落語のマナー「ヨセしぐさ」とは(芸人編)

落語のマナー、「ヨセしぐさ」を学んでいただく第二弾です。第一弾はこちら

ヨセしぐさは江戸時代から連綿と続いているマナー体系です。

しかし笑止千万なことに、一部から「捏造した歴史」だなどと誹謗中傷を受けております。とんでもないことです。

ヨセしぐさについて文献が残っていないのは残念ながら事実です。ですがこれは明治維新の際に、寄席の常連たちが政府軍に次々殺されていった(いわゆる寄席っ子大虐殺)ためで、仕方ないのです。

ヨセしぐさが捏造だと主張するのなら、「寄席っ子大虐殺」がなかったことを自ら証明すべきなのです。

さて今回は、鑑賞する側ではなく、芸を披露する芸人側のマナーについて取り上げます。

江戸伝統の寄席の伝統を引き継ぐ芸人も、マナーを常に意識しなければなりません。

こちらを呼んで、芸人の皆様もいま一度、立ちふるまいに気を付けてみてください。

いえ、「寄席しぐさ」ではありませんよ。ヨセしぐさです。

NPO法人ヨセしぐさ

【待ってました返し】

高座に登場するなり、お客さまから「待ってました」と声が掛かることがあります。

調子に乗ってはいけません。お客さまがこう言うのは、次のいずれかの理由です。

  • 一度言ってみたかった
  • 自分が贔屓だと、周りの客に見せつけたい
  • 誰にでも声を掛けるのがマナーだと思っている

ですから、声が掛かって喜んでいては陰で笑われてしまいます。

そこまで踏まえた返し方というものも、昔からあります。次の通り。

  • 「親戚を呼んでおくといいですね」
  • 「こないだ、下りるときに待ってましたって言われました」
  • 「声掛けも嬉しいものですが、もっと嬉しいのがご祝儀です」

ですが、誰にでも声を掛けるお客さまがいる場合、この返し自体が被ってしまうので、避けましょう。

お客さまから声が掛かったときの正しい態度は「拒絶」です。高座に緊張感を与えましょう。

正解例は以下のとおりです。

  • 「俺なんか待ってるわけねえんだよ!」
  • 「冗談言っちゃいけねえ!」
  • 「うるせえハゲ!」

【へりくだり】

芸人たるもの、ヨイショが最も大事です。

高座に出て高いところから見下ろしているからといって、勘違いしてはいけません。

とことんへりくだって、お客さまをいい気持ちにさせておけばいいのです。

ほとんどのお客さまよりいい大学を出ていることは忘れてください。

高座では自分がどれだけ師匠をしくじっているか、そしてモテないかを語りましょう。

ウケないギャグも効果的です。お客への究極のへりくだりこそ「スベリウケ」です。

ギャグが不発だったとしても、うろたえてみせてはいけません。予定通りウケなかっただけなのですから、堂々としていましょう。

お客さまから「めげずにがんばれ」とご祝儀をいただけるかもしれませんよ。

【わらいたまえ】

芸人たるもの、高座でのツカミはもちろん大事です。

ただ、ツカミの前にやることを忘れないようにしましょう。

「面白くなくても笑ってくださいね」とお客さまに伝えておくことです。

これにより、ウケないときの全責任をお客に負わせることができます。

ストレスを貯めないことこそ芸人の神髄です。

ただ笑えと言っても効果が薄いので、理屈が欲しいという芸人も、中にはいるかもしれません。それならば、「笑うと免疫が向上して健康にいいですよ」と付け加えておきましょう。

【まっぴるま】

最近は、昼間のほうが寄席も賑わっています。

平日の昼間に詰めかけたお客さまに伝えることを忘れてはいけません。

「どうして平日昼間にこんなに集まるのでしょう」とお客さまに向かって疑問を述べましょう。

言われた側も、我に返り、油断して聴いていてはいけないと、ハッとするのです。

あ、そういえば祝儀を持ってきたんだと思い出す人もいるはずです。

【ねむれねむれ】

自分の芸に自信が出てきた頃こそ気を付けなければなりません。

寄席では、お客さまを気持ちよくさせることが究極の目的です。

もっとも気持ちよくなった状態とは何か。すやすや眠りにつくことです。

ですから、お客さまがおやすみになっていたら、子守唄として大成功なのです。

上方落語で見台を使っているときは、お客さまを起こさないよう静かに叩きましょう。

【田舎しぐさ】

地方の落語会はギャランティーも高くなりますので、呼ばれたら二つ返事で行きたいもの。

田舎の会では、「所作を普段より大げさにする」など、わかりやすい心がけをしている人も多いでしょう。

さらにできることがあります。

地方の客にとっては、落語界のスターといえば笑点メンバーを指します。

ですから、自分が笑点メンバーのことをいかによく知っているか、いかに近しいかをアピールしましょう。

マクラの最後に、「三遊亭円楽師匠に教わったネタをやります」と語れば、拍手喝采です。実際に教わってなくても構いません。

お客さまが、「笑点の師匠から教わったんだって」と満足すればいいのです。

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。