「御法度落語おなじはなし寄席!」スペシャル その2(猫の皿・前半)

さて、噺をちゃんと聴いていきましょう。

上方は爆笑、江戸は端正なんて紋切り型でしばしば言うのだが、実際の高座のカラーは千差万別。
非常に古典芸能っぽい端正な吉坊師と、実に緩いわさび師との対比。実に極端で、いい組み合わせ。

吉坊師の猫の茶碗。簡潔な一席なので、先にやってよかった。
舞台が江戸時代ではない。バスの走る時代であり、劇中の通貨単位(捨て値で200万)からしても戦後らしい。
もちろん、人の騙し合いを描いた普遍的な噺。時代設定はなんだっていいのであるが。
東西問わず、通貨単位のデノミを行い時代を変える例はちょくちょくある。
「真田小僧」で通貨単位を円にしていたのを聴いたとき、あれ、これ後半の六文銭のくだりをやるときどうするんだろと思ったが。
「壺算」は最初から円が単位だが、これはデノミをやりませんね。1荷の甕が、3円50銭から3円に割引だ。

私、米朝の猫の茶碗、聴いたことなかったかな?
アフタートークでは、米朝が東京から移植した噺だと語る吉坊師。
東京落語の8割は上方由来とされている。近年、東京にしかない落語が多く上方に持っていかれるようになり、逆方向も生まれるようになった。
これが私の認識。
だが以前から、この流れも普通にあったわけだ。それを忘れがちだなと。

絵高麗梅鉢を持っていきたい男が、猫をダシに突破する単純なストーリーであるが、この米朝由来の型では、主人公の意図を客に説明しない。猫を急にかわいがり出す。
説明をしないことで、説明過剰落語にならなくて済んでいる。そして思わぬスリルがそこにある。
先刻知っている噺でも、スリルが得られるわけだ。
上方落語におけるヒーロー、枝雀は説明過剰の権化と思っている私。だが師匠・米朝の工夫はだいたいあっさりしたところにある。そこが好きなのだ。
今回に関しては、わさび師も説明しないパターンではあるが。

演者二人の高座の間に絵高麗梅鉢の解説が入る。
この手のもの、得てして落語と関係ない味消しになりがちだが、簡潔であり、ためになる。
小堀遠州の名前が出てくる。遠州が所有していた絵高麗は高くなるのだと。
遠州といえば、金明竹に名が出てくる。

自在は黄檗山金明竹、寸胴の花活け、遠州宗甫の銘がございます。

さて人気者の柳家わさび師、TVに映るたびにうちの家内が、ヘアスタイルが変だと文句を言ってます。
確かに七三というか八二。短いほうがよかったと私も思う。
新作もやるが、古典落語を楽しく演じる得難い人だ。
冒頭いきなり千原ジュニアに媚を売る。「何度もYou Tubeで視てます・・・TVでも視てます」。
私おしゃべりは下手ですが落語はそこそこできますだって。このあたりの緩さが、制作側も呼びたくなる理由なのだろう。
You Tubeを持ち出し、慌てて自己フォローを入れるあたりがこの人っぽい。

マクラも、はたし(端師)の説明をまじめにしゃべっておいて、「まじめなマクラですみません」。
そこから、噺家も含めた営業能力の大事さを振って、猫の皿に入っていく。
ちょいちょい自分の感想を交えて進むので、グダグダだが、そこがすばらしい味。
日芸オチケンの先輩、春風亭一之輔師と比べてみると面白い。一之輔師だと、固いマクラを振った際には自力でギャグを入れて全体を調整する。
いっぽうわさび師、あたかも高座の外の誰かから指示されたかのようなグダグダギャグ。もちろん、そんな様子まで含めて全部個性であり、演出なのだけど。
師のラジオを思い出した。というか、一之輔師のピンチヒッターとして2回出ただけだが、とても面白かった。

そして高等技術(?)を駆使してマクラからスッと本編に入る。
冒頭の、周囲を含めた茶屋の様子を描写してからテーマに。のんびりしてていいですね。
もちろん、末広亭の浅い出番にでも出せば、ばっさりカットするのだろう。

「ぞろぞろ」に出てくる角の取れたハッカ菓子が登場する。
ぞろぞろが出てたら、このシーンは入れられないわけだ。粗忽なわさび師だと、よほど気を付けないと。
あるいは、普段入れていないこのクスグリを、吉坊師との違いを強調するためにあえて盛り込んだのだろうか。
意外と抜け目ない人だから、そうなのか。

一人称で進んでいた噺に、いきなり演者の視点が入って地噺っぽくなるのが面白い。これも、ありがちだが荒業に映る。
登場人物が二人しかいないこの噺に、妙に立体的視点が生まれるではないか。

続きます。
 
 

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作成者: でっち定吉

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