堀之内寄席

格安落語愛好家の丁稚定吉です。
この日が終業式、午前中で帰ってきた小学生の息子を連れて、ちょっと出かけてきました。
毎月23日は、堀之内妙法寺で「堀之内寄席」です。一月も春風亭昇々さんなど顔付けされていて行きたかったのですが、雪で断念しました。
うちから杉並は結構遠いのだけど、なにしろ粗忽ものの名作「堀の内」の舞台ですよここは。落語ファンの聖地です。
お祖師さま自体、訪れるのが初めてですが、以前から来てみたかった名刹です。

ホームグラウンドを自称しつつ結構ご無沙汰の池袋演芸場では、「落語協会新作台本まつり」などやっています。そちらも気にはなります。
昨年この新作台本まつりに行き、笑い過ぎて疲労困憊した経験から、どうしても行きたいという気にはならず。
最近、落語で笑いたいと思うことはますます減ってきたかも。といって、「笑う」こと自体を避けたいのではなく、ずっとクスクスさせ続けてもらえるなら最上というところでしょうか。
池袋だと、子供とセットで3,000円。これも決して高くはないけれど、堀之内寄席は500円。お菓子付き。

丸の内線の新高円寺駅からそこそこ歩く。東高円寺駅のほうが、環七をまたぐものの道はわかりやすい。
車(カーシェア)だと環七で便利に来れる立地なのだけど、貧乏落語ライフに車は似合わない。といいつつ、先日のイオン寄席の際は車を出してますけどね。
お祖師さま、境内の桜が綺麗でした。

子供は、別にチビじゃないのにタダで入れてくれました。こんなことに感激したりします。
堀之内寄席は、芸協の二ツ目さんが3人出演。時間は2時間なのでたっぷり。
この日はなかなか入っていたらしい。60人くらいの入りだろうか。顔付けがよかったというのがあるでしょう。
前が座敷で後ろが椅子。日曜日に行った下谷神社の柳噺研究会と一緒。

昇羊  / 夢の酒
柳若  / 井戸の茶碗
(仲入り)
A太郎 / 死神

今日は、全員が春風亭柳昇の孫弟子である。師匠は全員違っていて、昇太、鯉昇、桃太郎。
柳若さんは、師匠の亭号は瀧川だがご本人は春風亭。春風亭柳若は、鯉昇師の前座名だ。
柳昇一門なのに、みな古典落語。柳若さん以外は新作派の認識でいるが。
それでもどこか大師匠のDNAを引き継いでいそうな三人だ。
そういえば落語協会の二ツ目さんのほうだけど、三三師の弟子、柳家小かじさんが急遽廃業したそうで、この関係でのブログへのアクセスもありました。
事情は知りませんが残念ですね。小かじさん、あなたの「あくび指南」は忘れないよ。

春風亭昇羊「夢の酒」

トップバッターは春風亭昇羊さん。
先日めでたく結婚式を挙げたらしい。へえ、知らなかったです。おめでとう。
師匠・昇太が独身なのは有名だが、さらに結婚の証人に、同じく独身の桂文治師に立ってもらったらしい。
そのマクラ。スピーチが上ずってしまい、呼んだ噺家仲間に囃されるという。
それから、以前神田連雀亭でも聞いた、文治師に国技館に連れてってもらった話。
昇羊さんのマクラは本当に面白い。聴いたことのあるマクラが、再度聴いてもやっぱり面白いという人、なかなかいない。
マクラのネタ自体かなり練っていることと、人付き合いに関する独特の距離感、さらに距離感自体の考察が面白いのである。マクラ自体が、立派な落語。
昇羊さんは、芸協でもっともマクラの楽しい噺家になれると思う。落語協会でいちばんマクラが面白いのは菊之丞師かな。
マクラの最後は、師匠・昇太の顔の化け物に追いかけられる夢の話。

