廓噺について(吉原遊郭に思う)

鬼滅の刃のアニメ新作が「吉原遊郭編」だというので、一部で物議をかもしているとか、いないとか。
子供に説明できないからやめてくれだなんて。
たぶん実際は、大して物議はかもしていないのだろう。
昨年はデイリースポーツが「サザエさん」を勝手に炎上させ、そしてつい最近もFLASHが、浜辺美波の踊る「d払い」CMを炎上させた。
いずれも捏造だそうで困ったもんだ。
最近軽いニュースがYahoo!に載ると、ヤフーコメントに、内容にとどまらず構成から目的から取り上げ角度から全部について批評が入る。
私は結構、面白い文化だなと思っています。
メディアも火のないところに火をつけて回っているようでは先がない。法人が運営するブログだと思えばだいたい合っていると思う。

うちの子は小学生の頃から随分廓噺を聴いている。
親に無理やり連れてこられたのでないことは、袖から見ていればわかるのだろう。掛けてみたくなるみたい。
私が出かける準備していたら、こやつは「吉原行くの?」なんて訊きやがった。行かねえよ。

さて、さして騒がれてはいなさそうなネタに、今日はあえて乗っかってみる。
黙っている人の中に、すでに滅びた遊郭を不快に思う人が間違いなくいることまでは、容易に想像がつくからである。
コンビニから撤去されたエロ本みたいなもんだ。あれが吉原に匹敵する文化だったかどうかは別にして。

直接、吉原遊郭を知っている人など、もはや極めて少ない。
落語のマクラにおいて、よく聴くセリフ。
「昭和33年3月31日をもって吉原遊郭がなくなりまして。親の命日は忘れても、この日は忘れない」
とはいいつつ、西暦でいうと1958年。63年経っている。
三遊亭小遊三、五街道雲助といった師匠など、70代前半の噺家だって、子供だったから知らないのだ。
遊郭に限らず、江戸時代の風俗なんか直接知る人はいない。知らないから、体験していないから描けないなんてことはない。

前述の「親の命日は」の後にさらに付け加えたりする。
「なんとか言う社会党のおばさんが、『あんなものは要りません』と言って潰してしまった。そりゃ、てめえはババアだからいらねえんだ」
現代では怖いセリフだ。
これからは、「わきまえない」女性が増えていくから、落語の伝統だってアンタッチャブルじゃない。

歴史は歴史。遊郭は実際にあったもの。
だが歴史のどの部分を好むか、これもまた、人それぞれ。
遊郭のような歴史の暗部(と思う人もいる)には目を向けたくないかもしれない。
落語は好きだが、廓噺がどうも・・・という女性も。
親に売られたかわいそうな女郎たちを物色する男たち、なんて気持ちが悪いんでしょう。
こういった意見、私の想像の外にはない。主観の問題はどうしようもない。

いろいろ考えると、「廓噺が滅びて落語は残る」という未来だって、可能性としては全然想像がつくのだ。
「廓噺がなかったことにされる」というのではない。「廓噺という、現在では掛からなくなった噺がかつてあった」という未来。
こうなるにあたり、なにかの権力を絡める必要はない。
大多数が廓に不快感を持つようになると、自然にこうなる。
「廓噺には価値があるから未来に残そう」なんて思っている人もいるだろうが、まるで無意味だと思う。

滅びたら残念?
というか、噺なんてどんどん滅びています。廓噺かどうかにかかわらず。
滅びるからこそ、柳家喬太郎師のように復刻に余念のない人が出てくるのであり。
廓噺、とんと聴かないものだけでも、こんなにある。

【恐らく滅びたもの】

  • ひねりや
  • とんちき
  • 万歳の遊び

【珍しめのもの】

  • 磯の鮑
  • お茶汲み
  • お直し
  • 首ったけ
  • 強飯の女郎買い
  • 三助の遊び
  • 高尾
  • 突落し
  • 徳ちゃん
  • 二階ぞめき
  • 羽織の遊び
  • 坊主の遊び
  • 木乃伊取り
  • 山崎屋
  • よかちょろ

【わりと聴くもの】

  • 明烏
  • 幾代餅
  • 居残り佐平次
  • お見立て
  • 紺屋高尾
  • 五人廻し
  • 三枚起請
  • 品川心中
  • 付き馬
  • 辻占茶屋
  • 錦の袈裟
  • 文違い

残っているもの、意外とあるな。
なくなった噺は、「禁演落語」に入っているおかげで名だけ残っている。
別に、ないと困るということはない。

珍しめに分類したものも、たまに「落語研究会」に出たりする。
こうしてみると、心配しなくても、当分滅ぶことはなさそうだ。

無理に残す必要はない。だが私はいつも、女流落語家が手を出さないかなと思っている。
春風亭ぴっかりさんが、「元禄女太陽伝」という新作落語をやっていたのは聴いた。
大石主税の筆おろしをする、眉毛のつながった花魁を演じていて感心したものだ。
「文違い」「お見立て」「辻占茶屋」など、女の登場人物が立体的に描かれているものは、やる価値があると思う。

ちなみに廓噺以外にも、廓の存在が大前提になっているので、廓噺が滅びると困るものもある。

  • 鰍沢
  • 蔵前駕籠
  • 唐茄子屋政談
  • 文七元結
  • 鼠穴
  • 柳田格之進

もっともっとあると思うが。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。