鈴本配信:柳家喬太郎「粗忽長屋」

連休中毎日ご訪問が多く、ついに1日平均200アクセス。ありがとうございます。
通常午前7時の更新を繰り上げて、今日は午前1時にアップしてしまう。サービスです。

寄席は休業に入ったが、期待どおり鈴本では配信を実施。ありがたい。
昼夜通しで聴かせてもらった。現場ではないので、寝転がって気楽に聴いております。

「古今亭菊之丞 ふぐ鍋」「林家つる子 反対俥」の検索でもって、私のブログの記事がトップに出るのだけど、この配信で出たのに流入は少ししかありませんでした。
新作落語だと、しばしば配信からドッと流入するのですが。古典の場合、演者とセットでは検索しないようですな。
彦いち師の「みんな知っている」についてはあいにく記事書いてないし。

「一夫多妻制」を繰り返しアピールする、ロケット団の選挙演説ネタは、新しいネタだろうか。爆笑でした。
「みうら議員!」が癖になるね。技術的にも、新たなステージに移ったのでは。
寄席漫才は、テレビに出る漫才とは世界が違う。でも日本一舞台の多いロケット団、これから寄席以外でも、どんどん日の当たる場所に出ていくことを確信した。
ナイツに近い位置づけまで出世するんじゃないかと。同じ事務所にサンドウィッチマンがいるのもいい。
ロケット団がテレビ漫才に多く出るようになると、困るのはナイツではなく、爆笑問題。
ロケット団のネタを聴いていると、「政治ネタを出さない日本の芸人はダメ」とか言ってる人の、見解の薄っぺらさが目立ちますね。これが真の「風刺」芸人です。

桃月庵白酒師も、非常に配信に強い人だなと再確認。
日ごろから、客のウケを気にせず毒を吐いていることが改めてよくわかった。
意外なところで、ハートの強さがわかるものである。

トリの春風亭一之輔師は軽く「あくび指南」。本来のトリ、正蔵師に遠慮したのか。
デーン。
鈴本社長(若旦那)との仲入りトークも相変わらず面白い。
配信と関係ない話だが。
昨日取り上げた天どん師とのトークで志らくに怒りをぶつけていた一之輔師。当の志らくにツイッターで茶化され、「ガッカリだ。」とツイート。
負けるな。

夜席のトップバッター、柳家甚語楼師は珍しい「浮世根問」。
配信で珍品を出してくださって感謝します。
浮世根問、実に手ごろで気持ちのいい前座噺なのに、どうして誰も覚えようとしないのだろう。
甚語楼師のものは、「隠居が適当なウソをアドリブでひねり出している」感が丸出しで、私が知っている数少ない音源ともまた違うものだった。
同じ噺でも、スタイルがいろいろあっていい。ともかくもっとサンプルが欲しい噺。

この日最も響いたのが、夜の仲入り、柳家喬太郎師の「粗忽長屋」。
柳家伝統の、極めて難しい滑稽噺。これを、客の反応のない配信で出すという。
確かにこの噺、しばしばしくじる人がいる。
客は実に簡単にずっこける。別に「そんな馬鹿な」と言って脱落したりはしないのだが、「どうでもいいや」と冷めてしまうことはある。
この極めて難しい噺を操る喬太郎師。過去聴いたものよりも、いいデキ。
極めてユニーク、独創的なこの師匠が、見事に噺から消えていた。いつまでも消えず、噺の隅っこでずっとある程度の自己主張をしているようなこの人が。
確かに喬太郎師の強い個性は、噺にいつまでも残存している。それは確か。
だがそれを押しのけ、さらに強い個性の八っつぁん熊さんが舞台の前面から離れない。
認知の狂ったこの人たちによって噺は支配される。この人たちが手を緩めないので、客は冷めて脱落する余地がないのだ。手を緩めないとは、狂った認知をしっかり客に見せつけること。
客は二人の目を通した世界に、次第に興奮を覚えてくる。
この感動を言語化するのはとても難しいが、まあ、そういうことかなと。

「お前の親父だ」「赤、出てけ」という、古典落語の手垢の付いたマクラを自在に扱うところにも感心する。
手垢の付いたマクラが、喬太郎師に掛かると実にもって生き生きしている。これは、師自身が古典のマクラが大好きだということなのだろう。
こういうマクラ、ウケるウケないではなく、噺の助走としてしっかり振る人はいる。そういう、固い高座とも違う。
実際喬太郎師は、この2種類の古典マクラを生き生き演じ、その間に、自分自身の遅刻の話を挟み込むのだ。
先日の日本の話芸「紙入れ」の見事な構成も思い出す。
客が構える必要が一切ないし、古典のマクラもちゃんと活かされる。

自分の死骸を引き取りに行くのは「きまりが悪い」でなく「照れくさい」。
私としては前者の表現が残って欲しいのだが、喬太郎師が現代風にそう変えるなら、それでいいのだろうと、そう思う。
大師匠・先代小さんがこの高座を聴いたら、さぞ喜ぶだろうと思った。

全体の構成を考えてなくて尻切れトンボですが、今日はここまでにします。
明日の記事でも引き続き、喬太郎師の粗忽長屋を取り上げています。

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada ブログコメント欄でのご連絡でも結構です(初回承認制)。 落語関係の仕事もお受けします。