奮闘馬石の会(中・隅田川馬石「初天神」)

昨日、前座の柳家り助さんを激賞した。ちなみに10分の短い高座。
り助さんが素晴らしかったからといって、主役の馬石師が食われたわけではない。でも同じ状況になったら、食われる真打だっていそう。
寄席の定席の場合、実際にり助さんに食われて往生している二ツ目も多いのではないか。
二ツ目時代の三遊亭鬼丸師は、前座の頃の一之輔師に食われたらしい。
前座の頃の桂宮治師が、二ツ目を食ってしまった場面には実際に出くわした。
独演会で本当に主役を食ってしまったらさすがによくはない。ただり助さん、面白くても極めて軽いので、堂々とした真打ならば気にならないだろう。

独演会の主役である隅田川馬石師、堂々と登場。
今回の奮闘馬石の会、「39人」のくくりはすでに取れていたが、時節柄立ち見もよくないので池袋演芸場と綿密な打ち合わせを繰り返したそうで。
前売りを80人に抑えてくれと強く言われていたのだそうだ。その甲斐あって、絶妙な人数だと。
ちなみに、下席なので補助椅子も出ている。
ネタ出しは、今日初めて解禁したらしい。前月に中村仲蔵を掛けたら、淀五郎をやりたくなったのだ。
淀五郎、笑いもない噺ですがお付き合い願いますと。私はネタ出し見て喜びました。

馬石師は語らなかったが、来月の会はなぜか無観客配信。なぜかというほどなぜかではないが。

り助さんの話。
この日の前座がり助さんなのは、別に馬石師が頼んだわけじゃない。この特選会は、前座が寄席として顔付けされているので、たまたまなんだそうだ。
この下席夜の落語協会特選会、位置づけがよくわからないのだが、あくまでも寄席の一部ではあるらしい。
定席の場合は立前座が開口一番を指名するのが普通だが、そのあたりがどうなのかはわからない。
でも、り助さんで皆さんもよかったんじゃないですかと馬石師。そうですね。

り助さんは古い前座で、もう香盤では上から3番目なんです。だからもうじき二ツ目昇進なのだが、本人に今日あったら落ち込んでいる。
時節柄、しばらく(昇進は)ダメそうですと。
り助さんは、寿限無を小里ん師(大師匠)に教わったそうです。小里ん師は、先代小さんの弟子で、端正な人なんです。
本当に教わったのかなと馬石師。

ちなみにこれから掛ける、ネタ出し初天神にツいている寿限無だが、これは馬石師が事前にOK出したそうだ。
り助さんネタ出しを見てもなおやりたそうにしてたので、いいよと言ったんだって。

本来の寄席ではそんなに自分のことは話しませんが、今日は独演会なのでちょっとお話しますと馬石師。
靴の話。
非常に面白かったが、私が書き写しても別に面白くならない。
要は、1万円を超えた場合に20%オフのサービスがあるので、いろんなオプションを苦労して付けたということである。
そして、そこのご主人極めて親切だったのに、いざ靴を取りに行ってみると、恐らく奥さんは他の客に掛かりっきりで、特に愛想はなかったという。
馬石師、明確には語らなかったがこのエピソードから、自分自身のお客に対する姿勢を改めて考えさせられたようなのである。

定席では自分の話はしない馬石師だが、たまに語ると緩くてとても面白い。師自身がリラックスして、自分の面白フィルターに引っ掛かった話をするからである。
この面白フィルターの存在は重要だと思う。本編に入ってもそう。
師匠、五街道雲助師も寄席では自分語りはしない。独演会だと楽しい話をしてくれるが、しばらく聴いてないな。

マクラだけで一席分あったので、実質3席というところ。
ぬるっと初天神へ。
初天神、本来は1月25日に向けてやる噺ですが、寄席では前座噺として一年中やっています。私も前座の頃よくやりましたと馬石師。
その初天神、誰からも聴いたことのないスタイルで驚いた。前座の頃にこんな形でやっていたはずはない。
密かに練り上げているのだ。

なにしろ金坊が、おっ母さんに、お祭りについていけと言われて、「やだ」。
親父は一人で行きたい。金坊もしみったれの親父とは行きたくない。既存の噺の枠組みをいきなり揺るがす。
初天神は、演出に凝りたい噺家にとっては宝の山のような噺。いじるところが無限に存在する。
そして、いらないところをスパッと切り捨てる鍛錬にもなる。
馬石師も、序盤から変化球で来ていて、その後もスパスパ切り落としていく。次にどうなるのか目が離せない。
古典落語は、同じ噺を聴いても、演出が違うので楽しい。聴き手の頭の中に詰まった落語が、立体的に膨らんでいくのだ。
だが、演出にとどまらず展開が違うとなると、これはもうワクワクであります。

親父はケチには違いないが根本的に甘いようだ。飴と団子については、金坊が親父を脅迫しないうちに買ってくれている。
飴玉しゃぶりながら、道路をツーとスベって遊ぶ金坊。ホコリが巻き上がるからやめろと親父に引っぱたかれている。
これが団子の伏線になる。見事な構成。

初天神、まだ続きます

 

ハイパー初天神(MP3)

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。