柳家花いち「死神その後」@らくごカフェ

連雀亭がハネたあと、わりと最近できた小川町のマクドナルドで仕事をしてから、徒歩でらくごカフェへ。
らくごカフェはほぼ満員。
いつも楽しい柳家花緑弟子の会だが、今日はイマイチ。
トリの花いちさんはいつものように楽しかったけども。

いきなりトークで始まる。
同じらくごカフェで開催された「くろい足袋の会」では楽しいトークがあったのだが、花緑弟子の会では初めて見た。
今日のメンバー、花いち、花ごめ、緑助だけでなく、坊主頭で私服の圭花さんがいる。
圭花さんは出番はない。この日は浅草ビューホテルで落語協会の寄合いがあった。
そちらに出席した圭花さん、歩いてきたらしい。
この後また、新宿まで歩いて小田急で帰るんだそうだ。

花いちさんの入るトークは、「大岡山落語会」「くろい足袋の会」で聴いたが、いずれも実に楽しかった。
それと比べると、この日のトークはグダグダ。
いったいどんな勝算があってトークを始めたんだろう。
圭花さんの発案で、花ごめ、緑助のふたりが花いちさんのいいところを述べていくという。しかしじきにネタが尽きてしまった。
内容、あまり覚えてないです。
花いちさんはとても面白いのだが、トークでは周りの回す実力あってのことだ。それがよくわかる。
ちょっと嫌なスタート。

今日のメンバー、花ごめさんと緑助さんはともに、2019年以来。
花ごめさんは「元犬」。
冒頭から、決定的に間違っている演出(プロに向かって「間違ってる」なんてよく言えるなお前は)。
人間になったが裸のシロが、口入屋の上総屋さんに「追剥ぎにでも遭ったのかい」と訊かれ、一瞬間をおいて「そうです」。
そんな馬鹿な。シロは絶対、嘘なんかつかないって。
元犬のシロは正直。上総屋さんか、奉公先の主人かが、面と向かって「お前は犬かい?」と訊いてやれば、いつでも「今朝がた人間になりました」と答えてくれるのだ。でも、誰もそう訊かないからハチャメチャなやり取りが続く。
そういう噺でしょ?
いきなり脱落。寝てしまいました。

次の緑助さんも、なんだかなという。
この日がどうというより、わかりやすく壁にぶち当たっている気がする。
宮戸川は、調子こいてやると気持ちよさが消えてダダすべりする。私の大好きなこの噺をな。
「締め出し食べちゃった」を長く引っ張るあたりから、もう気に入らない。
雷が落ちてお花を抱きしめる半公の頭上に、天使と悪魔が出てくるというギャグだけは面白かった。

先日池袋で聴いた柳家喬之助師の宮戸川、結構破天荒だったのだが、その巧みさが改めてよくわかった。
そしてこの日先に聴いた連雀亭の、三遊亭鳳月さんの偉さがよくわかる。ギャグに走らず古典落語らしく演じるのを心掛けることで、結果的に最速で開花するのだ。
噺家さんも、どう成長していきたいか、明確なプランニングが必要だと思う。
花ごめ、緑助それぞれ褒めたことだってあるのだけど。

というわけで、あまりいいところなく仲入り休憩。
もう、花いちさんに頼るしかない。今年初めて聴く。

花いちさん、この会に二ツ目として出るのもあと2回ですと。
8月31日の会は、緑君アニさんと二人で出ます。真打になったらもう、一緒の会はほとんどないと思いますのでぜひとのこと。
この柳家花緑弟子の会も、真打(おさん、勧之助)は年2回ぐらいしか顔付けしないルールがあるようだ。

トークでもちょっと触れていた「死神」のあらすじ紹介。サゲまで語ってしまう。
米津玄師が新曲「死神」を発表し、PVを末広亭で撮影したので、この日思いついたらしい。
今日は死神の後日談を話しますとのこと。
昨年11月、「くろい足袋の会」の席で花いちさん、マクラでその日の朝「福袋演芸場」の模様を語っていた。
死神の前日譚、本編、後日譚を一度に掛ける企画。そのために作った噺らしい。

ロウソクが消えて地獄に落ちた八っつぁん(名前、八っつぁんだったのか!)。
閻魔さまの前に引きずり出される八っつぁんだが、いよいよ刑を申し渡そうとすると、八っつぁんが消えている。
八っつぁん、葬式の最中によみがえってしまったのだ。かみさんが、死んでいた八っつぁんが握りしめていたロウソクに火を付けてくれたおかげ。
死神本編において、八っつぁんはかみさんとは別れていないらしい。
その後、ロウソクの火が付いたり消えたりする中、この世と地獄とを行ったり来たりする八っつぁん。
生き返っていればいいのに、閻魔さまになぜか会いたくなって、わざと火を消そうとする八っつぁん。
ロウソクを巡り、最初は消さないように、やがて消すためにかみさんと争う。

なぜ本編において八っつぁんがくしゃみをしてしまい死ぬ羽目になったのか、合理的な理由が解き明かされるのもナイス。

死神とは「生への執着」を描いた噺。なのにその続編において、「死への執着」をテーマにしてしまう花いちさん。
こんな噺はこの人にしか作れない。
「異なる世界を幾度となく行き来する」というのは、花いちさんの好きなテーマみたい。「鉄拳制裁」という新作と同じだ。

最後になんとか花いちさんで取り返したかなと。
続編と言いつつバカ新作なのだけども、「あり得ない欲望」を持ち込むことで噺のウソを吹き飛ばすという、見事なテク。

 

作成者: でっち定吉

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