亀戸梅屋敷寄席21(上・三遊亭とむ「落語免許センター」)

暇ではないのだが、ちょうど昼間に空白ができた。これ幸いと、近所でもないが亀戸梅屋敷へ。
20日の主任は三遊亭好楽師。なんだか最近、好楽師のときばかり来ているが、たまたまではない。
最近の好楽師の高座が、実になんともたまらないのであります。この思いが世間にどれだけ伝わるかわからないけど。
そして他の顔付けもなかなかいい。

受付にいるのは、しゅりけんさん。
楽べえさんが二ツ目昇進(楽花山)して、円楽党は前座が2人しかいない。この人と、楽太さん。
大丈夫だろうか。
両国と亀戸では、見習いらしい人を見かけたことが何度かある。だが、二ツ目のとむさんが手伝いに駆り出されているところをみると、現在見習いはいなそう。
ちなみに、前回はらっ好さんがついていた。

20人弱のお客さん。

 

転失気 しゅりけん
落語免許センター とむ
幇間腹 全楽
(仲入り)
悋気の独楽 鳳志
紙屑屋 好楽

 

前座不在問題はあるが、おかげでしゅりけんさんはとても上達が早いようである。
今日は「転失気」。
前座噺でがっかりするようでは、落語好きの風上に置けないと思う。それでもこれは飽きている。
だが、しゅりけんさんのもの、結構楽しい。
なにしろ、いきなり和尚の読経から始まるのだ。読経しながら、「転失気」の謎を解こうとする和尚。
サゲはいろいろある噺だが、聴いたことのないもの。あるいは自分で作ったのか。

とむさんは久しぶり。MBSヤングタウンをやったりしている売れっ子である。
いつもの真っ赤な着物で出てきて、緋毛氈の上で「真っ赤ですみません」。
芸人・末高斗夢時代のネタについて語る。お玉と下駄を出して「おったまげた」とか。
道具の用意が大変な、費用対効果の悪い芸をしていた。
春風亭小朝師から落語を教わる機会のあったとむさん、噺家になっちゃえばと言われる。
スカウトですか!と思ったら、うちでは取らないとのことで、好楽アニさんのところだったらいいんじゃないかと紹介してくれた。
そんなわけで小朝師には恩があるので、年に一度は独演会に挨拶に行っている。
行く前は緊張し、その結果寝坊したりする。大宮の独演会に行こうと思ってやっぱり寝坊したが、新幹線で行くことにする。
時間がないので新幹線車内で用を足した後、戸を開けたらそこに小朝師が。
どうしてと訊かれたとむさん、会場到着の時間がギリギリだったこともあってご挨拶に行くとは言い出せず、ウソをついてしまう。
「ちょっと高崎の落語会へ」。
小朝師に会えて相談したかった用事も済んだが、大宮で降りるわけにはいかない。用もないのに高崎まで行って、だるま弁当食べて帰ってきたそうで。
まあ、このマクラ自体ほぼウソだと思うが。

新作落語に入る。
師匠をしくじった噺家は、噺家のライセンスを30日停止されてしまうが、免許センターで講習を受けると29日分を免除してもらえる。
講習を受けにくる噺家たちは、師匠をしくじりがちで、破門が間近な人ばかり。
という、くだらない噺。もちろん褒めているのである。
落語ネタということもあるが、今まで聴いたとむさんの新作と、世界観が異なっている。
林家彦いち、古今亭今輔、春風亭百栄といった新作派が作りそうな内容である。
アオリ運転の心理を落語に盛り込んでいるのは見事。
わりと短かめ。地口で落とす。
この楽しい噺、他の新作派も知ればやりたがる気がするのだが。彦いち師で聴いてみたい。

ちょっと気になったのは、せっかく噺家が集まる免許センターなのに、他の噺家が一切描写されない。
落語協会の人なら、実名をばんばん出して内輪ウケを取りにいくであろう。また、池袋ならそんなのがよくウケる。

仲入りは三遊亭全楽師。この人も久々だが、期待してきた。
よその団体からの移籍組の多い円楽党だが、立川流から移ったのはこの人だけだ。
過去二度聴いて、二度真田小僧だったので、この噺以外を期待。
とむさんをいじる。あんまり早く降りてきたので準備ができてません。とむさんも免許センター行きですねと。
とむさんが、高座と受付をつなぐドアをバタンと大きな音で閉めて意思表示。

幇間のマクラから、幇間腹。
よく聴くものと展開が違う。若旦那が、鍼医に3年分の月謝を納めて免許皆伝にしてもらうシーンがある。
そして幇間の一八は、若旦那のお座敷と知って別に嫌がっていない。足袋のコハゼのエピソードもなし。

マクラから、スピーディな口調でどんどん進めていく全楽師。
以前聴いたときは、立川流で身に着けた手法だと思っていた。それはもちろんそうなのだろうが、今回聴いて、どうやらベースにあるのは圓蔵らしいなと思った。
圓蔵と違ってギャグは入れず、スピーディな語りで攻める芸。

だがすみません。今日はハマらない。
口調はスピーディなのに、展開はそうでもない。聴き手の脳内テキストのほうが先行し、噺のほうがゆっくり追いかけてくる。
芸風的に、コロナで高座の数が減ると弱い芸なのかなと。
しかもサゲで噛んでしまった。

続きます。
 
 

作成者: でっち定吉

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