西葛西・イオン寄席

無料落語愛好家の丁稚定吉です。半年前、古今亭駒次さんを聴きにいった、イオン寄席(イオン葛西店)を再訪しました。
3月15日、平日昼間だから爺さん婆さんばっかりだが、前回わりといいお客さんだったので好意を持っている。
入船亭扇辰門下の二ツ目。入船亭小辰、入舟辰乃助のふたりで30分ずつ。
池袋演芸場より広い会場(イオン4階オープンスペース)が超満員。立ち見も発生。
辰乃助さんの「入舟」は、古い亭号を復活させたもの。同じ一門だからといって、違う亭号を名乗っていけないわけではないのだ。ねえ、林家さん。

持ち時間30分なので、二人ともマクラをたっぷり。持ち時間の半分がマクラだった。
それも、爺さん婆さんに合わせたベタなネタ。学校寄席と老人ホーム寄席との違いとか。笑点メンバーネタであるとか。
実のところ、毎月聴いてるお客が多いようで、噺家さんの想像よりはレベル高いはず。もっと攻めても全然OKだったと思う。
それにしても、ベタなマクラで始まる落語を遠くからわざわざ聴きにくる私。シルバー層に混じって、いったいなにを楽しんでいるのだろう。
と一瞬思うのだが、でもやっぱり楽しいのですなこれが。
私の脳内には、とんがった落語に反応する領域ももちろんある。池袋や黒門亭ではそちらがもっぱら反応する。
だけど、ぬるま湯に浸って楽しむ領域も、まだしっかりと広い面積が確保されているのだ。
落語ファンというもの、寄席からホール落語へと進む中で、だんだんこういうぬるま湯から離れていくものなんだと思う。笑点など、ぬるま湯の際たるもの。

最近、私が寄席に求めるものは「空気」である。漂う空気の気持ちよさ。これは、黒門亭にもあるし、円楽党の両国にだって流れている。
最先端の落語からも感じられるし、こういう無料の会からだって感じ取れる。完成度次第。
堀井憲一郎氏を批判したばかりだが、堀井氏もたぶん、脳内ぬるま湯領域がリセットされてしまった気の毒な人なのだ。
ご自分ではぬるま湯を楽しんでいるようなことも書くが、その気持ちよさの本質には決して迫らない。
他方、いつまでもぬるま湯に浸っていられるオレっていいじゃんと自己満足する私が、現にここにいる。

辰乃助さんは、なぜか昇太師の出囃子「デイビー・クロケット」で登場。
スケッチブックを持って、フリップ形式であるあるネタを披露。「木久扇師匠って本当にバカなんですか」「バカです」など。
スケッチブックがなくても、落語のマクラとして成立するものばかりではあるが、まあ、そんなのもいいじゃないか。
昨年二ツ目に昇格したばかりだが、声がよく、肚ができている。ときどき魚屋みたいなダミ声がまざる、不思議な声の人。
楽しい「たらちめ」。普通は「垂乳根」だが、入船亭だからきっと「垂乳女」だと思う。意味は一緒。
伯父筋の入船亭扇遊師の、「たらちめ」の録画を持っているが、他派にないクスグリを含め、内容がほぼ一緒。こちらから来ているものだろう。
典型的な前座噺だが、上手い人が語れば常に楽しい噺で、私も大好きだ。
時間がそこそこあったので、「あーら我が君」に入って、「酔ってくだんの如し」まで。

小辰さんは、「ことしゃみせん」「しなんじょ」のマクラから松山鏡。なんだか人情噺の雰囲気が漂う。
「死んだ父っつぁまに会いてえ」というのは人情だろうが、そういうことより、全体的に漂う、善人たちの醸し出す楽しいムードに人情を感じる。
噺の構造は、鏡というものを知らない人たちのドタバタ喜劇だ。だが、どうか夫婦喧嘩をやめておくれと切に願う気になるではないか。
こういう、噺の背景をじっくり構築していくのが上手い人である。
以前早朝寄席で「替り目」を聴いた際、その夫婦間に漂う情にいたく感心したのだが、この日も同様。

わずか1時間の落語だが、しみじみ幸せな気分になってイオンを後にしましたよ。

作成者: でっち定吉

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