今年も開催。5分落語の大会、Zabu-1グランプリ。
BSとはいえ、ゴールデンタイムに昇格とは立派なものだ。
番組説明に「落語」のワードが入ってなくて気づかず、録画し損ねるところでしたぜ。
同じ日に「おなじはなし寄席」もあったのだが、先にZabu-1のほうから取り上げます。
昨年もツイッター上では「こんなの落語じゃない」みたいな意見が多かった。今年も多いだろう。
よくわかる。わかるとも。
でも文化というものは、得てして制約の中から生まれてくるもの。
5分という制限で、いかに楽しい落語を生み出すか、噺家の創作力を鍛える点で意味があると思うのだ。
決勝に、かなり新作寄りの改作が3作残ったのは、極めて象徴的だと思う。
「落語を知らなくはないが、詳しくはない」層に、最も響くのがこの種類の落語なのではないか。
完全なる新作もいいが、新作は初心者にとって意外とハードルが高い。他方、純古典は、5分ではなかなかできない。
バックで、画像でごちゃごちゃ補足しているのが気に入らない向きももちろんあるだろう。
中には、初心者なのに「馬鹿にするな」と怒る人もいたりして。
まあ、気になったら見なきゃいいんだ。
そして、今年もまたふわふわ生きてる素敵なおじいちゃん二人。入船亭扇遊師と、瀧川鯉昇師。
昨年はこのふたりの副音声を4日間もフィーチャーしたのだが、なんと今年はない。ただの見届け人。
師匠たちのトークは落語より面白いのに(若手、すまん)。
ただ、鯉白さんのツイートにも、師匠たちが副音声で出るとある。急に取りやめになったのか?
ナレーションでもって、この二人の師匠のこと、「大戦隊」って言ってた。大先輩でしょ? 聞き間違いかと思ったら、やっぱりだいせんたいって言ってる。
あと、落語界は序列がうるさいのだ。仲良しの両師匠とはいえ、扇遊師から先に紹介しないとダメ。
副音声がないんじゃ仕方ない。予選Aブロックから順に。手短かに触れていきます。
林家つる子さんは、EZ DO DANCEを入れてたことにではなく、片棒を見事に編集していたので感服。
楽しい落語を語るのに、彼女は完全に作り込んで、入り込んで演じる。それも素晴らしい。
この日はちょっと相手が悪かったかな。
芸協カデンツァの一員、瀧川鯉白さんはまだ聴いたことがない。こんなサイコパスな人だとは。
まんじゅうこわいを作り替えているが、さすがプロの表現者という作り方。
座布団抱きしめる所作は、先人がやっていてどうということはない。そんな些細なことではなく、古典落語に寄せていかず、離れていってまとめあげるのがすごいなと。
5分でしっかり、ホラー映画みたいな結末を付けてみせる。
この人の落語からも、世界をエスカレートしていくことで逆に整合性を勝手に生み出すテクニックを感じる。古今亭駒治師が得意な創作法。
瀧川一門は日の出の勢いですね。
世間は鯉斗しか知らないかもしれないが、鯉八師をはじめ人材揃い。ダメな人は全然ダメなんだけど。
鯉白さんみたいな才人を、ドロップアウトさせず活かしきるなにかが鯉昇師にはある。
入船亭小辰さんは、がまの油の言い立てを見せたかったのか。
見事ですね。若い人にも、ちゃんと落語の派手派手しい言い立てを見せればわかるということ。
この人の場合、NHK新人大賞の実績もベースにあるんじゃないか。だから本格古典でも、堂々乗り切れる。
クレイジー鯉白と並んで、本格小辰も同点だった。
年末に録画したタイガー&ドラゴン、今月ずっと見ていたのだが、「小辰」の名を名乗るにあたっては、あのドラマの「小竜」(岡田准一)の存在もあったのだろうなと。
予選Bブロックは、私の一押し、春風亭朝枝さん。といっても、二ツ目昇進の芝居で2回聴いて感激して以来、もう1年空いてしまった。
たらちねを5分で縮める際の、地のセリフが見事。こんなのができる人は、地噺からなにから、なにやっても上手い。
声もいいし発声もいい。噺にムダもない。
でも、笑いもない。
立川寸志さんはおすわどん。
珍しい話だが、歌丸師匠がよくやってましたね。
かなり上手いと思うのだが、若い人にはまるで響かなかったようである。
というか、若手の大会にこの人を顔付けしたこと自体がどうなのか。若々しさがないのは、現に年寄りなんだから仕方ない。
そんなに悪く言いたいわけではないのだが、あえて絞り出すように私から一言。なんだか、「高座の上の誰か」を芝居で演じているかのような作り方だった。
といっても、マクラからなにから一切合切作り込んで上がる人自体はおおむね好き。その人たちと何が違う?
寸志さんの場合、作り込んだことそのものに「笑い」が発生しないので、いささか裏切られたような思いになるのかもしれない。本格派なら、もっと自然に映ったほうがいいので。
立川流にあまり好意を持っておらず、さらに寸志さんの師匠(談四楼)も嫌いな私だが、神田連雀亭に寸志さんを聴きにいってもいいなとは思った。
林家けい木さんはつぼ算。あんまり見ない表記だが、「壺算」よりある種落語っぽいかも。
実は単に、フジテレビ独自の漢字制限のような気がする。
バックの、邪魔に思える説明だが、この噺で「1荷(約60L)」、「2荷(約120L)」と画像を映し出す。
意外といいかも。落語好きだからといって、別に昔の単位に造詣が深いわけじゃない。年寄りの落語ファンだって、実はどの程度かわからなくて聴いているのだ。
まあ、二人の担ぎ方でなんとなくわかるにしても。
予選を純古典で見事に勝ち抜くところがすごい。決勝では見事な改作だったのに。
おじさんの後のけい木さんの高座は、とても若々しく、溌剌。
そして、変に狂気を持ち込んで笑わせようとするのでもない。
「上手い」という感はないけど、とにかく自然。あざとさのない、小気味いい落語。
その後モノマネを披露していたが、その際「今の偽物のほうじゃなくて」と先代三平を評するのは、落語協会員のお約束。
「壺算の理屈、いまだによくわからない」とギャグを入れる扇遊、鯉昇の両師匠。そこに、ちゃんと「ぼくもよくわからない」と乗っかるけい木さん。カッコいいぜ。