亀戸梅屋敷寄席20(中・三遊亭好楽「ぞろぞろ」前半)

仲入り後、三遊亭楽市師は2年ぶり。
その際も3月の亀戸で、同じ「犬の目」。

ジェネリック医薬品は業界では「ゾロ品」って呼んでるそうですよと。後からぞろぞろ出てくるから。
私にも、「ジェネリック落語会」のお誘いがありました。「三遊亭円楽独演会」という表題と、円楽師の写真が載っているポスター。
でも中身は楽市の落語なんだと。そんな会やっちゃいけませんが。

葛根湯医者のマクラを振る最中、外を救急車が通る。どうせなら、織り込んで欲しかったななんてちょっと思う。
「浅草お茶の間寄席」で、アドリブ得意な三遊亭遊雀師がやっていたのを聴いたばかりなのだ。
遊雀師は、客のくしゃみからなにから、全部取り込んでしまう。

落語協会の柳家一琴師がやる、小児科と産婦人科の対応の違いのマクラを振る。
2年前に聴いた「犬の目」の際にもこれを聴いたが、その際と結構違っていた。コンパクトになって進化している。
そして本編も随分コンパクトになっていた。やはり進化なんでしょう。
目玉を食ってしまった犬のポチを捕まえてから、こやつの目をくり抜くまでに躊躇がない。
5月のメーデーになったらちゃんと生えてくると言っているから、愛犬家も安心でしょう。そうかな。
目玉を扇子でもって、高座の脇に干しておく所作は前回あったか? 初めて観た気がするが、いいビジュアルだ。
目玉がないときの意外感がよく伝わってくる。

トリの好楽師は、9月以来。もっともっと聴きたいものだが。
ネタの極めて多い人で、一度もカブったことがない。そしてまた、マクラも一切被らない。
笑点のスター(?)であるが、亀戸、両国、上野広小路、日本橋などで実に気軽に聴ける師匠である。
好楽師のお客は、実に品がいいのも特徴。

今回の「ぞろぞろ」、トリにしては軽い噺と思ったのだが、実に奥深い、勝手に哲学的な要素までにじみ出てくる内容だった。
好楽師の落語には、広い奥座敷がある。だから好きなのです。
ちなみにこの演目、楽市さんの「ゾロ品」から思いついたのだと、勝手に私は思う。

まっピンクの、笑点スタイルの着物。もうこれについて説明はしない。
例によって、高座に上がる前に深々とお辞儀。
「熱燗二本」のCDデビューで、あちこちの放送局に呼ばれ忙しくしている好楽師。まあ、大分やら沖縄やらから呼ばれるなんて言ってたが。
初めて千葉テレビに呼ばれた。京成に乗り、弟子の好好さんと一緒に出掛ける師匠。
行ってみたらテレビ局は刑務所の隣で、嫌な予感。だが、神野美伽と会えたりしてご機嫌な師匠。
収録が終わって、またタクシーで京成千葉中央駅に帰る。そこで、「吉田類の酒場放浪記」に出ていた「焼鳥 丸十」というお店を思い出し、行ってみる師匠。
行ってみると実に狭い店。
まだコロナ禍。仕切られた中で、マスクしながら静かに弟子と飲む師匠。お店の人は好楽師に気が付いたが、大騒ぎはしないでいてくれる。
しかし、居合わせたご機嫌な3人組に見つけられる。
3人組のうち、最も偉いのは漁協の人。海苔やひじきがおいしいから送るよと偉い人。
ありがとうございますと受ける好楽師。弟子の好好さんが気を利かして、住所は自分のものを言う。まあ、池之端しのぶ亭の住所は誰でもすぐ調べられるけどな。
で、その海苔やひじきは、いまだに届かないんだそうだ。飲み屋での発言は信用したらいけないと。

横浜・磯子の峯の灸の話。
今でもお寺で峯の灸の施術が受けられるのだそうだ。
調べると確かに、護念寺というお寺で体験できるとある。
好楽師も若い頃、楽太郎(現・円楽)師と一緒にここに行って施術を受けたという。笑点などのテレビ企画なのだろうか。
あまりにも熱く、大の大人だが思わず悲鳴を上げた。その灸の痕はいまだに残っている。
「強情」の話ではなく、話のテーマは信心。なのでこの日の演目が「強情灸」だとは別に思わない。

信心の話はまだまだ続く。
とげぬき地蔵や、歯が痛いときの梨の実の願掛けなど。
今日は「佃祭り」なのかと思ったとたん、「佃祭りにも出てきますが」と好楽師。あれは夏のお祭りだったか。
信心や願掛けは、一概に非科学的だとも言えないのだと。信じる気持ちが強いからこそ、お札を飲んだだけで病気が治ってしまうのだ。
信じない人が同じことをしても、治らない。
浅草の外れ、太郎稲荷に舞台を移して、ぞろぞろ。

ぞろぞろという噺、二ツ目がよくやるイメージだ。
だくだくと同様、大変軽い、胃にもたれない噺。寄席では他の噺とツかず邪魔にならず、覚えておいて損はない。
トリでこの軽い噺をやる人など初めて見た。
だがこれが、なかなかズシリと来た。別に人情噺でもなく、軽さ自体はしっかり保持されているのだけど。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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