「御法度落語おなじはなし寄席!」スペシャル その4(お菊の皿・後半)

もう続きものが4回目になってしまった。勝手に伸びるのです。

落語というものは、演者に楽しく騙してもらうもの。
「6つ」(あるいは7つ)まで皿を数え、さあ逃げるぞというときに、大会場だったら当然間に合わない。
この仕組みに気づかないで(わかっているが気にしないで)楽しく噺に参加したいものだ。

扇遊師のお菊の皿だって、冷静に考えりゃおかしい。
10日間興行(寄席と同じだ)の千秋楽なのだが、それまでの9日間はどうだったのよという。
でも楽しく騙されているうちは気にならない。
ちなみに、このお菊さんの「明日休む」理由は、千秋楽だからのようだ。
吉弥師のほうはもう少し丁寧で、風邪引いてるから二日間分やると。
東京でもこうやったっていいのだが、扇遊師はとにかくあっさりしたのがお好きである。

扇遊師のお菊さん、「カンチョーライ!」と悪態をつく。久々に聴いたフレーズ。
カマキリ由来とか、「寒頂来」とか、調べるといろいろ書いてあるが、意味を気にすることもあるまい。
普段やらない中腰になって、お菊さんを演じる扇遊師。太ももの筋肉が痛むのだと。
嘘だと思いますが。

上方のほうは、お伊勢参りの帰途、三十石船でもって姫路の人なら皿屋敷知ってるはずと訊かれたという。
お伊勢参りは、姫路から大坂に出て、奈良を経由して向かう。帰りは鈴鹿を超えて琵琶湖から京都に出て、淀川の下り舟に乗って大坂に戻ってくる。
もちろん逆回りもあったろうが、落語の「東の旅」のルートと同じだと思う。
行き帰りのルートが違うので、旅が二倍楽しめる。
三十石船は、森の石松でおなじみ。あちらは上りの船。

そして、上方落語によく登場するおやっさん、ひどく口が悪い。
姫路の人間は口が汚いというのが、関西における共通認識と思う。
姫路の人、すみません。米朝と、先代松喬が出たところだとフォローをしておきましょう。
ちなみに関東の人間はすぐ姫路の「ひ」にアクセントを置いてしまうが、ずっこけられる。平坦に読みましょう。

吉弥師は品がいいから、口の悪いおやっさんはあんまり似合わないね。ウケどころだし、東京落語との違いをアピールする部分だから抜くわけにはいかないが。
舞台は姫路だが、毎度おなじみの喜六清八が登場人物として登場する。
宿屋仇でも、兵庫の若いもんとしてこの二人が、源やんと一緒に登場する。

ほぼ同じ噺だから鳴り物でなんとかという吉弥師。でも、上手い人の噺は、同じでも気にならないものだ。
現に私、このオンエア何度聴いていることやら。

東西揃って、演技がどんどん極端になっていくお菊さんを「クサい」と表現している。
よく考えたら、世間ではあんまり使わない。落語用語みたいなもんだ。

アフタートークもまた楽しい。
東京の寄席の掟について語る吉弥師。
楽屋に入れず袖にいたら、鯉朝師経由で桃太郎師に叱られたという。つまり芸協の芝居である。
扇遊師は落語協会だが、上方の師匠が東京の寄席に出る機会、最近はほとんど芸協だと思う。
文治師など上方の師匠をよく呼んでいる。
瀧川鯉朝師は、毎年彦八まつりに出向いているぐらいで、上方落語家にはおなじみの人。

楽屋の掟の話を受けて、「大御所の座る場所が決まっていて、われわれは固まって」と話す扇遊師。
いまだに大御所の意識のない扇遊師になんだかグッときます。

お菊の皿をやるからといってお祓いはしないと両師。考えたことなかったね。
幽霊の噺というと、「応挙の幽霊」「三年目」「反魂香」などある。まあ、寄席で掛かるのはほぼお菊の皿だが。

扇遊師、この噺を「地噺」だと語る。
地噺とは、一般的には演者自身の言葉で語る噺を言うので、お菊の皿について言うことは少ない気がする。
だが、ギャグを自在に入れるという点で地噺っぽいのだろうか。

アフタートークの肝が、吉弥師が「試し酒」を面識のなかった扇遊師に教えを乞うた話。
試し酒はもともと新作落語なので、上方にはなかったようである。勝手にやっている人もいたようだが、きちんと教えを乞う吉弥師。
落語協会の二階で稽古をつけてもらったという。最近ずっとお休みしているが、黒門亭の会場である。
Apple Musicで扇遊師の試し酒を見つけたというのが面白い。現代では、プロの噺家もデジタル媒体で噺を知る機会があるのだ。
ちなみに扇遊師、いまだに携帯も持たないという超アナログ人間。数年前の情報だから今はお持ちかもしれない。
Apple Musicなんてなんのことやらだろう。
惣領弟子の扇蔵師も、真打昇進の電話が師匠から公衆電話経由で来たと言っていた。
吉弥師の試し酒、私よりずっとクサいと語る扇遊師。もちろん、お菊の皿を織り込んでの話。

というわけで、4日間の長編になりました。お付き合いありがとうございます。
師匠がたも、番組製作スタッフの皆さまもありがとうございます。

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1年後の特番はこちら(その5)

 
 

作成者: でっち定吉

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