奮闘馬石の会(上・柳家り助「寿限無」)

朝のブログ更新がまたできなかった。
数本、同時に執筆しているのだが、ひとつも完成しない。
結局、今日も現場でネタを拾って深夜の撮って出し。

池袋演芸場の、新作台本まつりに行くつもりでいたが、都合もあって夜席のほうへ。
池袋の下席夜は、落語会。隅田川馬石師の独演会「奮闘馬石の会」だ。
池袋は私のホームグラウンド。たびたび来ているが、この下席の落語会には、実は初めて参加する。
下席の昼が特に好きなので、自然こうなる。でも、馬石師だったら一度独演会も聴いてみたい。
この日の昼席トリは、柳家喬太郎師の「東京タワーラブストーリー」だった。これは昨年聴いたのでいいとする。

落語会だけあって固定ファンが多く、テケツに立ち寄らず列に並ぶ人が多数。私は2,500円支払って当日券を購入。
馬石師ご本人もじきに現れる。
5時半開場と公式には書かれていたが、6時だった。なので30分待たされた。
池袋演芸場、最前列は開けてあるが、市松模様に座らされるようなこともない。ほぼ満員。

寿限無 り助
初天神 馬石
(仲入り)
淀五郎 馬石

 

馬石師のネタ出し演目は、当日チラシで知った。
しばし寝ているうちに開演。前座から。
落語会なので、金原亭・古今亭の一門の前座が出るのかと思ったら、メクリには「り助」。
柳家り助さんだ。海舟師の弟子で、師匠の前座時代の名をもらっている。
昨夏、国立演芸場で初めてこの人の高座に遭遇した。
大して面白い噺ではない「桃太郎」を、爆笑の一席に作り替えていて、いたく感心したものだ。

り助さん。抑揚をあまり付けずに喋る。
柳家り助と申します。親と親戚に、噺家になるのを反対されました。師匠にも反対されています。
頭はよかったんです。いつも2番でした。下から数えて。
こんなことを抑揚を付けず喋ると、大爆笑。
馬石師のお客も、前座で笑っていいのだと気づき、くつろいで笑い声を上げる。

前座の分際で振る自分自身のマクラからも明らかだが、り助さんは極めてお笑いセンスの高い人。
噺家にお笑いセンス、必須ではないと思うが、あってもちろん損などない。
り助さんからは、ピン芸人としてやっていけそうな、高いセンスを感じる。

「かくばかり偽り多き世の中に、子の可愛さは誠なりけり」と振る。
えー、馬石師が「初天神」ネタ出ししてるのに、いったい何の噺? 子ほめ? と思ったら寿限無。
軽くツいてる気がするが。
しかしこの寿限無、私が聴いた中で最高傑作だと断言する、すばらしいものだった。

寿限無という噺、最近妙に聴くようになった。流行っているみたい。
なぜ流行るのか、そしてなぜそもそもそれほど掛かっていなかったのか、どちらもよくわからない(たぶん、誰も知らない)。
学校寄席では以前からよく掛かるようだが、それだけのイメージ。
ひとついえること。みんな知ってはいるものの、大した噺でもない。
寿限無を語る前座なんて、だいたい紋切り型。会話だって、「名前を付ける」目的に沿って義務的に進むだけで、面白くもなんともない。
面白く改造しようと思うのは勝手だが、前座がいじるポイントなんて、どこにもないだろう?

しかし、あったのだ。しかも無数に。よく見つけてくるものだ。
素晴らしいクスグリの数々。そのクスグリも、古典落語っぽい、つまりどこかにこんなやり方があったかのようなものと、現代的なものと両方入っている。
だが、クスグリだけでおかしいのではない。漫才のセリフとして捉えても、十分面白いのだ。
最近の漫才師ではあまり例が思い浮かばないのだが、やり取りだけで面白いベテラン師匠のような。
つまり、すべてが面白く仕上がっている会話の中に、ボーナスのようにクスグリが乗る。
こんな技術とアイディアを持っている前座など、いない。今後もそうそう出ないだろう。

隠居に「なんしか、にょしか」と訊かれた八っつぁん、「え、ナンシーにジェシー?」。
これは桃月庵白酒師を彷彿とさせる現代的クスグリの例。だが強調したいのは、すでにこのクスグリ、八っつぁんがなにを語っても面白い状態において発せられているということ。
このクスグリを抜いたって、間違いなく爆笑なのだ。
水行末雲行末風来末のあたりでは、「なんだかバツバツ言ってるね」。これは古典的クスグリの例。
他にも隠居に向かって「嘘つけ!」とか平気な八っつぁん。
パイポパイポのあたりでは八っつぁん、「何言ってるのかわからないですけど」。

「全部付けちまえ」と乱暴なことを言うのは、八っつぁんでなく隠居だった。
隠居が手ぬぐいの本を開きながらいろいろネタを語るのも珍しい。
たらちねのクスグリである、「チーン、ご焼香」も入っていた。つかみ込みで反則だと思うのだけど、この際許す。
寄席だとまずいけど。前座の後で二ツ目がたらちねやる可能性もあるし。

お笑い芸人的センスの持ち主である前座・り助さん、寿限無を「根問もの」としてやりたかったようだ。
だから、寿限無くんが大きくなってからのエピソードは、たんこぶの件だけ。
「学校行こ」は最初から入れないのである。大して面白くないしね。

馬石師の会ではあるが、り助さんの高座が聴けて本当に幸せだ。
それは、馬石ファンの人たちにとっても同様だったようである。

主役の高座に続きます

(追記)

よく考えたら、寿限無の後に「たらちね」は出ませんね。「長い名前」がツくから。
つかみ込みには該当するかもしれないが、問題はないか。
 
 

作成者: でっち定吉

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