久々に神田連雀亭に行ってきました。改装後は初めて。
あまり惹かれる顔付けがなかったりして。春風亭昇々さんも卒業してしまったし。
古今亭駒次さんはよく出ているが、先日幸いよそでタダ落語を聴けた。
今日の顔付けは、三人揃って心惹かれる。
昇羊 / 夢の酒(上)
楽大 / 強情灸
花飛 / 一眼国
芸協、円楽党、落語協会から一名ずつ。同じ協会のメンバーよりこういうバラバラなのがいい。
ワンコイン寄席は文字通りの500円。午前11時半から1時間で終了。
電車に乗って、これだけ聴いてまっすぐ帰ってきました。期待通り、満足のいく内容だった。
土曜に行くのは初めて。混んでいるのかなと思ったが、平日と変わらない。
前説は三遊亭楽大さん。円楽師の弟子。
昨年両国で二度お目にかかって、その明るい高座のファンになった。
「携帯を切ってくれ」とこれだけの要件を伝えるだけで、爆笑を生み出すという得難い人である。
マナーモードだと、高座の最中「んー。んー」みたいな音が響くのでみんな困りますよねと。決して押しつけがましくなく、全員に携帯を切らせる。
春風亭昇羊「夢の酒」
トップバッターは春風亭昇羊さん。
香盤が一番下の者は、10時半に来なきゃいけないのに遅刻したそうである。
目上の人と話が上手くできないという、今どきの若者らしいマクラから。
芸協のそうそうたるメンバー、小南、小文治、遊雀といった噺家さんたちと飲んでいたと。そのとき、昔ばなしとして、脂の乗った時期の志ん朝が、先代小さんに楽屋で注意を受けたというエピソードが披露された。
昇羊さんここで出番だと思い、「志ん朝師匠が天狗になるなとか注意を受けたっていう話、じゃないですよね」と突っ込んだ。居並ぶ噺家たち、揃って「違うな」。
特に小南師匠のモノマネがそっくりで爆笑。で、志ん朝は一体なにを注意されたのかは不明のまま。
なんだか聴いてるほうももやもやするのだが、楽しいのである。
そして、師匠と会を開く前日、緊張のあまり師匠・昇太が夢に出たという話。
そこからスッと夢の噺へ。あ、古典なんだ。
昇羊さんの古典落語は初めて聴く。
柳昇→昇太とつながる新作落語の一門だが、最近は昇太師も昇々さんも、なぜだか古典が多いみたい。
新作好きの私だが、素晴らしい古典落語を聴かせてくれるそのことに文句はない。
昇羊さんのマクラに名前の出てきた兄弟子、昇也さんも古典メインのイメージ。さらなる兄弟子の昇吉さんも、よく知らないがそうだろう。
昇羊さんに関しては、夏に楽しい新作を聴いた際、古典に力を入れたらさらにすごい噺家になるのではないかと考えた。この日は新作に期待をしていたのだが、そういう背景があるので古典でも全然構わない。
その古典が、私の大好きな演目「夢の酒」である。
決してメジャーな噺ではないのだが、私にとっては古典落語の中でも一二を争う好きな噺だ。でも、落語協会の、それも柳家の噺家さんからしか聴いたことがない。
柳家小満ん師のは先代文楽から来ているのだろうけど。それ以外は、さん喬・左龍の師弟。入船亭扇遊・扇辰師もやるが、やはり柳家だ。
昇羊さんは芸協。芸協でやる人がいるのか知らない。昇羊さん、誰に教わったのだろう。
それはそうと昇羊さん、この夢の酒が無茶苦茶上手い。かなりびっくり。
新作派の噺家さんが古典をやったとき特有の、ちょっとピントが合っていない変な感じは微塵も感じない。もう、本当に上手い。
むしろ、若い人がやることによる爽快感もプラスされていて、これはもう、只者ではない。
もともと難しい噺だと思う。可愛い嫁、お花の悋気と、一方でその悋気を恥ずかしく思う気持ちも描かなければならない。
一か所だけギャグで汚い言葉を使うお花だが、どこまでも品がいい。
そして、直接描写するお花だけでなく、若旦那の夢に出てくるご新造さんも非常に色っぽい。
このご新造は、あくまでも旦那が描写するだけの存在なのだが、そこは落語マジック。お花と同等のリアルな存在として描かれるのだ。
2016年のM-1グランプリ。「和牛」のネタに出てくる彼女のことを、オードリー若林がラジオで「付き合いたいよなあ」と言っていたのを聴き、わかるわかると思った。
この日の昇羊さんの描く可愛い嫁、お花について、私もこんな女性を嫁にしたいと思った。素晴らしい人物描写。
だが、お花が泣き、これから酒の好きな親父さんが出てくるはずの場面で、「この後親父さんが出てきてすったもんだになります」と切って下りてしまう。
