落語界の二刀流

「二刀流」がまたまた流行っている。
これだけ数年にわたり繰り返し使われ、しかしまったく陳腐化しないブームも珍しいのではないか。
ブームというか、ひとりのすごいアスリートが陳腐化させないというだけだけど。

大谷翔平の活躍を喜んで毎日チェックしつつ、オリンピックになると目の色変えて反対活動を始める人だけは、正直よくわからない。
まあ、今日はそんなテーマではありません。

二刀流ブームにあやかって記事を一本。
落語の二刀流ってなに? 多少はそんな人がいますよ。

まず、落語と津軽三味線の二刀流が林家ひろ木師。
よく師の紹介の際「二刀流」だって言うのだけども、津軽三味線はどこで披露してるのか、私は知らない。
太田家元九郎先生に師事したそうで、寄席の色物として顔付されれば真の二刀流なのだが。
昔はそんな、噺家のほうに席を置いて色物を務める人も結構いたようだ。
川柳川柳師だって、「ラ・マラゲーニャ」で売り出したわけで。
さらに時代をさかのぼると、ヘラヘラの萬橘とか、釜掘りの談志とか。
ステテコの圓遊、ラッパの圓太郎。よくわからないが珍芸四天王を並べてみました。

古典落語と新作落語、両方やる人も、二刀流と言う。
両方やる人は、新作派として扱われることが多い気がする。特に落語協会ではそうだ。
古典の比率のほうが高い人でも、そう言われるかもしれない。
柳家喬太郎師ぐらい大家になってようやく、両方やるイメージを持ってもらえるだろうか。
そんなキョンキョンも二ツ目時代、「いずれどちらかに決めたほうがいいよ」と様々な師匠から繰り返し散々アドバイスをもらったらしい。結局そのままで今に至る。

いにしえの落語芸術協会は、「新作の芸協」だった。先代古今亭今輔、桂米丸、春風亭柳昇などなど。
現在は別にそう呼ばれることはない。
でも、新作の芸協らしさは、「気軽な二刀流」が多いところにうかがえる気がする。芸術協会の場合、「新作もやるよ」という人が異様に多い気がするのだ。
「浅草お茶の間寄席」にたまに出演の際も、持ちネタからシームレスに新作を出す人が多い印象がある。
古典のほうが持ちネタに多いとしても、せっかくのテレビで新作を出す。そのことにこだわりがないのが芸協の師匠だ。
落語協会には、「新作もやる」人は少ないように思う。

故・桂歌丸師なんて、晩年は圓朝もののエキスパートだった。
だからバリバリの古典派なのかと思うと、二ツ目までは新作をやっていたのだ。
そして、新作を作ることの効能を晩年になっても語っていた。
ここからは私の解釈混じりだが、結局古典落語を極めるにしても創作力が必要なわけで、その能力を培うには新作の経験が活きるわけである。

落語協会のほうは、新作に見向きもしないバリバリの古典派が最初から多く、二刀流の噺家は不利益を被ることがある。そう思う。
彦いち、百栄、天どんといった師匠は実は古典にも力を入れていて、上手い。
でも、寄席に顔付けされるときは、新作に期待されているわけである。古典派の師匠が多いときには特に。
席亭に期待されていない古典落語を出すと、「うーん、古典か」と言われてしまう。
それにより、二刀流として歩んでいきたいのに寄席では新作派に固定されるわけである。それは仕方ない。
問題は、両方やっている人でも古典のほうに適性が高い場合があること。新作をやることの効能が、古典落語のほうで花開くこともある。
中途半端に新作に力を入れていると、落語協会では転向のチャンスを逃しかねないかもしれない。
桃月庵白酒師など、上手い時期に古典派に鞍替えできたようだが。
古今亭志ん五師など、新作で寄席に顔付けされているが本音はどうなんだろう。

東京落語と上方落語の二刀流という人が、レアだがいることはいる。
立川吉笑さんからだけは、両方聴けた。上方落語としての新作と、東京落語の古典「十徳」を。
林家たこ蔵師とか、鈴々舎八ゑ馬さんとかも二刀流らしい。両方聴いたことなんてないのだが。
三遊亭圓歌師は、東京・上方にさらに鹿児島弁を含めた三刀流。まあ、やってみたかったみたい。
こういう二刀流は、芸の幅を広げるということなのでしょう。

隅田川馬石師や柳家小せん師などは、その気になれば完璧な上方落語が喋れるだろう。いつもそう思っているが、やることはたぶんないけど。

他ジャンルを企画ものでやる人もいる。
柳亭市馬師は浪曲を、柳家三三師は講談を掛けたことがあったはず。
別に二刀流とは呼んでもらえない。市馬師は、歌手としては二刀流かもしれないけど。
稽古を付けてもらいに講談・浪曲の先生の元へ行く噺家は、結構いるらしい。

しょっちゅう池井戸ドラマに出ている、昇太師や談春師は二刀流? どうでしょうか。

作成者: でっち定吉

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