続いて、代演の三遊亭楽八さん。円楽師の弟子。
あいにくこの人の過去の高座に、いい印象を持ったことがない。だからこの日も、出かけるのをやや躊躇したのだった。
元の顔付けの扇兵衛さんだって当たり外れは多いけど、でも愛嬌があるから聴いて損するとは思わない。
ところがどっこい。楽八さんすばらしい高座でした。
今日たまたまよかったという感じではなく、完全に一皮剥けたのだと思う。淀五郎のように。
過去の高座となにが違うだろう。まあ、端的に言って肚の持ちようかな。
どっしり構えるので、客が安心する。そして、この人面白いねと興味を持った客のほうが、演者の個性を味わいに乗り出してくる。
そう仕向けているわけだ。
円楽師は、育成上手だ。他の弟子にも、楽八さんのように数回目でいきなりハマった人がいる。
昨日いきなり代演を頼まれたんです。扇兵衛さん目当ての方います? いないですね、じゃ気にしないでやります。
そしてホームグランド両国寄席の、客席に立つ邪魔な柱について語る。円楽党の人は必ず語るね。
われわれクラウドファンディング(一猿さんがちょっと触れていた)とは関係ないですから。5%でも分けてくれるといいんですがだって。
希光さんから先日、You Tubeでやってる「raku-bang」というドラマ番組に呼んでもらった。ゲストの私は、借金が返せない貧相な男の役でした。
あのドラマ、脚本なしでやるんです、すごいですと希光さんを褒める。
いっぽう、一猿さんとは普段から接点がない。
なのでコミュニケーションを図らなければと思っていろいろ話しかけるのだが、反応が悪い。いつの入門なの、などいろいろ訊いたんですけど。
まあ、高座の前で集中してたんでしょうけどね。
袖から、着替え終わった一猿さんが、アニさん困りますよと顔を出す。違うじゃないですか。
まあ、飛び込んだ割にはスベリ気味でしたが。義務感で飛び込んできたのだろうが、こんなときの一言も大変だ。
マクラですでに、楽八さんにすっかり魅せられる。マクラも、毒キツめに変えていったのだろうか。
本編は、円楽師の得意な「寄合酒」かと思った。みんなゼニがないけど酒が飲みたい。
だが寄合酒と異なり、各自肴を調達してくる必要はない。兄貴分が、酒と木の芽田楽を揃えてくれる。ん廻しだ。
もともと寄合酒とん廻し(田楽喰い)は同じ噺の前後半だったらしいのだが、ムードは結構異なる。
この噺は、師匠のルートでもって、三遊亭小遊三師に教わったのではないか。芸協で聴くタイプの一席。
ん廻しの前には、謎かけも入る。
みっちゃんという男が、与太郎役。大きな声で話しかけないと反応しない。
鼻が詰まり気味で耳が聞こえないのだ。
このみっちゃん、ん廻しなのに「野菜の名前を言えばいい」と解釈して「なすびきゅうりトマト」。
それは小遊三師のものにも、上方の雀々師などのものにも必ず入っている。だが、このみっちゃんを、寄合酒っぽい冒頭で出しておく工夫は初めて観た。
与太郎節のみっちゃんが再度出てくるので、あ、アイツだ!と客の脳裏に思わぬ感動が生まれるのである。
しかも二度目の登場の際は、「喉が痛くて耳が聞こえない。言ったろ」。言ってねえよ。
東京のワイガヤ噺というもの、登場人物の個性は描き分けられないのが普通だが、この流れはすばらしい。
そして楽八さん、オリジナルの「ん廻し」を一つ入れていた(婚活ネタ)。やるな。
この噺のハイライトになる「先年神泉苑の門前~」は、小遊三師の言い立てと異なる。私がかつて覚えたのと同じ、えほん寄席のもの。
最近の若い噺家は、えほん寄席で言い立て覚えたんじゃないかなと思う人がチラホラいる。楽八師の弟弟子、未成年の楽太さんも、寿限無を師匠と違うNHK標準バージョンで言い立てていた。
40代の楽八さんが、えほん寄席を楽しみにしていたとは思わないが、でもそこから覚えたんじゃないかと。あるいはお子さんがいて、見せているのか。
ただし、東西どの噺家も「神泉苑」を「しんぜんえん」と言う。楽八さんはこれを正しく「しんせんえん」に替えて発声していた。律義な人。
実に楽しい一席。
苦手な噺家がいきなり好きになることもあるので、避けていてはいけないなと思う。
次から、楽八さんが顔付けされていたら楽しみになる。