国立演芸場13(上・林家きよ彦「反抗期」)

牛ほめまんと
反抗期きよ彦
堪忍袋ひろ木
ホンキートンク
田能久扇辰
(仲入り)
出目金志ん五
マギー隆司
神々の唄彦いち

 

月が替わったので寄席に行きましょう。月替りと、寄席に行くこととの論理的関連性はないけど。
6月上席はより取り見取り。
夜席が許されれば(家庭事情)、浅草の遊雀師や、池袋の喬太郎師に行きたい。
新宿の昼、小ゑん師を聴いて夜の仲入り、喬太郎師まで残るというのもいい。
結局は国立の初日へ。
主任が林家彦いち師で、仲入りが同期の入船亭扇辰師という、国立にしては贅沢な番組である。

当初は本日2日に、生田寄席という、初めての落語会に行く予定を立てた。
だが電話してみたら、まん防が続くので中止しましただって。神奈川だからまん防だが、まん防でもやめるんだ。
緊急事態宣言下でやってる会もあり、いろいろ。
この中止になった生田寄席が、扇辰師の独演会だった。そういう事情もあって国立を選択。
扇辰師、1・2・3・5・6の各日に会の予定が入っており、1以外は昼。3日は喬太郎師と京都で二人会。
だから、今席の扇辰師、あらかじめ休席届を出していたのだ。恐らく。
休席届が出ていると、寄席四場では顔付けできない。
そこに、寄席組合に入っていない国立から依頼があったので、4日間抜けるけどと断って受けたのだ。そういうことだろう。
6日(足立区の地域寄席)はすでに代演で菊生師の名が入っているが、会は中止になったので、改めて扇辰師が顔付けされると思う。
2日は代演が入っていなかったところを見ると、中止はほぼ決まっていたみたい。
結局、扇辰師の休演は3と5の2日間のみ。師からすると、国立を受けてよかったということになる。
国立のほうにもよかった。だが、そんな奇跡の番組にも客は来ないのだな。

最近、国立に行く際には新橋から歩いていく。
今日は新橋でなく有楽町から。内堀通りの左側を歩いていくと、警視庁の先の「国会前」交差点を渡れないことを初めて知った。
桜田門の駅入口を使って通りをくぐればよかったのだな。
国立はガラガラ。世間は、落語を聴くようなモードにはまだない。
いつものようにWeb購入はせず、東京かわら版持参で200円引き。1,800円。

すでに前座の三遊亭まんとさんが上がっている。
萬窓師の弟子のこの人は初めて。すでに3年前座をやっているのだが、巡り合わせで。
演目は牛ほめ。おじさんの家に着いて、「ごめんなさい。許してください」と挨拶するシーンから参加する。
普通だなと思いながら聴いていたのだが、普通ではない。この人は上手い。
腰が据わっていて、決して慌てない。だからといって、客を無視して修業丸出しで喋っているわけでもない。
余計なクスグリは入れないが、工夫はしている。
「佐兵衛のカカアは引きずりだ」ではなく、「左右の壁は砂だらけ」。
引きずりなんていう難しい言葉を出さず、ちゃんと意味が通るクスグリにしている。
牛を褒める際、「おじさんに漢字を読んでもらう」という、斬新な展開も入れていたのだが、使い方はごくささやか。

続いて、彦いち師の二番弟子、最近二ツ目に昇格したばかりのきよひこ改め「きよ彦」さん。
女性です。本人いわく、田嶋陽子似。
前座の頃から何回か聴いて上手いのは知っている。新作のホープ。
前座の最後の頃、前座会の副会長を務めていたきよ彦さん。前座会の会長は、同期のポンコツ兄弟子、やま彦。
前座会の担当理事である、正蔵、扇遊の両師にお歳暮の手配をしなければならない。
ちゃんと手配したのに、のしを見たら「便座会一同」になっていて、兄弟子に大笑いされる。やま彦の分際で。
やま彦いじりが楽しい。保護者みたいなもんなんだ。

二ツ目になったので早速新作である。「反抗期」というタイトルは、噺を聴いただけでだいたいわかる。
新作のタイトルの付け方としては王道だ。
17歳の娘がバリバリのヤンキーになってしまった母。娘は親の敷いたレールなんかに載らないと反抗しているが、実はヤンキーこそ、お母さんの敷いたレールだったという。
元ヤンという肩書きは、これから先、さまざまな場面で役立つのだと母。
いわく「元ヤンの先生」「元ヤンの弁護士」「元ヤンの議員」。早慶を出た先生や弁護士と元ヤンと、あなただったらどちらを選びますかと母。

皮肉たっぷりの楽しい噺。
古典落語と異なる方法論で書かれ、演じられている。大げさな所作とセリフ回しでもって。
だが、不自然さが皆無。これってすごいことだと思う。
新たな体系を自分で構築できているからだ。単に古典と方法論だけ異なる噺を聴くと、なんだかモヤモヤが残ったりする。
「オチケン出身の落語家」と、「元暴走族総長の落語家」ではどちらを聴きたい?という質問も出た。
ここは流れを裏切って、三段オチでオチケンと言うのかと期待したら、暴走族のほうでした。
芸協の噺家はいじりづらいのかな。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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