前回神田連雀亭で昇羊さんの、親父さんが出てくる前までの「夢の酒」を聴いた。
完全版。ちゃんと最後までやるんだな。というか、うちの子以外にも子供がいるのにやる噺なのか?
私個人は大好きな噺なので、構わないです。そういえばうちの子、池袋で左龍師、小満ん師からも夢の酒を聴いている。噺家さん的には、廓噺でなけりゃいいのか? 間男噺の「紙入れ」が出たこともあって、意外と適当。
さて昇羊さん、前回聴いて知っているが、嫁のお花の悋気の描き方は本当に上手い。そしてお花、とてもかわいらしい。
夢の内容に怒り狂うお花のほうから「夢の話」だという確認がなされるシーンは前回なかった気がする。常に工夫しているのだ。
場面変わって、親父さんを描く。
「お花が泣いて、あたしが怒って、お前(若旦那)が笑ってちゃ仕方ない」という、明烏みたいなセリフはない。私もこれ、不要だと思う。
親父さんの、年増の夢の中への登場シーンは見事だった。そして、お花に起こされ現実に戻るときの場面転換もまた素晴らしい。
芸協でやっている人を他に知らない噺で、誰に教わったのかわからない。ともかく昇羊さんのやっている形は見たことなくて、独自の工夫なんだと思う。
前回聴かなかった、親父さんの酒に対する欲望はどうだろうと思ったが、やはり若いだけあって酒のほうはまだまだでした。
女の色気に、酒への欲望が同等まで早く迫って欲しいものである。そういう噺なので。

昇羊さんは、形が綺麗で、そして怪しいという、ある種噺家の王道を行く人。どう進化していくのか楽しみです。

春風亭柳若「井戸の茶碗」

柳若さんは初めて。非常に怪しい風体の人。その怪しさが春風亭百栄師にちょっと似ている。
子供のいる前でおとなの噺をする昇羊さんをチクリ。そこから浅草で夏にやる、禁演落語のマクラ。その会にも結構子供がいるらしい。
「井戸の茶碗」なんて大ネタを持ってきたのでびっくり。持ち時間が長いので、一応何でもやっていいらしい。そういう会なんですね。
井戸の茶碗というのは、偏見かもしれないが、噺家さんが「ちょっといい話を掛けたい」と思ってやる噺だと思う。二ツ目さんだったら、少々背伸びをして掛けるというイメージ。
だが、柳若さんの井戸の茶碗は違う。ストレートに面白い。
面白いといっても、人情噺に無理にギャグを突っ込んで破壊したような作りではない。井戸の茶碗という噺の、節々に漂う面白さをしっかり強調して伝えてくれるのである。
いい人たちのいい話だという世界観は壊さずに、滑稽噺としての楽しさをしっかり語る柳若さん。
正直清兵衛さんが、二人の侍の間に入って右往左往する噺なので、実は面白いのである。
といっても、変にウケを狙うようなところはないし、「いい噺でしょう」と人情を強調することもない。噺に内在している面白さを丁寧にすくいあげる。
ギャグの量だけ言ったら、「いい噺」として語る師匠たちのものよりむしろ少なめかもしれない。ギャグで噺を崩さないよう、明らかに量を絞っている。
いや、これは絶品です。
技術面についても、二階からくず屋の面体をチェックする際の立体的な情景がすばらしい。
さすが鯉昇門下。鯉昇師が井戸の茶碗をやると聴いたことはないが、弟子の落語への取り組み方が鯉昇師っぽくて楽しい。

昔昔亭A太郎「死神」

仲入り後、トリは昔昔亭A太郎さん。昨秋、無料の落語会で1時間たっぷり聴いて以来。その際、この会場、妙法寺が舞台の「堀の内」も聴いた。
昇羊さんが古典だったので、A太郎さんは新作かなと思ったら、「堀之内寄席18年の歴史で一度も出ていない噺をやります」とのことで、死神。
「出しちゃいけない噺かもしれないんで、今日で堀之内寄席終わるかもしれません」。そりゃ、お寺さんでは掛けないだろうな、普通。
呪文は「あじゃらかもくれんきゅうらいす てけれっつのぱ」と、スタンダード。ここで遊んだりはしない。
サゲ間際の工夫は大変面白かったけど、全体的には普通だったかな。ストーリーをなぞっている感があった。
「青森終点先生」と「甘井羊羹先生」のクスグリの反応に、「この程度だよな」と自虐突っ込みを入れていたのはおかしいかった。でも、どうせなら自分でギャグ作ればいいのに。
まあ、さわやかイケメンのA太郎さんが、いま死神掛けても、凄みも出ない。若い頃に覚えておいて、将来売り物にしようということなんだろう。

いい会でした。息子も満足していた。
遠いけどまた来たいですね。

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。