R-1やら古畑任三郎やら自虐ネタやら

新生R-1グランプリは観なくて正解だったようだ。
優勝のゆりやんは嫌いじゃないが、コンテスト向きとも思わない。
R-1の運営のひどさは、毎日ラジオで聴いてるナイツが、ネタとしていじりながらすべて説明してくれた。
私はR-1については過去の大会も含めてほぼ観たことがない。You Tubeにアップされているかもしれない動画も視ていない。
時間を無駄にしなくてよかった。
せっかく時間を割いて、腹が立つだけにとどまらず、ブログのネタにすらならないのだとしたら最悪だ。

ちなみにR-1を観ずになにをしていたかというと、CSで古畑任三郎の第1シーズンが一挙放映されていたので、そちらをずっと。
何度も何度も視ているのだが。でも、仕事しながらだとちょうどいい。
第1シーズンでは、西村雅彦の「今泉慎太郎」もまだそれほど弾けているわけではない。でも面白い。
古畑を視ているほうがずっと、落語について考える参考にもなる。
古畑は基本ふざけたドラマだが、そうはいっても犯罪を解決するのだから、だんだん世界が解決に向け収斂していくのは当然。
だが、すんなりゴールに向かうようなシンプルな作りではない。
つくづくすごいのは、軽いギャグ(落語ならクスグリだ)を伏線にして、解決編で大きく回収してくること。
エピソードのひとつ。ニッポン放送のラジオパーソナリティである桃井かおりが、大胆にもオンエア中に殺人を犯す。
事件を解決に導くひとつが、殺人実行の前に報道局の受付でチラっと視た、バカボンパパのお面を被った強盗のニュース。
バカボンパパはさりげないクスグリだと思っていると、後で驚くことになる。

これ、絶対に新作落語を作る際の参考になるはず。伏線の張り方だけではない。
いつも古今亭駒治師の新作落語に感じるのだが、世界に意図的に混沌を放り込むという手法の一環でもあるのだ。
世界観が収斂する渦中に混沌を放り込むので、おはなしとしてはやや不安定になりかねない。
だが、客はそういう状況に置かれると、自らそこに整合性を見出そうとする。
作者が矛盾を広げているのに、客は積極的にそこを埋めてしまうのである。真剣なドラマが、それゆえに非整合点を残してしまうのと比べても、ずっと気にならなくなる。

もうひとつ。先日から再読しているナイツ塙の名著「言い訳」にヒントを得て。
実に刺激的な書物である。落語について書かれているわけではないのだけど、芸というもの、漫才も落語も掘り下げると共通している。

いくらでもヒントのある本だが、今日は「自虐」について。
私も、繰り返し落語自虐の危険さを説いているのだ。
寄席では、自虐はぴろき先生に任せておいて欲しいなと。
自虐を吐く噺家で好きな人といえば、古今亭今輔師に、柳家花いちさんぐらいのものなのだ。
自虐は誰でも手を出せるが、大変ハードルの高い芸。
私は、酒井くにお・とおるの名フレーズ「ここで笑っとかないともう笑うとこないよ」すら、好きじゃない。

かつてこんなのも書いた。

「自虐」警報

2018年のM-1グランプリで、上沼恵美子が「ミキ」の自虐はいいが「ギャロップ」の自虐はよくないと語っていた。
私は我が意を得たりと思ったのだが、当時これを矛盾だと、エミちゃんのわがままだと思ったお笑いファンも多かったはず。
ナイツ塙は、これについて著書に記している。彼もまた、自虐が好きじゃないのだと。
容姿のコンプレックスをそのまま舞台で出すのは芸じゃないと塙さん。
R-1と同じく彼の嫌いな「女芸人 THE W」でも、「彼氏がいない」ネタばかり続いてうんざりだと。
ぼくらナイツみたいに、時事ネタやったっていいじゃないか、目立つよと。
ここから塙は、女芸人がそのようなネタを作らざるを得ない社会圧力の存在にまで思いを馳せる。
いっぽうでは最近、ガンバレルーヤよしこがブスいじりをしにくくなったなどと嘆いているというネット記事も読んだ気がする。
容姿をいじるのもいじらないのも、流されてやっちゃダメだ。これは私の意見。

本の続きはここから、寄席の落語のようなでき上ったネタにまで話は飛ぶのだが、残念なことに聞き手があまり落語に詳しくないみたい。
本の先を追うと、いきなり昔話の「桃太郎」が登場する。桃太郎も立派なネタなんだと塙。
唐突で流れがぶった切られている。塙さんは昔話のではなく、落語の「桃太郎」について述べたんじゃないかな。

2019年のM-1では自虐は出ず、2020年は、ウエストランドだけだった。
ウエストランドだって、自虐を一周しているネタなので、別に批判の矛先にはいない。
本の影響が大きいのかもしれない。
でも、「自虐はやっちゃダメ」という決めつけも疑問。そんな思考停止のネタ作りになんか期待していない。
捻った自虐、気持ちいい自虐だったら構わないと思うけど。
漫才の場合、「ボケの自虐を、ツッコミがスルーする」なら成り立つように思う。

作成者: でっち定吉

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