神田連雀亭ワンコイン寄席31(上・桂笹丸「権助提灯」)

権助提灯 笹丸
絹子ちゃん ふう丈
のぶこよしえ 昇輔

 

仕事の区切りがいいので、神田連雀亭へ。
ギリギリに入場すると、すでに三遊亭ふう丈さんが前説をしている。
終演後のお見送りはできません。本当は女性のお客さんにハグしたいくらいですがとふう丈さん。コロナが落ち着いたらぜひと。
お客は私含めて6人。過去に経験した最少人数タイだ。

確かに地味な顔付け。だが人気はともかく、私はこの全員に期待している。
桂笹丸さんと、トリの春風亭昇輔さんは二度目。裏を返しに来ました。
三遊亭ふう丈さんは久しぶり。調べたら2年前に聴いて以来。
昇輔さんの熱演がすばらしく、大満足の1時間でした。

トップバッターは笹丸さん。
前日に96歳の誕生日を迎えた大師匠、米丸師について。モノマネがよく似ている。
90を超えても、常にテレビ映りを気にする大師匠。
それから、師匠竹丸が大好きなタイ移住を企んでいる話に、タイ人の彼女に騙された話。
芸協にはタイ好きの仲間がいて、そのひとり、先輩の遊子さんとタイで楽しむ笹丸さん本人の話。
いい男の遊子さんはモテモテ。笹丸さんはまるでモテない。

笹丸さんの話、その表面的な内容以上に楽しく、マクラの理想だと思う。
師匠のように、漫談メインの噺家にだってなれそうだ。
自分が楽しいと感じた話を楽しく語れば、客にしっかり届く。
モテない自虐もまったく嫌らしくない。
タイでショーパブみたいなところに行ったみたいだが、こんな話をしても爽やかなのが、今どきの若者だななんて思う。

マクラが長く、12分ぐらい。
モテる遊子さんに嫉妬しますと強引にまとめて権助提灯へ。
ナレーター向けの美声の持ち主、笹丸さん、女の声は地声で演ずるのだな。
そして、主人と権助は、いい低音で。別に声色を使っているわけではなく、声域が広くて無理せず多くの種類の声を操れるようだ。

マクラが押し過ぎ。
楽屋のふう丈さんからドンと音がして、20分経過のお知らせ。
妾宅と本宅、まだ一往復しかしていない。
そこからなんとか、3分ほどでまとめあげた。まあ、巻ける噺ではある。

爆発力はないかもしれないが、決してコケない笹丸さん。アベレージの非常に高い人だ。
寄席というのは、こういう芸を味わう場所でもある。

続いて、なんとなく花田優一を思わせるふう丈さん。なんとなくですが。
うーん、圧が強い!
もともとそういう芸風だが、圧のかけらもないそよ風のような笹丸さんの後だと、特に。
緩い空気になじんだ少数精鋭の客、いきなり打って変わった強いモードを浴びせられ、困惑気味。
故郷の熊本で、中学生時代にカツアゲ(未遂)された話。そういう話を聴きたい空気でもない。
「連雀亭に客が来ない」(特に夜席)というエピソードも、本当に少ない席でやられるとなんだかな。

ふう丈さん、期待通り新作。
だが、古典落語とまったく異なるコード進行で書かれた新作は、6人の客にはハマらない。
なんでこんなに圧が強いのかな。
新作落語大好きの私だが、よくできた新作には、必ず古典の香りが漂うという持論を持っている。
小ゑん、駒治といった師匠が典型例。そういった師匠の新作は、古典と同様、軽いし緩い。
だがふう丈さんからは違うコード進行が流れてくる。
古典を連想させない新作落語はダメか? そんなことは言わない。ただ、師匠・円丈ぐらいの破壊力をもって初めてなせるワザだと思うのだ。

主人公が働くコンビニに、新人として熊本弁の婆さんが入ってくる。
婆さん、道を尋ねますと言って入ってくるのだ。
この時点でもう、おかしい。いくら婆さんでも、今から働く場所を知らず、コンビニで尋ねるはずはない。
新作落語だったら、現実との整合を無視していいなんてルールはないだろう。噺の枠組みの入口で脱落してしまう。
すっとんきょうな婆さんを印象付けて、異世界に移動したい目論見はわかるけど、しくじってると思う。
落語で大事なのは、真のリアルでなく、噺の中のリアル。

古典落語だと、少々の矛盾や非整合があっても、人物描写が記号的なために乗り切れてしまうこともある。
デキる人は、それをいいことにあえて日常からズラした設定を構築したりする。
ふう丈さんの新作は、そういうことではないようだ。

熊本県ローカルCMネタはちょっと面白かった。でも私を含め、客にはまったくわからない。
わからない客を置いてきぼりにして楽しむ演者。その楽しみはわかる気もするが、でもやっぱりわからない。
物語はコンビニ強盗が現れるという、ややイージーなつくり。

ちょっと伸び悩んでいるのでしょうか。
新作に伸び悩んだら、古典に帰るしかないのではないかな。多くの新作落語家がそうやって古典の芯に突き当たり、また新作に戻ってくるのでは。

続きます

 

作成者: でっち定吉

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