神田連雀亭ワンコイン寄席32(下・笑福亭希光「マリオネット」)

トリの笑福亭希光さんも久々。昨年、浅草のアロハマンダラーズの芝居で聴いて以来。
だがその際は寝てしまいました。寄席の外で結構高座数を聴いてて、ファンなんですけどね。
浅草で初めて、見台とヒザ隠しを使う希光さんを見たのだが、連雀亭にはそのような上方落語アイテムはない。釈台はあるが使ったのを見たことはない。

時間を見ながら、マクラを長く振る。楽しいマクラの数々。
芸協らしく、希光さんはやがて漫談メインの噺家になるのかもしれない。
マクラではおおむね標準語で、上方落語感はない。

楽八さんにも出てもらった、raku-bangの話から。
つる子、ふう丈というメンバーで考えて、毎回ゲストを呼んでいる。
協会を問わず、どんな噺家がどんな芸風かは頭に入っているから、配役を考えるとすぐあの人を呼ぼう、になるのだそうだ。
借金が返せない男は、当初は柳亭明楽さんだった。線の極めて細い人だが、スケジュールNGで楽八アニさんになった。でも結果的に良かったと思うとのこと。

そのつる子姉さんから依頼され、先日連雀亭ワンコイン寄席の代演に入った。
つる子さんは大人気で、連雀亭はいつも満員。直前の代演だったので、つる子さん目当ての客が変更を知らずたくさん来るかと思ったら、開演後の11時38分までひとりも来なかったそうな。
遅れてやってきたひとりのお客さんを精一杯もてなしたそうで。
私、そんな目に一度遭ってみたい。3人とか中途半端なぐらいなら、ひとりがいい。
希光さんのような実力派でも、お客が来るとは限らないのが連雀亭。
その日の他の二人は、花ごめさんと、鯉丸さん。一番先輩の花ごめ姉さんが遠慮してくれて、500円を二人で分けたんだと。

それから披露目の話。希光さんは、新真打羽光師の番頭として寄席に入っている。
やはりコロナの影響で、披露目にしては少なめですとのこと。ぜひ来てくださいと。
もちろん私も行くさ。最後の国立になるかもしれないけど。
高座の最中、ずっとおでこにハエが止まっていて爆笑を取った小笑師の話から、「こしょうし」って言いづらいですと。
あと、「昇々師」も言いづらいって。
「しょうしょうし」と言っていると、頭の中に尊師マーチが浮かぶのだと。

短い噺なんですけど、ゆっくり喋れば12時半に終わるでしょうと本編へ。実際にはちょっとオーバーしていた。
なんと新作だ。この人から新作落語、初めて聴いた。
羽光師や成金の影響なのか。
古典派が無理に新作をやった際に生じる、変な感じはみじんもない。もともと新作派なんじゃないかとすら思うナチュラルさ。
しかも、エロ新作。さすが鶴光一門。鶴光師自身は、イメージと違いエロ落語はしないけどな。
ホワイトボードには「マリオネット」と書いてあった。

エロ新作なのだが、希光さんが語るとまったくいやらしくなく、それがかえって面白い。
いやらしい語りだったら悪いというのではない。羽光師ならたぶんいやらしいだろう。
だが希光さんはエロを混ぜつつ、別の目的を用意している。
手段としてのエロ噺。いやらしくなく語れる希光さんに、今日は心臓を撃ち抜かれた。
まあ、元来品のいい人なのだろう。
上方新作っぽい噺。希光さんは東京の上方落語だが。
私のイメージの上方新作とは、現実に足を付け、飛躍しないストーリーのこと。
落語は飛躍するほうが作りやすいのだが、よくできた噺には、飛躍の有無など関係ない。まあ、登場人物はかなり飛躍気味だったけど。

母子家庭の家に家庭教師が招かれる。
なぜか冷蔵庫には、オロナミンC、レッドブル、デカビタなどカフェイン系の飲料ばかり入っていて、家庭教師もオロナミンCをもらう。
小4の息子に勉強を教えようとすると、この息子とんでもないやつ。
うちのおかん、今日はノースリーブ。センセ、おかんがオロナミンC飲むとき、袖から脇乳(わきちち)見たやろと。
ほぼアイディアだけでできた噺なので、ネタバレはよしておきます。
マリオネットというのは、つまり悪魔のような息子が知恵を駆使して、先生を操り人形にするという意味なのだろう。
息子にそそのかされて、モテない先生が思わぬ行動を始めるという。

息子の造形、古典落語には絶対登場しない。非常に憎たらしい子供だが、噺の中ではとても楽しい子供。
それもまたすごいことだ。

地味な顔付けかと思ったらなかなかどうして、感動を覚える連雀亭でした。
この後、好楽師がトリの亀戸梅屋敷寄席にハシゴしようかとも思っていたのだが、満足したので帰途についた。

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作成者: でっち定吉

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