いい男の春風亭昇輔さんはマクラから、スピード感満載、高揚感たっぷりの語り。
トップバッターの笹丸さんとはまったく違う手法だが、この語りでもって世界をちゃんと構築してしまうから偉い。
ふう丈さんと違い、客への圧は感じない。客はなんだか面白そうな人だなと、話を拾いに身を乗り出す。
今日の演者には共通点があるんですよと昇輔さん。ふう丈アニさんと私は、駒大落語研究会なんです。そして、笹丸さんの師匠・竹丸師が駒大OBです。
「まあ、ピンと来てないみたいですが」。
春風亭昇輔という、昇太一門みたいな名前ですが、師匠は瀧川鯉朝です。
「まあ、ピンと来てないみたいですが」。
師匠の二ツ目時代の名をもらっているのだ。
一門のトレンドからすると、春風亭のまま真打になるかもしれない。
しくじりの話。
師匠と仲のいい、上方の月亭遊方師にお世話になっている。遊方師はユニークな新作の人。
遊方師、「ロッキーのテーマ」をハメモノとして流したいので、前座の昇輔さんに依頼する。
遊方師が持ってきたのはカセットテープ。しかしカセットレコーダーの操作方法のわからない若い昇輔さん、誤って再生せずに録音して、カセットをパーにしてしまう。
困ったが、You Tubeでロッキーを流すことにする。
オチは予想通りのものだが、語り口でやはり爆笑。
しくじりが結果的に盛り上がり、遊方師もご機嫌を損ねはしなかった。だが自分の師匠に報告したらこっぴどく叱られたそうで。
ところで、遊方師のセリフを再現する昇輔さんの大阪弁、非常に上手い。必ずや、古典落語に活きるだろう。いや、新作でも使えるな。
最近の寄席の話。
寄席を支えるお年寄りは、コロナで足が遠のき気味。
だが、そこを埋めるように、今若い人が寄席にやってきている。
これは、成金メンバーのおかげ。
若い人たちは、真剣に落語を聴いている。すると、楽屋の師匠方も、「寄席らしい」緩い噺がしづらくなる。
師匠方は最近、いつになく懸命な高座を務めている。
だがある日の上野広小路亭、お客は5人。そして3人が寝ている。
これぞ寄席だと、妙に喜ぶ師匠方。妙に充実感があるのだと。
昇輔さんは昨秋初めて聴いた。国立定席で、古典落語の「万病円」。
いいデキだった。これ一発で「これからの育成上手な師匠」に、勝手に鯉朝師を指名したぐらいの。
この日は、私も新作の一門なのでと、新作落語へ。
高座の隅に、ブルートゥーススピーカーとスマートフォンを置いてスタンバイ。なんだそら。
「のぶこよしえ」は、主人公の名前であり、演題。
格闘技のほうに引っ掛けてあるのかと思うのだが、わからない。ミルコ・クロコップなら知ってるが。
履歴書に、空手やプロレスでの、数々の実績が書かれている、マッチョなよしえ。
面接担当者は戸惑っている。募集しているのは、ヤクルトレディですよと。
無事採用されたよしえ、立派なヤクルトレディへの道を歩みだす。
研修を終え、愛車ハーレーで配達に出かけるよしえ。
だが、一人暮らしのお爺ちゃん宅にヤクルト400を届けに行く際、ビビらせてしまって反省。
スピーカー、なにに使うのかというと、「フラッシュダンスのテーマ」を流して、よしえのヤクルトレディとしての1年間の奮闘ぶりを、回想シーンとして描くためだった。爆笑。
マクラで語ったような失敗はしない。
三題噺から生まれたっぽい新作。「ターミネーター」「ヤクルトレディ」「コンビニ強盗」がお題かな。
実際に三題噺として作ったかどうかはさして重要ではない。異質なものを結び付けるといい落語ができるのだ。
昇輔さん、高座でもって、よしえのトレーニング描写のために腕立て伏せを始めたり(しかも片手)、やりたい放題。
「これが新作落語だ!」と宣言する。
しかしこの、超絶ユニークな一席に私が感じたのは、意外にも古典落語との強い共通項。
前回聴いた「万病円」と、落語世界への距離感の取りかたが同じだ。
一見演者もどっぷり世界に漬かっているようで、登場人物との距離はきちんと確保してある。だからどちらの種目も気持ちよく聴けるのだ。
やはり、すっ飛んだ新作にも、古典の修業は間違いなく活きるのだと再確認。
ふう丈さんともろ被りの、コンビニ強盗のシーンがある。
さすがに昇輔さん、登場人物のセリフで「同じような噺選んじゃったな」「熊本弁の店員はいないみたいだ」と釈明する。
コンビニは、町の平和を守りたいよしえが、第三者として助けに入るために出てくる、この噺のハイライト。
強盗は、コロナで仕事がない噺家春風亭昇輔。
愛車ハーレーでかっこよくコンビニに飛び込み、なじみの店長を救出し、犯人を確保するよしえ。
しょうもない地口落ちのサゲで終わるのも、また新作っぽい。白鳥師みたいな。
お客6人のうち、3人は喜んでいたと思う。一番喜んでいたのが私。
昇輔さん、実に楽しみだ。
人気も間違いなく出てくるでしょう。今度昇進の昇々さんによく似た雰囲気があるから、若い娘までやってきそう。
昇輔さんの古典落語もまた聴きたい。
客は少なくても大収穫の連雀亭でした。
笹丸さんも昇輔さんも、新しいユニット「芸協カデンツァ」のメンバーではない。
カデンツァよりも活躍しそうな気がするけどな。