丁稚の落語百科(「い」の巻2・「ろ」の巻)

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居残り佐平次

品川心中と並ぶ、品川が舞台の廓噺。
会計ができなくていつまでも宿屋にいる「居残り」を商売にしているおアニイさんの楽しい噺。
フランキー堺主演「幕末太陽傳」の最重要モチーフでもある。
「おこわに掛ける」というサゲが難しいためみな作り替えるのだが、柳家喬太郎師だけはそのままやっていた。

入船亭

2015年に亡くなった入船亭扇橋の一門。現在14人となかなかの一派をなす。
扇辰の二番弟子、辰乃介だけ「入舟」を名乗っている。かつてあった「入船」の亭号を復活させたそうで。
扇橋が五代目小さん門下だったため、広い意味では柳家。
だが扇橋は先代三木助門下からの移籍組でもあり、亭号も違うため、柳家の大所帯には含めないことも多いようだ。
扇橋の惣領弟子・扇遊が、扇橋は継がないと言っている。このため、人気・実力とも申し分ない扇辰が十代目扇橋を襲名するのではないかと思うのだが、どうなのだろう。
扇橋から扇遊、扇辰に引き継がれている「茄子娘」という不思議な小品がある。

色物

落語以外の芸人を総称してこう呼ぶ。長い寄席において、客の頭を疲れさせないための重要な仕事。
漫才、漫談、コント、奇術、音曲、太神楽、紙切りその他いろいろ。
寄席の木札が黒字でなく赤字で書かれるのでいろものという。つまり噺家と区別としての呼称であり、蔑称でもなんでもない。
色物の栄誉は、トリの前の「ヒザ」。主役を食ってしまうような派手な芸はこの出番には入れない。
講談師については、通常色物とは呼ばないし、扱われない。
浪曲師の玉川太福さんが芸術協会の会員になったが、こちらは色物に区分されている。
落語の寄席に出るために、色物さんは噺家の一門に加わっている。

隠居

横町に住んでいる物知りで、書画骨董や俳諧にも造詣の深い知識人。
穏やかな性格で慕われており、八っつぁんが遊びにきて悪態をついても怒らない。だいたい、八っつぁんに有益なアドバイスをしてくれる。
たまに知ったかぶりをするが、フィクションをアドリブで語る能力にも長けているシャレの達人。
名字が付くときは「岩田」。もっとも、噺に出てくる隠居自身は岩田さんではないようである。
根岸に住む隠居だけは、無教養のため適当な茶を出すのでなかなか危険である。

老人前座じじ太郎

三遊亭白鳥作の新作落語。
噺家が増えすぎ、逆に前座がいなくなった近未来、シルバー人材センターの紹介で老人が楽屋入りする。
いきなり遅刻し、仕事がないので楽屋手伝いに呼ばれた三遊亭天どん師匠を怒らせる。そして、ある種見事な初高座を務め上げる。
42歳で弟子入りした、リアル老人前座(しかもポンコツ)であった、弟弟子のたん丈(現・丈助)のために作った作品。
落語協会が、30歳を超えた入門はまかりならんと決定したのは、丈助のためだという。

六尺棒

夜な夜な遊び歩いてくる放蕩息子。勘当されて家に入れてもらえないが、逆襲して親父を締めだしてしまう。
親父の小言をそっくり真似るのが見もの。
楽しい小品なのだが、最近はあまり流行っていない。
前座にやってもらえないものかと、いつも私は考えている。登場人物二人にできる噺で、前座向きだと思う。

ろくろ首

与太郎が分不相応にも嫁さんが欲しいというので、器量も財産も申し分ないが「夜中に首が伸びる」奇病を持つ娘さんに縁付けてやる。
しかし本当に伸びる首を見て逃げ帰ってくる。
別に怪談ではない。現在あまり聴かない噺。柳家から外に出ないようだ。
夏に「お菊の皿」や「化け物使い」を聴くのは悪くないが、ろくろ首もよろしく。

ロケット団

漫才協会、落語協会所属の漫才コンビ。業界一、年間の舞台の数が多いことでも知られる。
基本的に時事ネタ。寄席でも北朝鮮と薬物ネタを掛けているが、そんなに過激に見えるわけでもない。
山形出身の三浦(ボケ)と、パキスタン出身の倉本(ツッコミ)のコンビ。本当は東京出身らしい。
おぼんこぼん門下。ナイツのラジオで、師匠の不仲をネタにしていいのはロケット団とナイツだけだと語っていた。

露出さん

春風亭百栄師の新作落語であり、その主人公。
街の人に露出さんと呼ばれている主人公は、露出狂。
露出狂なのに街になじんでしまっている露出さんは、皆に慕われ、警官とも仲良し。
人命救助もして表彰もされているし、テレビの街歩きにも呼ばれた。つまり「ぶらり」。
ちょっと人情噺の気配が漂うからすごい。

ロセン

噺家さんの隠語。露出さんがぶらぶらさせているもの。
なぜロセンというのかは知らない。櫓栓だとか露先だとかいうが、当て字っぽい。
対義語は「タレ」だが、単に女性のことをそう呼ぶこともあるので文脈で判断せねばならない。

六花亭遊花

落語芸術協会の客員である女性噺家。
元NHKアナウンサー。芸術協会には「花座」という寄席が仙台にあり、もっぱらそちらで東北弁落語を掛けている。
ラジオ魅知国寄席でも進行役をしている。
落語の世界、アマチュアとプロの境目は非常にはっきりしているが、一から修業をする方法以外でボーダーラインを越えてきたという点、稀有な人。
芸術祭優秀賞まで獲っている。
露出さんとロセンの次でごめんなさい。

 

丁稚の百科事典、またの登場をお楽しみに。

 

ロシアンブルー/バイオレスコ/露出さん

作成者: でっち定吉

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