「御法度落語おなじはなし寄席!」スペシャル その3(猫の皿・後半/お菊の皿・前半)

後からやるのに、ほとんど気にしなかったという柳家わさび師。
きっと本当でしょう。この番組でも、ほとんど気にしない演者もいるのを見てきた。
しかし、冒頭のキャッチフレーズ「辛口のユーモア」って、この猫の皿に関していえば看板に偽りありもいいところだな。
名前の出ていた馬生師に教わったのかな。
皿に気づくあたりが地のセリフになっているのが、そちら系統らしい。
桂吉坊師が演じていたように、登場人物のセリフで進めるのが標準かと思う。

アフタートークで東西の違いを頑張って広げていたが(猫を手放すのを渋るとか)、東西の違いというより、ほぼ演者の個性の違いだろう。
わさび師の、寄席ですでに出た強情灸を始めてしまったエピソードは実に面白い。ネタ帳見てるのに。
前座が戸を開けて「出てます」と教えてくれた。もう噺に入ってしまっていたわさび師、灸を据えに行くのをやめて、「俺、泥棒になるわ」と噺を変えてしまったという。
大ウケしたそうで。立派な悪オチだが。
なにやったのかね。「締め込み」だったらかろうじてできそうな気がする。
しかし、またしても強情灸か。
先日この番組で、隅田川馬石師が、三遊亭円丈師のエピソードとして語っていたマクラに出てきたのも強情灸だった。
エピソード自体が被るという。違う内容だから問題はないが。
強情灸自体、そんな目に遭いやすいのかもしれない。寄席で便利な噺だから。

化粧が入念すぎる吉坊師は、質問に答え、猫の噺が出たら避けると。
「猫の噺」ってなに? 猫の災難と、仔猫、猫の忠信、あとあったっけ? 元犬に一瞬出るが。
東京だと猫と金魚、二十四孝、猫怪談、猫久(猫は出ない)などあるが。

酒の噺は出たら避けると。これは当たり前。
ギャグが被るしと。マクラやクスグリがツいてしまうわけだ。
だが異を唱えるわけではなかろうがわさび師、「酒の噺と酔っ払いの噺」は分けて考えたいと。酒だけ出る噺もあるし。
なるほど。カットされたトークを私が推測で埋めてみます。

  • 酒かつ酔っ払いの噺・・・替り目、親子酒、試し酒、禁酒番屋、花見酒、猫の災難等多数
  • 酒の噺・・・寄合酒、青菜、鰻屋、三年酒
  • 酔っ払いの噺・・・うどん屋、蜘蛛駕籠

うーん。寄合酒が出ていても、うどん屋はやっていいと、そんなことだろう。
悪いけど、そんなに汎用性の高い話題じゃなかったですね。

さて、続けて後半。皿つながりということで、お菊の皿。
前半のふたりは「さん」付けだったのに、後半になると「師匠」付けで呼んでた。
差別しないでください。一昨日書いた通り、吉弥師と吉坊師と、キャリアはそれほど変わらないのだ。
上方の噺家は、真打のようなわかりやすい基準がなく、呼びづらいときもあるが。吉坊師なら立派な真打格。

お菊の皿(皿屋敷)は、夏になるとどこでもいつでも掛かる。
二ツ目も競って掛ける。数を聴いてもまったく飽きない、実に重宝する噺である。
新しいギャグを入れるおかげで飽きないのかというと、決してそうでないことは入船亭扇遊師の一席が見事に証明している。
扇遊師、お菊さんが言い交した相手である「三平」のフレーズすら広げないものね。
扇遊師は、テンポの細かい変動でもって一席聴かせてくれる得難い人だ。
特別なギャグがないのに、「面白い」。乗りに乗ってますね。
部分部分の違うテンポが合わさって、全体のテンポを作り出していく。だから聴きほれてしまう。しかし、さらっと聴き流してはしまわない。

「残念じゃなあ」のマクラは東京ではセットみたいなもの。上方の人も使っていた気がするのだが、ここで取り上げられている本来の怪談噺は東京にしかない。
流山の在で皿屋敷を聴かれて答えられない江戸っ子。
そこから隠居に訊くまでの逡巡がないのが軽くて好きだ。「田舎者に馬鹿にされた」とか「誰も知らねえじゃねえか」とか、いろんな感情が噴き出してきそうだが、こういうのを扱わないところがいい。

お菊の皿、誰のものを聴いても楽しいのだが、「会場が満員で逃げ出せない」という展開だけ、気になることがある。いったん気になってしまうと、そこで楽しさが半減するのだ。
落語ファンも、知っている噺について、伏線の張り方を評価して楽しんだりするだけではない。よく知っている噺を知らない前提で聴く能力も備わってくる。
そちらの感性でもって、「改めて噺の不自然さに気づく」ことがあるのだ。
途中で、「絶対逃げられないよ」と思ってしまう。
さすがに、今回の扇遊、吉弥の両師はさすがだ。不自然さに気づかないことに気づくと、感動する。

続きます。

 
 

天災/お菊の皿

作成者: でっち定吉

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