池袋演芸場25 その3(すず風にゃん子・金魚)

笠碁/夏泥

夜席の高座返しは、先日末広亭で一席聴いた春風亭貫いちさん。

柳家勧之助「夏泥」

コロナ以降、プログラムなどわざわざもらわないので、この日の番組もうろ覚えである。もちろん、席を選ぶ際には見ているのだけど。
番組うろ覚えでいると、思わぬ人が出てきて楽しいのだった。
そんな真打が柳家勧之助師。私はらくごカフェの花緑一門会で聴くことが多い人。

先の小んぶさんについて。「たっぷり」と声が掛かって動揺したんですかね。3分早く降りてきましたよと。
勧之助師自身のマクラは、らくごカフェに桑田佳祐夫妻が現れた話。
先日、水曜ビバリーで支配人が語っていたのと同じ内容。だが、ラジオでは「桑田佳祐が客席にいても、お客さんは意外と気づかない」という話。
勧之助師が語るのは、「お客さんが最後方の桑田佳祐に気づいていて、高座を観ない」という真逆の話。
まあ、どちらでもいいけども。きっと、両方が真実なのだ。
桑田佳祐が聴きにきた演者、桂春蝶の名は出さなかった。「若手の会」だと言う。

演目は夏泥。この夏もたくさん聴くことだろう。
スタンダードな一席だが、尻上がりにウケが大きくなっていったのは立派だ。
泥棒は、チキン野郎である。それは大工に早くから見抜かれている。
泥棒が、大工に対して精神的優位に立てるのはただひとつ、刃物だけ。
だがその刃物を、「さあ殺してくれ」一発で封じられてしまう。もはや、武器のようで武器ではない。
あとは大工の思うまま。着物に縫い付けたまさかのときの現金まで持っていかれてしまう。
この噺の人間心理は実に面白いね。別に大工に恐喝されているわけではないのだが、心理状況が筒抜け。

すず風にゃん子・金魚

色物は漫才で、にゃん子・金魚先生。
この落語協会と漫才協会の誇るベテラン女性コンビ、池袋にだけは呼ばれていない印象がある。実際、久々なんじゃないかと思うのだが。
だからか、客席からバナナの差し入れもない。この時節だからかもしれないけど。
池袋の番組、非常に質は高いのだが、浅草とは違う意味で意外と偏っている。ちなみに、芸協の番組はそんなことなくて、落語協会の話。
そして、しばらく落協のとんがった池袋ばかり来ていた私にとっても、にゃん金は超久々なのであった。
ここばかり来ていると、寄席の真のトレンドがわからなくなったりすることもある。

にゃん金先生があまり池袋に呼ばれないのだとして、理由はわかる。うるさいからだろう。
ヒザは務まらないし。
しかし寄席で鍛えた目と耳で久々に味わったにゃん子金魚、すばらしい舞台でした。感動した。
金魚先生は、婆さんのくせに恥ずかしげもなくゴリラの真似をしてみせる。
客の常識と、舞台の上の漫才師との常識がズレていくことで、客は笑う。だが程度というものがある。
あまりにもぶっ飛んだ芸を見せられると、その大きすぎる常識の差に、すくんでしまうことだってある。
ステージの狭い池袋では特に、落語というわりとしっとりした芸を聴きにきている客が、ちょっといたたまれなくなってしまって不思議はない。
だがそこでにゃん子先生が、客のいたたまれなさが発動しないよう、さりげなく客のテンションを調整していくのだ。
最初は、なにこの派手な人と、客を代弁している。当初は普通の漫才。
だが、徐々に客と金魚先生の大きなテンションの差が大きく開いていく中、客を手繰り寄せて離れないようにしていく。
舞台を見る客のモードがどんどん変わっていって、異常なテンションについていけるようになるのだ。
これはすごい。
「ちょっとお客さん、拍手するならする、しないならしない。だめよ人任せにしちゃ」というツッコミの裏には、これだけの物語が隠れている。

狭い舞台を目いっぱい使うにゃん金。金魚先生は舞台の上手に寄りまくり。つくづく池袋って狭いなあ。
そしてお囃子さんと反対側、上手の格子をオリの柵に見立てて、ウホウホとゴリラ芸。
先週、ナイツ・ザ・ラジオショーのゲストに呼ばれていたにゃん子金魚。
金魚先生は東京に出てきたとき、幼稚園の先生だった。そのときの教え子が定年退職したそうな。
どんなババアだ。
婆さんだが体の手入れは怠らない。体が実に柔らかい金魚先生。

柳家喬之助「宮戸川」

続いて柳家喬之助師。この芝居は、さん喬門下勢揃いである。師匠は出ないけど。
さん喬師の三番弟子の喬之助師は、二番弟子の左龍師と交互。
番組をしっかり覚えていたら、この日が左龍師でないので残念に思ったに違いない。うろ覚えなのでまるで気にならないが。
私の喬之助師に対する認識はその程度。だが、この日の一席は見事だった。ステージを一段上がったのだと思う。
いっぱいのお運びで。なんだかハエまで入場してますがと挨拶。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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