立川笑二・季節外れの「花見の仇討」@神田連雀亭

ローソンの広いイートインでこの記事を書いているのだが、婆さんカルテットが先客にいる。
別に婆さんの会話に耳を傾ける気もないが、勝手に入ってくる。

「頭の毛が白いひとはね。下の毛が黒いのよ。あたしいつもお風呂で見てるの」
「下の毛ない人もいるわね」
「韓国人はそうなのよ。辛いもの食べてるでしょ、抜けるのよね」

下品なババアめ。あんたと同じ区民だと思ったら泣けてくるぜ。
・・・でも、ちょっと面白いな。

下品なマクラから入ったが、本題は格調高く行きましょう。
ブログのネタがいよいよないので、仕事の合間に神田連雀亭へ。
雨もあり、また客の最低人数更新。4人。
「そして誰もいなくなった」にならなければよいのだが。
こんな席の模様、書きづらいことこの上ない。
演者に「また、でっち定吉が来てる」と思われてしまうかもしれない。
私は「雨の中来てやったぜ」という押しの強いファンじゃないので、できればこっそり参加したい。
そういうこともあり、本当は寄席4場がいい。実際、いっときはそう決意して、この連雀亭から離れたぐらい。
でもこの日は、鈴本へ馬石師の長講を聴きに行くほど精神的余裕もなくて。

目当ての立川笑二さんは今日もよかった。つくづく達者な人だ。
だが、トリを含めた他のふたりはもうひとつ。
トリの人は二ツ目に昇進してからは初めてだったが、前座時代に結構聴いて好意を持っていた。
なのでがっかり。トリネタ(花筏)には別の方法論が要るのだろう。
破門された柳家小ごとさんと互角の高評価をしていた前座だったのだが。
まあ、またいい高座があると思う。

二番手の人は、悪くはなかった。名前隠すほどじゃないのだが。
ただ、トリのデキに引っ張られて、併せ一本。
大したネタでなくても、自分が楽しむことでマクラを面白くするその才に一目置いているのだけど。それこそ昨日取り上げた昇々師みたいな。
本編は「猫と金魚」だが、もっとさらっとやればいいのにと思った。
脳内配線の狂った番頭さんを攻めすぎて、客の気がそれてしまう。
落語って難しい。

こういう批判をしてたら、演者にも嫌われるって?
嫌われたくはないが、黙っていたくもない。

昨日取り上げた昇太師のビバリー昼ズのゲスト、青木氏も語っていた。
二ツ目の高座とは、ドキュメンタリーであり、甲子園だと。予想外の感動も得られるし、外れることもある。

ともかくそんなわけで今回も笑二特集となる。トップバッター。
笑二さん、むちゃくちゃ上手いのに、現状それに見合った人気まではないみたい。数年後には必ずと思うけど。
ちなみに本日のワンコインのトリ、入船亭遊京さんとどちらに来るかちょっと迷った。
だが遊京さんは結構寄席その他で見かけるし。ここで聴いておかないと機会のない立川流にする。

季節外れだが、2年続けてコロナで春の噺が出せなかったと断り、花見の仇討。
花の季節だってそれほど聴く噺じゃない。
花の噺というと、長屋の花見がなんといってもスタンダードで、たまに花見酒というイメージ。さらにたまに、花見小僧。
花見の仇討は、季節違いでもそれほど違和感はないことを再認識。花見でパーッと皆が浮かれていて、なにが起こっても不思議ないことだけ伝わっていれば十分だ。

花見の趣向を凝らす4人。これは毎年のことなんだそうだ。
どうだい首吊りは、と一人が言う。だめだよ、去年やっただろと。それで金ちゃん死んじゃったじゃないか。
爆笑。

ブラックなネタにストレートに感心しているわけではなくて、さらりと遊びで人がひとり死んじゃったと語る、そのスキルに感服。
こんなネタで、客が引いたら取り返しがつかない。平気でできてしまうのは、そこに悲惨さのかけらもないから。
よい子は「絶対に」マネしないでください。
ブラックなネタを出すのは立川流だからか?
ただ、私が感じたのはむしろ、瀧川鯉昇師のイメージ。長屋の花見で、大家の猫食っちゃうみたいなナンセンスさ。

特殊な入れ事をしても、笑二さんの噺はまったく揺るがない。強靭な足腰のなせるワザ。
以下、金ちゃんが死んじゃったエピソードを遠景に置きつつも、実にスタンダードな進行で客を満足させてくれる。

あまり聴き比べたことのない噺ではあるが、笑二さんのもの、映像が実に立体的で感心する。
おじさんにつかまった六部がやってこないので、いつまでも趣向のチャンバラを続ける浪人と巡礼兄弟。
それを取り囲む多数の見物人たち。
見物が増えすぎて、やめたくてもやめられない3人。そして助太刀まで入って大騒動。
趣向の面白さと、それを取り巻く状況全てが見えてくる。

満足の高座でした。
ただ、1日分にしかならなくて、明日のブログのネタがない。

作成者: でっち定吉

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