯罪性をあぶりだすという、スリル満載、アドリブ満載の噺。

廃業

噺家を辞めること。もっぱら、自分から辞める場合に廃業というものの、破門も含む概念。
前座、二ツ目の場合、将来の展望が見いだせなかったり、師匠との関係に耐えられなくなったりして辞めることが多いようである。
伊集院光のようにステップアップの廃業はごくまれ。このタイプの先人では、役者になった故・桂小金治がいる(廃業してはいない)。
高齢で、あるいは寄席に呼ばれなくて高座に上がらない人も、真打になっていると自分から辞めることはあまりない。
隠居、あるいは本業が別にある噺家というのも実のところたくさんいる。

化け物使い

夏によく掛かる、楽しいバケモノ噺。
人使いの極めて荒い隠居のほうが、バケモノより一枚上。
六代目柳亭燕路夫人の絵本作家せなけいこにより「ばけものづかい」として絵本にもなっている。

化ける

主に若手の噺家に対し、急激に腕が上がったときに「化けたね」と使う。
いつもガラガラの寄席が急に一杯になったときに使う用法もあったが、最近では常にガラガラの寄席が少ないので、使用機会は来ない。

端席

江戸から戦前に掛けては寄席が至る所にあったので、格下の芸人が出る格下の寄席も多数あった。
こうした寄席を「はせき」という。
今だと、永谷商事の運営する上野広小路亭や両国亭についてこう呼ぶ人がいるかもしれないが、悪口なので使わないほうが無難。

八五郎出世

トリネタ。
別代である「妾馬」(めかうま)のほうが今でもよく使われるのだが、この噺に馬が出てくる部分は消滅している。
八五郎出世のほうがいいタイトルだと思う。
殿さまの側室になった妹が世継ぎを産んだというので、初めてお屋敷に八っつぁんが出向く。ドタバタを見せる八っつぁんだが、殿さまには気に入られる。
爆笑の演出からしんみりしたものまで、演者によりいろいろ。

八九升

六代目三遊亭圓生系統の噺家により、所属団体を問わず教えられる前座噺。
だが現在の円楽党でも、そうそう聴くことはない。
「つんぼ」を扱っているという理由もあるだろう。

初天神

人気が高い前座噺で、前座より真打から聴くことが多い。
初天神は1月25日であり、正月によく掛かる。だが、「お祭りに行く」として、年中やってもいる。
ギャグが入れやすいため、破天荒な初天神もしばしば見かける。
切れ場が多く、時間調整もしやすいので寄席では重宝される。「団子」で落とすのが普通だが、その手前の「飴」でも落とせるし、団子の先の「凧」までやるのもある。
上方では、親父がお祭りにかこつけて女遊びに行く気満々なので、母親が監視役として子供を付ける演出が古くからある。

はてなの茶碗

落語には、京・大坂の気質の対立を扱ったものが多数あるが、これもそのひとつ。
京都で働く油屋が、安い茶碗を高く売れると意気込んだものの、大恥をかく。
元祖転売ヤーの噺といえるかも。
ただの安い欠陥茶碗は、世の中の不思議な仕組みによりどんどん高値になっていく。
東京では、大坂の油屋を江戸っ子に変えて「茶金」という。

花筏

相撲の噺は数々あるが、もっとも楽しいのは花筏だろう。
ただのブクブクに太った提灯屋の親父が、大関花筏の身代わりとなって巡業に出る。
相撲は取らなくていいはずだったのに、地元の無敵力士と楽日に対戦する羽目になってしまう。
人が命を失いそうでビクビクしているシーンこそ、周りからはたまらなく楽しいのだ。

花色木綿

泥棒噺。
寄席では、下駄を忘れてきたところまでやって「出来心」とすることが多い。
花色木綿までやると結構長い。
泥棒に入られた八っつぁんが、店賃をごまかすためになんでもかんでも盗まれたと主張するので、当の泥棒が怒って出てくる。
「花色」というのは青系の色である。

噺家

「落語家」と同じ意味だが、プロは噺家と自称したがりがち。
昔噺家が地方に行くと、猟師が鉄砲持ってやってきた。よく聴いたら、カモシカとハナシカと間違えたという。これは定番の小噺。ウケない。
噺家が芝居をすると、鹿芝居という。ハナシカのシカ。
ファンも、通ぶりたい人ほど「噺家」を使う傾向がある。
上方でも噺家と自称するプロは多いが、ファンが「上方噺家」というのはやや変。「上方落語家」か、「上方の噺家」かどちらかだろう。

花見小僧

「おせつ徳三郎」の前半。
後半の「刀屋」は人情噺だが、前半の花見小僧は滑稽噺。
ひとり娘と奉公人の徳三郎がデキてしまった。その関係を、小僧の定吉から、アメとムチとで聴きだす。
花見は回想シーンで出てくるだけでいつやってもいいような噺だが、春先が多いだろう。

続きます。

 

おせつ徳三郎

作成者: でっち定吉

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