なんだこりゃ、宮戸川かよ。
私が、「夢の酒」がたまらなく好きなのは、親父さんの酒に対する欲望が出てくるからだ。つまり、色欲が噺の冒頭に存在するが、後半の、酒への欲がそれと同等に強いという点がたまらない。
両方揃ってこそ楽しい噺。酒が出てこないと片手落ちではないですか。
とはいえ、前半だけの「夢の酒」ではあるが、とても気持ちのいい一品でありました。
神田連雀亭の演題ボードに「夢の酒(上)」と書いてあったわけではなく、あくまでも「夢の酒」。上の演題一覧では、私が「上」を勝手に付けた。
次は、酒が出てくるところまで聴きたい。もしかすると、時間の関係以外に、若い昇羊さんが酒の魅力を描く自信をまだ持っていないのかもしれないけど。
先に女性の魅力が出てしまっている分、酒への欲望は、「親子酒」よりずっと難しいと思うのだ。
三遊亭楽大「強情灸」
次に、前説から笑わせてくれた巨体の三遊亭楽大さん。落語もカーリングも、明るいのが一番。
20分やることになっているのに、昇羊さんが16分くらいで下りてきたとまず文句から。親父さんまで出せたんじゃないのかと。
遅刻はするわ、勝手に早く下りるわ困ったもんだと。
その楽大さん、兄弟子・楽生師に誘われて芝居に出るらしい。テケツでもらったチラシの中に、芝居があるなと思ったが。
4月3~5日に「彩の国さいたま芸術劇場・小ホール」で「永遠の一秒」。楽大さんは5日の千秋楽だけ楽生師の代演。
本人37歳だが、50代の男性役をする。しかも20代の娘がいる役。
芝居の世界にはありがちだが、ノーギャラでチケットバック収入だけだそうだ。
興味のある人は、楽大さんのツイッター、フェイスブック等で連絡を取って、直接チケットを買ってあげてください。
私? 前売4,300円もするそんな高いチケットは買えません。500円の席に来るのが精いっぱいな人間だもの。
芝居を巡り稽古を進める中、事前に聞いていない話ばかり出てくる。楽生師に苦情をぶつけたら、「降りてもいい」と真顔で言われた。なんだシャレもわからないのかよという点を噺家の「強情」に結び付けて強引に「強情灸」に。力技。
強情灸は柳家のイメージだが。
風呂が「ぬるい」マクラから迫力満点。「ぬるいのが来るから動くんじゃねえ」というこの楽しいマクラ、強情灸以外に使いみちがないのがもったいないと思う。いや、だから楽しいのか。
本編に入り、灸の熱さも迫力満点。本当に熱そうである。といってこういうシーン、客がリアルに熱い、かわいそうと思ってしまってはいけないのだ。楽しい噺に没入できなくなる。
楽大さんのマンガみたいなキャラが本気で熱がっている様子をニヤニヤ眺めるのが、落語の楽しみ。
漫談系のマクラで散々笑わせておきながら、楽大さん、その芸は非常に本寸法である。ケレン身なく、入れ事もなく、噺そのものでウケさせる。八百屋お七のギャグが確かちょっと入っていたくらいか。
柳家花飛「一眼国」
トリの柳家花飛さんは二度目である。かっとび。前座時代は仮フラワーこと柳家フラワー。
早朝寄席で聴いた際も、声の低い人だと思っていたが、私のその記憶よりさらに低い。
噺家さんは、声の高いほうが一般的には有利だと思う。高い声を張り上げると客が高揚するのである。
だが、花飛さんにとってはこの低く渋い声こそ武器。自分の武器をよく知っているのは偉い。
どう武器になるか。客に緊迫感を与えるのである。落語でもってやたら緊迫感を与えてはいけないが、そういうムードの向いた噺もちゃんとあるのだ。
向こう両国の見世物小屋のインチキ見世物から、ひょっとするとと思ったがなんと「一眼国」。
めったに聴けない噺。先日来、入船亭扇辰師のCDでよく聴いているのだが。
どこを切り取っても楽しい噺だが、笑いどころというものはほとんどない。
だが、低音の花飛さん。笑いどころの少ない噺を堂々と乗り切る。笑いどころはないが、緊迫感を持ってじっくり聴かせれば、もとが楽しい噺。しっかりと乗り切れるのだ。
もう、のめり込んで聴かせてもらった。緊迫感が続くまま、すばらしいデキ。
帰ろうとすると、出口付近でマイクを通したような不思議な声が聞こえる。
「本日の演目は、『夢の酒』『強情灸』『一眼国』でした」。なんのことはない、客を見送る楽大さんが生声で発していた。
本当に面白い人である。
わずか1時間の席だが、それはそれは満足しました。