池袋演芸場17 その4(色物の前座修業)

夜の部の開口一番は、二楽師の弟子、林家八楽さん。今年前座になったばかり。
現場では知らなかったのだが、なんでも二楽師の息子らしい。
普通に落語をやるんだな。たぶん1年ぐらい前座をやってから、紙切りを始めるのだろう。
色物さんでも、前座修業する人がいるが、それだけメリットがあるということだろう。
二楽師は、前座修業をせず芸人になってしまって、後悔があるのではないか。
二楽師が前座修業しなかったのは、お兄さんの桂小南師が、芸協で前座をやった結果、自分の意思で噺家になってしまったことが背景にある。
父の先代正楽は噺家出身で、前座修業の大切さを知っていたからそうさせたのだが、息子を跡継ぎにする目論見は頓挫してしまった。
先代正楽、いったんはさん喬師に次男、二楽師を預けようとしたが、さん喬師に「この子が噺家になりたいといったら反対はできない」と言われたので、自ら育てることにしたそうで。
だから二楽師は、最初から正楽師と一緒に高座に上がっていた。

で、八楽さん。
池袋ではほとんど聴かない「からぬけ」をやるあたりにも、真の噺家ではないのだという気配が漂う気がする。
それにしてもヘタな落語。
棒読みでヘタな前座は大勢いる。でも、そういう前座は意外と微笑ましいし、嫌な感じは受けない。
だが、八楽さんのヘタさはそういうものではないのだ。前座噺にギャグを加えてウケようとする、痛い前座ともまた違う。
しっかり大きな声で話すことができているのにもかかわらず、落語としての方法論がことごとく間違っているため、驚くほどつまらない。
静まり返った客席は、もちろん前座の落語に聴き入っているのではない。
本読もうかと思ったくらい。客席の明るい池袋、さすがに不謹慎だから我慢したけど、坊主の読経のように退屈な15分。
素人からも明白に指摘できる部分でいうと、与太郎をわざわざ変な声で演じるからいけない。与太郎が出てくる前座噺は案外少なくて、「牛ほめ」「道具屋」ぐらいだから、気づきにくいものか。
誰かちゃんと教えてやらないと。
まったくの想像なのだが、「あいつは紙切りだからいいや」という意識が、楽屋にあるのではないかな。
素人落語が高座に上がると客に迷惑。たとえ短い期間だとしても、きちんと噺家として扱って、育てて欲しいものだが。

珍しく実名を出して前座の批判をしてしまったのだが、そもそも匿名では無理だし、必要があってのことなのでお許し願いたい。
ただ、私は本人に対して文句があるのではない。今後寄席で紙切りデビューしたときに、色眼鏡で見る気も一切ない。
あくまでも、楽屋と落語協会に対する批判ですからね。
師匠は落語を教えられないので、仕方ない。

柳家小太郎「初天神」

ちょっと変な空気の漂う中、二ツ目の小太郎さん登場。
現状、ちょっと疲れるタイプの噺家だが、こんな気まずいときにはとても頼りになる。
先に上がった前座をいじる人なのだが、あまりにもまずいと思ったのか今回はスルーして学校寄席のマクラ。
「みんな真面目に聴くように。笑ったりしないように」という、定番の学校寄席小噺を入れないので感心する。あれはもう、本当にやめて欲しいです。
その代わりに、真面目な女教師の挨拶と、落語が好きすぎる教師の挨拶という新たな2パターンを放り込んでくる。
どちらも変なリアリティがあって大ウケ。

ギャグたっぷりの初天神は面白かった。飴は飛ばして、団子に絞り込む。
ただいつも思うのだが、小太郎さんの路線の先には、巨人・一之輔がいるから大変だ。
初天神など、誰がやっても一之輔の陰が見えてしまう。でも、先日橘家圓太郎師のとてもユニークな初天神を聴いたりしたし、探せば突破口はあるだろう。

続きます。

作成者: でっち定吉

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