丁稚の落語百科(「い」の巻1)

落語の百科事典をこしらえてみようといきなり思い立った。
とはいっても、継続してこればかり書くつもりもない。
「あ」から始めて、「す」あたりで飽きてやめてしまうと、実にみっともない。
なので、いろはの「い」から始める。
別にいろは順ではない。その証拠に、以下「い」の中で50音順に並べている。

言い立て

立て板に水、スラスラ言う長いセリフのこと。
金明竹、寿限無、たらちね、ん廻し、がまの油などに登場する。
がまの油の口上の後だけは、客も手を叩いたほうがいいと思う。あとはいいが。

家見舞

別名、肥瓶(こいがめ)。
世話になっている兄貴の引っ越し祝いに、文字通り「掘り出し物」(厠から)の瓶を水瓶として贈る噺。
上手い人のものだと、決して汚くないのだが、下手な人がやると本当にひどい噺。
この噺については、根本的に変えたほうがいい設定になるのではないか、ずっとそう考えている。

嫌いな噺「家見舞」

いかけ屋

先代春團治の十八番。上方落語。東京にもある。
タチの悪い子供たちという噺は、落語では意外と珍しい。
春團治の弟子、桂小春團治師が「いかけ屋」のエッセンスを入れた「アーバン紙芝居」という新作落語を作っている。

幾代餅

絶世の花魁と、搗米屋の若い衆が結ばれる、あり得なさ随一のラブファンタジー。
廓噺であり、人情噺。大ネタなのでトリで掛かる。元々は古今亭の噺。
ほぼ同じ噺に「紺屋高尾」がある。

廓噺は子供がいたら出さないとされている。
だが夏休みにうちの息子(当時小4)を連れていった池袋演芸場で、トリの柳家さん喬師が、この掟を解説した上であえて掛けてくださったのが忘れられない。
まあその後もうちの子、片手の指がすぐ折れるぐらい廓噺聴いてるけど。

池田の猪買い

毎度おなじみアホの喜六が、大坂の外れ、池田までイノシシ肉を求めに行く噺。江戸にはない。
子供向けのえほん寄席でも取り上げられていた。だがそもそも、なぜ喜六が猪肉を必要としているかというと、淋病に掛かってしまい、やたら冷えるためである。
2019年の干支は猪だったから、上方の落語界ではよく掛かったのではないかと想像するのだが、どうだっただろう。
「いけだ」の発音は「い」にアクセントが来るが、例外的。関西人のナチュラルな発音だと3文字の言葉は真ん中の「け」にアクセントが来るものだ。

池袋演芸場

駅前の繁華街にあるが、地下2階なので怪しさたっぷりの小さな寄席。
ビルのオーナーが、税金対策で運営しているという話。
寄席好きをこじらせてしまったファンが多い。演者のほうも、池袋になると気合が変わる。
「客が入らない」とネタにする人が多い(菊之丞とか)が、コロナ禍の今はともかく、本当に入らないということは少ない。
上席・中席が落語協会と芸術協会交互。
下席は、落語協会固定。下席昼席は披露目のときを除き開始が午後2時と遅く、時間が短い。夜は落語会。
新作落語の殿堂でもある。3月末の新作台本まつりだけでなく、最近は12月下席も新作まつりになっている。

石川五右衛門

ご存じ大泥棒。この人が主人公となって活躍するのが「お血脈」。
その他、釜どろや強情灸に、名前だけ出てくる。

石川や浜の真砂は尽きるとも我泣きぬれて蟹とたわむる

大泥棒なので、辞世の句で他人のまで盗んでしまうのだ。
泥棒噺のマクラによると、「石川二右衛門半」という子分がいるらしい。

伊集院光

六代目三遊亭円楽門下の元噺家(三遊亭楽大-現在の同名真打とは別人)。
師匠と二人会をやる話が具体化してきたらしい。

磯の鮑

珍しめの廓噺。錦の袈裟と並び、吉原と与太郎の素敵なコラボが見られる。
からかわれた与太郎が、女郎買いの稽古と実践をする噺。
2017年のNHK新人落語大賞を、三遊亭歌太郎(現・真打で志う歌)が、この噺で獲った。

一眼国

我々の世界ではひとつ目小僧は見世物の材料だが、ひとつ目の国に行けば我々が見世物となる。
価値の相対化をテーマにした傑作である。
わりと珍しい噺だが、東京にはインチキ見世物小屋のマクラから入る噺が意外となく、その意味でも貴重。
ひとつの目玉というのは、額にあるらしい。

井戸の茶碗

いどちゃ。大ネタである。
高価なものを安く手に入れてしまっても、それをよしとしない侍と、売り払った以上返してもらういわれはないとつっぱねる浪人の噺。
そして間に入って右往左往する屑屋の清兵衛さん。
人情噺といっても、泣ける噺を指すとは限らない。こういう、笑いも入る「いい噺」も落語にはあるのである。
ご家中は、落語の世界ではおなじみの肥後熊本藩・細川さまである。

犬の目

眼病患者の目の玉をクルクルポンとくり抜き、薬液で綺麗にして元に戻すバカな噺。
医者の飼い犬がタニシと思って、乾かす最中の目玉を食ってしまう。この犬の目玉を替りに使うことにする。
この事実を、患者に隠して施術する演出と、早々バレてしまう演出とがある。バレてしまっているほうが、よりバカらしい。
戌年になると「元犬」がやたらかかるが、犬の目も聴いた。

 

ちっとも百科事典じゃないって? まあ、固いこと言わないでください。
明日に続きます。

 

作成者: でっち定吉

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1件のコメント

  1. 更新ご苦労さまです。

    家元、一文笛、一門会、色物なんかの項目もできそうですね。とはいえ落語版悪魔の辞典(?)が完成するのを気長に待っています。

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